関東主力と末っ子
「さっきからかなり不穏な会話をしてますけど、何が起きているんですか?」
「あー、どうしよっか……今回はレンちゃんを戦わせない事になったしいいよね?」
レンの問いにモモ達先達3人は立ち止まって短く合意をするとレンの方を向いて情報提供する。
「コトリやミミ位の経験豊富なベテラン以上でないと先手を必ず取られる位にちょっと厄介な敵がいるの」
「普通に警戒していても奇襲される初見殺し、多分一人前レベルの魔法少女を最も倒している敵だと思います」
「後は、私達近距離型魔法少女の天敵で安全に倒すなら得意じゃない中距離から削るんだけど損傷の修復が早くて面倒なんだ」
特に最後のミミの評価は本人の嫌そうな顔もありレンに強く刻まれた。
「ま、位置を捕捉して射線の確保が出来て長距離高火力戦闘が可能ならただの的なんですけどね」
「……別に私だって面倒なだけで倒せない訳じゃないしぃ」
しかし所詮は奇襲専門の一点張りであるためにきっちりと対処を知っていれば簡単な相手、とコトリは説明するがーーそれが出来ないミミは泥臭く戦うしかないので少し口を尖らせる。
「こればっかりは相性が悪かったと割りきりなさい、なんでも出来る万能なんてあり得ないのよ?」
やれやれ、とモモはミミを諭すがそれを聞いたコトリとミミが『それ、あなたが言います……?』と『あなたがそう言うのなら……』という呆れと諦めが混じった微妙な視線を送っている事には気づかなかった。
階段の側にあった非常口兼裏口から外に出てから少しの間奇襲がないか気配の方を向いて警戒をしていたモモは警戒レベルを少し下げて振り向いた。
「隊列はどうする? 私はレンちゃんの最低限の安全以外で手出しするつもりは無いからそのつもりでこれから指揮しなさい」
「それならオーソドックスに護衛陣形でーー先頭を私、2メートル後ろにモモさんとレンちゃん、更に2メートル後ろにコトリって事で」
モモの宣言を察していた為にミミは狼狽えず妥当な判断を即座に返し、異論は無かったモモとコトリは頷いて3人同時に歩きだした。
それに僅かに遅れてレンは追いかけて自分に与えられたポジションにつく。
「あの、この並び順って……」
「流石に分かるよねーーレンちゃんの予想通り、襲撃があるならミミが最初に襲われるね」
レンの少し心配そうにミミを見ながらの問いかけに内心をおおよそ察して隣を歩くモモが答える。
「それなら、偵察とか出来ないんですか? 前にモモさんが鳥の使い魔を飛ばして調べたみたいに」
「確かにそれが最善策、ここには私だけじゃなくコトリもいるから場所さえ分かれば危険を冒す必要は全くないよ」
「なら、どうしてそうしないんですか?」
レンの指摘にモモも安全に戦うなら最善策であると認めたが、ならば尚更訳がわからないとレンは疑問を口にする。
「どうしてって、妹の経験になる絶好の機会は潰せないからねーー私達が3人も揃って(この豪華メンバーで)出撃なんて訓練目的以外では悪戯でもまずやらない戦力の超一点集中、これ程安全に戦闘を見れる機会はそうそう無いんだから」
前衛、中衛、後衛の全てをエース級の戦力で固めてしっかり連携訓練をしたチームなどモモすら他では見たことがない。
しかし、レンはモモの説明を聞いてもやはり自分より年下の少女を矢面に立たせるのは気が進まないのか苦々しい顔が隠せていない。
「少なくとも敏捷性、物理防御力、痛覚耐性や勘の良さでも関東トップクラスの理想的な前衛を心配するなんて取り越し苦労だと思うんだけどなー」
「……モモさん、モモさん、やめて差し上げて。ミミは必死で警戒に集中しているけど、褒められて耳まで真っ赤になってる」
「ーー聞こえてるのよバカァ! そういうのは聞こえないよう小声で言うか直接言ってよ!」
特に声を抑えていた訳でもないモモとコトリの発言にミミは居たたまれなくなって振り向いて抗議した。
ミミは恥ずかしさから顔を真っ赤にして涙目になっていたので流石に空気を読んだモモとコトリは苦笑いして口を閉ざし、追い払うように手を動かして警戒に戻させて再び歩き始める。
「良いんですか、こんなに緊張感がなくて……」
「事実として誰か1人で何とでも出来る案件だから緊張するだけ無駄だしーーミミは初めての妹に良い格好したいのと姉からの視察と同格の身内から見られているからってちょっと張り切りすぎなのよ」
レンの質問にモモは軽く答えるが……レンは強豪校の部活でオリンピック強化指定選手の先輩とレギュラー争いをしているライバルに新入部員指導の手際を見られている様なもの、と受け取りそれは確実に緊張するでしょう、と理解した。
レンがそんな事を思っていた所にミミが立ち止まり、後ろに手を伸ばして止まれと指示を出したので一瞬叱られると焦ったがーー隣のモモがレンの腕を掴んで先程までの緊張感を感じない状態から気の緩みを即座に消したのを感じ取った。
ミミが緊張していたのは事実ではあろうが、何よりレンに緊張をさせない様に振る舞っていた配慮を止めたという方がしっくりとくる空気にレンは唾を呑む。
そして3人が足を止めている中、ミミが1歩前に進んだ。
踏みしめ、確認するかのようにゆっくりともう1歩踏み出しーー何もない。
更に1歩踏み出したその時、いきなり空中から伸びてきた触手のような何かをレンは裏拳で弾き逸らすと同時に叫んだ。
「転進! 走れ!」
レンはミミの号令と同時にモモが手を引いて後ろに走り出したので続こうとしたがその僅かな間にミミを無視して触手が2本両脇から迫り……。
「邪魔」
モモの小さな呟きでレンの身長を超えるほどに両側の地面が一気に隆起して触手を弾いて防いだ。
まだレンの未熟な事もあるが、現象をその目で認識してからようやくモモが魔法を使った事に気付くという隔絶した技量の差に驚きながら引っ張られ……10メートル程をあっという間に駆け抜けると5メートル程流して速度を落とし全員立ち止まった。
レンが振り返ると触手が現れた時と同じように何事もなかったかのように消えていき、残ったのはモモが魔法で隆起させた地面のみである。
「……いきなり襲われましたけど、何なんですか今回の敵は」
一先ず凌ぎきった事をレンは他の3人の様子から察して息をつくと問いかける。
「ローバー亜種、悪食とも言うんだけど……元々はローバー全体の通称だったんだけど、今はソイツの事を指す感じーーあと、大当たり」
「ローバー、ですか……悪食?」
実はレンも遭遇しうる敵の情報として資料を読んでいたのだが……こんなぶっ飛んだ生態は書いて居なかった。
「そ、多分まほネットで読んだだろうけどローバーは陸に生息するイソギンチャクみたいな感じのデモニアで、高さは1メートルから2メートルで触手は3メートル位の長さがある雑魚、って書いて無かった?」
モモの問いにレンは首を縦に振る。
「だけど生き延びて成長するとさっきみたいな空間跳躍攻撃をしてくる様な進化をする個体がいます」
「いや、それって結構関連性がない進化なんじゃ……」
「デモニアは別の世界から来ているし、私達も鏡界っていう空間的には繋がっていない異界に跳んでいるんだから今更じゃない?」
コトリが引き継いだ説明にレンが問いかけるとミミから解答されて反論できず押し黙る。
「さて2人とも、今回のは何メートル級だと思う?」
「5からあっても6メートル級かと、8メートル級なら最初の場所でも攻撃範囲だったでしょうし」
モモが問いかけるとコトリとミミが互いに目配せをしてミミが答えた。




