関東主力と末っ子
一人称を『俺』から『私』と変えた事で姿こそ最上輝一ではあるが、中身は関東魔法少女のトップでその場に揃った魔法少女の長女でもある魔法少女モモである事は全員が共通事項として認識した。
「なんでまたそんな姿に……」
「盲点をついたと言ってくれーー魔法少女は女の子、という全日本人の思い込みを利用した完璧な変装だっただろ?」
問題は完璧すぎて味方さえ気付けなかった事だが、と口を読まれないよう手で隠しながら問いかけてきた悠希へ自慢げに返答した。
「真面目な話、長女はかなり有名だからこんな風に堂々と昼間に活動出来ない。だから代理として動けるようにとか、正体がバレそうな時にその場から消えるにはこの位に意表を突く必要があるーー最近は携帯カメラも高性能だから手が抜けないしな」
自分の正体が伝わった事でモモは輝一としての口調に戻し、この変装を開発した経緯を口にしたーーするとお腹に響くいい香りが近づいてくる。
「お待たせしました、山賊焼きですーーご注文はお揃いでしょうか?」
「ありがとう、少し話し込んでしまってまだデザートを見れてないんです。決まったら呼びますね」
「はい、ではお決まりになりましたらボタンを押してお呼びください」
輝一と店員は短く会話して店員はその場を去り、輝一は山賊焼きと共に用意されたナイフとフォークを手にして早速食べやすいサイズに切り始める。
「後、臭いとかカロリーとか体面とかで女子が1人だと食べづらい美味しい物を食べても目立たない」
そう告げてから一口大に切り終えていた山賊焼きを口のなかに入れて何度か噛み……驚いた表情をしてしばらく噛んでから飲み込むと美味しい、と一言呟いた。
その姿は悠希に『その食欲を満足させる為に開発したわけではないですよね?』と思わせたが賢明にも口にはしなかった。
「良い匂いですね……」
「食ってみるか?」
そう口にしたのは真横で食べ始められた美森であり、別に分けることに抵抗のない輝一はそう返答する。
「良いんですか……?」
そう美森は訊ねると目を閉じて口を開けて待ちの姿勢になった。
輝一は無表情で山賊焼きを切って自分の口にいれ、再度切り始めた頃に美森は目を開けた。
「なんでくれないんですか!」
「何故に恋人でもないのにその食べさせ方をしなければならんのだ?」
抗議する美森に半眼になった輝一は疑問で返す。
「憧れです! 学校の友達にも自慢できます!」
「一応、外見は悪くない部類だと思うが中身は私だぞ……空しくないか?」
美森の力説に呆れながら輝一は一人称を替えて見落としているらしい点を突いてみた。
「出来事として嘘は言ってませんし、誰も真実はわからないじゃないですか」
「却下、彼に迷惑がかかると今後の協力を得られなくなる、そしてこれは出来立てで熱いから火傷しかねない」
交際関係の経験値でマウントの取り合いでもあったのか退こうとしない美森へ輝一はバッサリと拒否を示すと皿の上にナイフとフォークを載せて美森の前に滑らせる。
好きに食え、と行動で示されたに等しい美森は少し不服げに、しかし食べ物に罪はないと一口大に切って口の中に入れて皿を返した。
「あ、あの! この属性ってなんですか? 3人分の情報を追加されても変わらない項目なんですけど……」
空気が悪くなりそう、と敏感に察した華怜が話題そらしの為に動いた。
悠希はこれ幸いと乗っかり、美森は渋々と、輝一は『俺じゃなくて君らの長女の、だがな』とまだ言うか、とばかりの前置きをしてから話題に乗ろうとしたが悠希と美森の視線は輝一に向いていて観念して口を開いた。
「属性は考え方とか性格をざっくり示しているーー例えば思慮深いとかおしゃべりとか書いていくときりがなかったから3種3傾向として纏めた……らしい」
輝一はあくまで伝聞という建前は外せないのか面倒でも取って付けたかのように末尾につけるが、華怜は3種3傾向について思考を向けていたので気にしなかった。
「例えば末っ子の秩序・善の特徴は『善人』『責任感が強い』『疑うことをしらない』とかその辺で4女も同じ分類だから性格の不一致は無さそう、と長女は組ませる事にしたらしい」
その説明に華怜は納得したような声を出すと正面の美森を見てーー当然の様に隣に座る2人に興味を隠せていない視線を送る。
その無言の要求に美森と悠希は言葉に詰まる。
悠希にとっては自分の事なので気恥ずかしいし、長女の属性は聞こえが悪すぎるのに本人の前で説明しなければならないのだ。
いっその事、続きも本人に説明してもらえばいいと期待を込めて2人は輝一を見るが、必要な事は説明したとばかりに食事を再開しており我関せずの姿勢であり期待は出来ない。
「3女は中立・善、特徴は『冷静』『斜に構える』『和を尊ぶ』、だね」
だから悠希は悩みが少ない美森に出遅れた。
悠希はそのままモモのも言え、とばかりに目で訴えるが出し抜いた美森が従う訳もなく、他人の属性を教えあうという流れが出来てしまっていたので渋々空気を読んだ。
「……長女は混沌・悪、特徴は『自己中心的』『独断専行』『協調性がない』」
「!?」
「俺じゃなく君らの長女の話な」
その発言に華怜は勢いよく輝一を見るが、輝一は何故そんなに頑ななのかそう告げて食事に戻るかと思われたが隣に座る美森の方を向いた。
「そんな物差しより早くデザートでも頼め、早速姉妹の通過儀礼をするんだろ?」
「いや、その、そもそもなんで今日だってご存知なんです?」
美森は今日のメインイベントの為に万が一に備えて悠希にヘルプ要請をして末っ子の顔合わせ兼、最近何故か活動を活発化させて忙しそうな長女に手間を取らせない様に配慮して日時は教えなかったのだが……何処から情報が漏れたのか全部筒抜けのようだった。
「あのサイトのセキュリティ構築を誰がやったと思っているんだ? ネットから絶対に傍受されない仕組みも製作者本人は防げないのさ」
酷い話があったものである。
「あの、鍵付のチャットルームを使ってたんですが……鍵の意味って……」
「鍵の意味なら『セキュリティ担当以上の実力が無いと覗けない』っていう意味があるーーまあ、その担当は長女だから彼女が興味を抱けば無意味だね、うん」
本当に酷い話があったものである。
因みに通常、モモはそういう事をしないのだが今回は姉妹の通過儀礼で万が一が起きては悔やみ切れないので美森と悠希が連絡を取り合ったら全ログを後から閲覧出来る様に特別に細工をしていただけである。
流石に悠希と美森にとって信用していた機能が実は隠したい相手には完全に筒抜けだったという事実は想定外だったのかお通夜モードである。
流石に気の毒だったのか輝一は店員を呼んでオススメのデザートを3品注文し、それらが届いて食べ終わる頃には少しは気分が上向いた2人と奢られる事に恐縮気味の華怜を連れて会計を済ませると店外に出た。
そこから先の予定は計画した美森しか知らないので美森の先導で百貨店に入り、一階を素通りして奥の階段を踊り場まで昇って美森は真っ直ぐに腕を伸ばして華怜の方を向く。
「今回の目標は向こうのちょっと大きめの気配なんだけど、捕捉出来る?」
「はい、1つ大きめの気配がありますね」
美森の質問に華怜はその方向を見てから頷いた。
「オッケー、とりあえず行くのは『鏡界』までだからはぐれないと思うけど3秒数えるから一緒についてきて」
「え、でもこんな所で……」
「大丈夫、人通りが少ない階段だし人払いもして、この階段の直前で私たちを撮影するカメラは魔力の多い存在を撮せない様に細工済み……それじゃいくよ、3、2、1、今!」
美森は渋る華怜の思い付きそうな懸念を先回りして答えると有無を言わせずカウントを始めて鏡界へと跳んだ。
鏡界に飛び込んだ華怜が周囲を見ると既に美森と悠希は変身を終えていた。
即ち、美森は化学繊維特有の光沢を持つ膝丈の白地に桃色のラインが縦に2本入ったズボンとスカイブルーの生地で作られた袖口を桃色で染めたシャツを身に纏い、肘と膝は自転車競技でするようなプロテクターをした魔法少女ミミの姿に。
悠希は今まで身に纏っていた私服を足首まで届く長い深緑色のローブを纏う事で完全に隠し、鮮やかな若草色の魔女帽子を身につけた魔法少女コトリの姿に。
そして輝一は変身せずに気配のある方向を見続けていてーーよく見ると華怜以外の全員が気配のある方向に視線を向けていた。
「これは、流石に見学気分だと危険か……」
そう独り言を呟くと輝一の体が光だして輪郭位しか判別出来なくなった。
「おっと?」
「へぇ、成る程……」
そこから光が凝縮して小さくなるタイミングでミミとコトリは感心したような声を漏らした。
そして光が収まった時にその場に居るのは当然魔法少女モモ、髪を結んでいないのでスタイル・アヴェレージである。
「あー、窮屈だった……一応言っとくけど、2人が思っただろう『アガートラム』の解釈変更程度じゃない根本的に別の術式だからあれを弄ってやってみようなんて考えないでね?」
変な姿勢で体が凝ったとばかりに体を伸ばして首を回すモモは納得げにモモを見るミミとコトリに見当違いだと釘を刺し華怜の方を見る。
「何してるのレンちゃん? ここは敵地なんだからとっとと変身しなさいーーどうやらミミが大当たりを引いたから本当に危険よ?」
「待ってください、モモさん! まだそうと決まった訳では……」
「私は大当たりを引いた、としか言ってないのにその反応って事はミミもその可能性を疑っているんでしょ?」
その会話に危機感を覚えて華怜は魔法少女レンとしての姿に変身すると共に自分の武器であるサーベルを呼び出す。
「ほら2人共、末っ子だって準備をしているのだからここは今のところ安全地帯っぽくても武器も用意しなさい」
モモはミミとコトリに取るに足らない相手だからと油断をするな、と窘める。
ミミとコトリからするとこの過剰戦力の警戒網を突破して奇襲出来るような相手なら初手は回避しかないので身軽で居たかったものの長女の指示は絶対なので武器を呼び出す。
ミミの両手に手の甲と甲側の指の第二間接に装甲が付いた指貫手袋が装備されている。
コトリの前には譜面台から足を無くした様な物が宙に浮いていていて譜面台の上には赤いハードカバーの本が開かれて載っていた。
「あの、モモさんは準備なさらないのですか?」
「ん? ああ、『アヴェレージ』の長所は汎用性だから何か武器を持つと無意識でもそれに選択肢が縛られるから最初は無手と決めているのよーーそれと」
自分の事は棚上げ、とばかりに武器を用意しないモモにレンが問いかけるとそんな返答があり、モモは途中で言葉を止めると自身の左腿と腰を叩いた。
「全くの無防備ってわけでもないからね」
モモはレンにそう告げるとミミとコトリに顔を向ける。
「それで、倒すのは当然として続行する? 勇気と無謀を履き違えた事がある子だけど、既に痛い目にも遭ったし性格に難ありって訳でもないから2人で倒せば目的は達せられるとおもうよ」
「んー、今回の相手がアレならそれで良いと思いますけど、ミミは?」
「まあ、相手がアレならレンちゃんをけしかけるのは流石に恨まれると思います……やっぱりアレだと思います?」
そんな不穏な会話をしながら3人は方針を固めて歩き始めてその後ろをレンが付いていく。




