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3女と末っ子

「これでよし、緑の線は私が3ヶ月位まえに評価を受けた最新のやつだから」


 そう告げると悠希は座り直して自分のスマホの画面をスワイプしたり時折タップしてじっくりと見ている。


 華怜のデータはそこまで重要ではないだろうから見たかったのは美森のデータだったのだろう。


 ある意味で情報交換のダシに使われたようなものだが腹が立つような事はなく、華怜は自然と画面に視線を戻した。


 追加された緑の線は美森を表す赤い線と同じく5か6を通るが美森より6が若干多く、2人の評価を更に良く見ていくとが片方の低い評価は片方が補うように高い傾向があった。


 具体的には悠希は近接戦が4評価なのに対し美森は9と高い、逆に美森は中距離戦が5、遠距離戦が4と低めだが悠希はそれぞれ8、7と高い。


「このデータを見る限り、2人が組むと隙が無さそうですね」

「そりゃそうだよ、私達は姉さんから互いが苦手を補えるようにきっちり仕込まれたからね」


 華怜の感想に答える美森は得意気で、今も画面から目を離さない悠希も同意するように口の端をあげている。


「そういえば、悠希さんが3女で美森さんが4女なんですよね……次女の方ともお会いしてみたいです」


 ただ、華怜のその発言で2人は焦ったように体を捻って店内を確認し、息を吐いた。


「それ、姉さんには絶対言わないで……私達も会った事はないよ」

「次女は私達と入れ替わるように居なくなった、これで察して」


 つまりは命を落とした、という事だ……華怜もつい先日死にかけたのでそれが冗談の類いではない事は分かる。


 空気が重くなり、救いと別の話題を求めるように華怜は顔をあげ、ビクッと震えて固まった。


 その反応に2人も華怜の視線の先を追い……美森は同じ反応をして固まり、悠希は訝しげだーーそんな3人の視線を集めながらその人物はボックス席へと近づき……。


「なにやってんだお前ら、目立ってるぞ?」


 茶色の封筒を片手に最上輝一が声をかけて空いていた最後の席に当然のように座った。


「なんか空気が悪いな……あれか、初対面の女性が3人集まれば仲良くなる優秀な話題は共通の知人の悪口だって聞いた事がある」


 輝一の正面に座る悠希が警戒心を隠さず、残りの2人は焦った表情で視線を合わそうともしないのだ、乏しい知識の中から該当しそうな状況を見つけると特に気にしてないぞ、と示すように茶封筒をテーブルに置いて手を伸ばしてメニューを掴む。


「その2人は素直だから盛ったとしても1割くらいだから事実無根じゃないぞ、と長女は言うと思うぞ」


 そう言って至極マイペースに店員呼び出し用のスイッチを押す。


「ここの山賊焼、美味しいらしいですよね? それを1つとドリンクバーはっと……あれ、まだ頼んで無かったのか、それじゃ2つ」


 店員が来てから輝一はメニューの確認もそこそこに注文を始め、途中に机の下に差し込まれた伝票を確認すると悠希がまだ頼んでいないのを知って追加してメニューをデザートのページにしてテーブルに置く。


「それとデザート位は出してやるから好きに選べーー決まったらまた呼びますので今は以上で」


 そう言って輝一は注文を一度閉めると店員の復唱を聞いてから真っ直ぐ座った。


 しかし、輝一の奢り発言は場の空気を改善する一助にはなっておらず空気は依然として悪いままである。


「あなた、誰?」


 悠希の端的な問いに輝一はそのまま美森の方に顔を向けた。


「言ってなかったのか?」

「こんなに早く来るなんて思ってもみなかったんです……」


 輝一に追及されて小さくなる美森の姿により警戒のランクを上げる悠希に輝一は肩を竦める。


「仕方ない、こういう感覚は美森の方が優れているしな……美森でも気付けなかったのなら悠希ではもっと難しいか」


 その輝一の物言いにムッとする悠希の前で輝一は手首に巻かれたリボンをほどいてテーブルに置いた茶封筒の上にのせる。


「俺が誰か、という問いの答えが欲しいならこれが答えになるーー少なくともエース級の2人が貰った物よりずっと手の込んだ代物を持っているのは特例の相手か作った本人位だと思うよ? とりあえず置いていくから信じられないなら調べてみな」


 輝一はそのリボンを見た途端にまさかという表情をした悠希にそう告げてドリンクバーへと向かっていった。


 そして悠希は輝一が背中を向けた瞬間に素早い動きでリボンを鷲掴みにして自分の手中に納めて片端を両手で摘まむともう片方の端に向けて片手を滑らせてざっと調べる。


「ーーVer.9.6.1……!? 私達のはVer.7.3.3と4でしょ!? やっぱりあれの更に上の代物があったのね!?」

「ちょっと悠希! 私にも貸して!」


 悠希がリボンを調べた結果を驚きのあまり口にすると美森が身を乗り出し手を伸ばして要求するが、滅多に見ることの出来ない『長女』の研究成果を手にした悠希の耳には全く届いていない。


 そのため悠希は決してリボンを美森に渡そうとせず、今度は目を閉じてもう一度リボンの端を両手で摘まむと今度はゆっくりもう片方へと滑らせていき……全体の5分の1程度まで進んだ辺りで席に戻ってきた輝一に取り上げられた。


「調べていいとは確かに言ったけど、解析してもいいとまでは言ってないよ……と、長女なら言うだろうな」


 輝一は油断も隙もないとばかりに、リボンを急に取り上げられた為に咄嗟に取り返そうと手を伸ばした悠希へ告げると、取って付けたかのように長女の言いそうな台詞という体裁にしてリボンを今度は美森に渡す。


「ドリンクバー、とりあえず取ってこいーーそれと美森は……仕方ない、悠希と同じ位までなら調べても良い、と長女は言うかもな」


 輝一は悠希にそう指示を出すと美森に少し悩みつつも許可を出し……やはり、取って付けたように長女が言いそうと付け加える。


 悠希は指示された通りにドリンクバーへと飲み物を取りに向かい、適当に氷をコップに入れて直ぐ近くにあったオレンジジュースを入れて戻った時には既に輝一の元にリボンは戻っていた。


「あの、ちょっと手を出してください」

「ん? どうぞ?」


 悠希は席に戻ってから右手を出して輝一に要求し、輝一はその要求に応えるように手を伸ばすと悠希はその手を握った。


「……直接触って全力で調べてるのに、なんで別人としか思えないんですか?」


 物証(リボン)が目の前にいる輝一の正体を告げているのだが、美森ですら気づかなかったという発言に触発されて悠希は頑張ってみたものの……正体を確信した状態でも一切正体を暴けなかった事に感心を通り越して呆れたように問いかけた。


「専念していなかったとは言え、7年も()が改良を続けてようやく完成した力作だぞ? ……まあ、途中から凝り性が顔を出した気がしないでもないな、うん」

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