4女と末っ子
遅くなって申し訳ありません。
その後はトントン拍子で進んだ。
その日の放課後にサキから華怜にまほネットで行うチャット会議について時間調整連絡があり、夜8時にゴールデンウィーク中に華怜が世話になる魔法少女ミミと少し話をした。
集合場所と持ち物、そして身につけるものとしてモモから与えられたリボンは必ず見えるよう互いに着けて来る事を確認するとそれ以上の雑談は殆ど無く終了した。
どうやらミミはモモから今朝いきなりこの事を丸投げに等しい形でお願いをされてしまい、近場の掃除をして危険がないよう受け入れ体制を整えないといけないとの事だった。
その掃除が文字通りの意味ではない事は分かったので華怜はご迷惑をおかけする事を謝罪してから挨拶を交わしてチャットは終わった。
そして次の日の昼に外泊許可が降りている事を担任教師から伝えられた。
直前にならないと許可は降りないと思っていた華怜は一緒に回りから見られないよう封筒に入れて返却された診断書に何か仕込まれていたのかと疑う程だったが、担任教師の頑張りと診断書の威力が凄かったらしい。
何しろモモの影響力を何もせずに享受出来ていた学園がモモの善意のお願いを拒否など出来ない、と政治力が働いたらしい。
モモにそっぽを向かれて学園の制服を着ないといったかなり軽いレベルのネガティブキャンペーンでもされたら世間からどう見られるか分からない、との事だった。
それから数日が経ち、ゴールデンウィーク初日に華怜は約束の時間に指定された駅前についていた。
服装は華怜なりにTPOに配慮し私服だったが、観光地や行楽地に向かうような清楚な服装に部活で合宿に行く際に使っていたゴツめのスポーツバックを足元に置く、というミスチョイス。
キャリーバッグを持っていたのだからそちらにすれば良かったのに、合宿という単語が華怜からその選択肢を奪ってしまったようである。
1人で駅前で待つ華怜にチラチラと視線が向けられるが、大きなバックがナンパ等の面倒事をブロックしている事を思えば地味に役に立っているのかもしれないが。
「!」
まっすぐ前を向いて待ち人の接触を待っていた華怜は突如放たれた魔力に敏感に反応し顔を横に向けーー1人の少女と目が会った。
その服装のままランニングやショッピングに行ったとしても周囲から浮かない清潔な印象を与える涼しげで活動的な格好の少女は華怜が気づいた事で近づきながら首を横に振り、その反動で長い髪を一纏めにしていたリボンが華怜にも見えた。
それが少女からの身分証明の要求だと気づいた華怜は足元のバックを掴むため前傾姿勢をとってから持ち上げーー周囲からも自然に見える流れで自分の髪を纏めているリボンを少女に見せた。
「お待たせ、それじゃ付いてきて」
少女は華怜の側に近寄って顔見知りの様に片手をあげて挨拶すると言葉短く指示をだして自分が来た方向へ踵を返して歩きだし、華怜はそのあとを付いて歩く。
少女の先導で進んでいくとバスロータリーがあり、そこで乗車中の列に並んで乗り込むと、空いていた最後尾の5人席に並んで座った。
「とりあえず、私がこの前チャットしたミミです。あなたが新人さんって事で良いのね?」
バスの発進時のエンジン音に紛れさせてミミは華怜に最終確認をした。
確認が遅い、と思われるかもしれないが魔力に反応しモモ謹製のリボンを持つ別の少女が偶然約束していた場所に現れる確率なんて無視出来る程小さいので自己紹介ついでの確認で十分なのである。
「はい、私がレンですーー本名は」
「シッ! 詳しい話は後3駅先のジムに到着してから」
いくら人の少ない運転中のバスとはいえ、迂闊に個人情報を話そうとした華怜にミミは自分の唇に人差し指をたてて発言を遮ると華怜が首を縦に振るのを確認して黙って前を向いた。
目的のバス停に停車してから2人は立ち上がり、ミミが自分の後ろで華怜が財布をだそうとしていたので交通系電子マネーで華怜の分も払うと運転手に宣言して支払いを終えて2人でバスを降りると他に降りる乗客はいないのか直ぐにバスは発車した。
「運賃を払います、160円でしたよね?」
「それもジムで聞きますから今は行きましょう? ついてきてください」
年下に奢られた華怜はバックから財布を取り出して支払おうとするが、とりあえずジムについてから、とミミは押しきって歩きだした。
2分程ミミの先導で華怜は黙ってついていき信号のある交差点を曲がり、少し歩くと目的地のジムはあった。
二階建ての建物で一回は道路に面した側がガラス張りで中央のリングやサンドバッグなどの器具が置かれているのが外からでも見えたーーしかし、入り口には本日臨時休業の札がかけられている。
「おとうさーん! ご予約のご新規さん案内してきたよー!」
ミミはその札を無視してドアを開き、華怜を招くように開けたまま奥の部屋にいるであろう自分の父にそう伝えた。
「え!? お父さんって」
「そういえばまだ名乗ってなかったでしたね? 私はこの加賀ボクシングジム代表の娘、加賀美森ですーー早く入って入って」
そう言って美森は華怜を急かした。
ジム内に入った華怜はズンズンとジム内のドアに向かって進む美森のあとを追いかけ、美森がドアにつく前に開かれて1人の男性が現れた。
身長は170センチ後半程で髪の毛は短く、鍛え上げられた両手両足は太い……そんな人物がスーツを窮屈そうに着込んでいた。
「お前の声量なら叫ばんでも十分聞こえる……それで、あなたが?」
「本日からお世話になります宝槍院華怜と申します……よろしくお願いいたします」
「加賀浩二です、よろしくお願いします」
華怜は荷物を置いて頭をさげ、浩二もまた挨拶を返した。
「今回は災難でしたね。そしてあなたがその事で苦悩してしまうのは当然の心の動きでーーご存知かもしれませんが、ここの会員にはあなたと同じ境遇の方が沢山通っています」
「え? あ、はい」
浩二は今まで何度もやってきたモモからの紹介であるため告げる言葉に淀みはないーーむしろ華怜の方が戸惑っているが気にしない。
「そこの私の娘もまた同じ経験をしていますーー辛いときには弱音を吐いて構いません、あなたは1人ではないのです」
「あー、お父さん? その辺の話はとりあえず荷物置いて落ち着いてからでも良くない?」
そんならしくなく緊張して余裕の無い浩二に娘の美森が待ったをかけた。
「いや、しかし……」
「やっつけでやっていいことじゃないでしょ? この後の事で気もそぞろなのは分かるけど、それじゃお父さんを頼ってくれる2人に失礼でしょ」
そう娘に諭され、浩二は苦笑いしながらお腹を押さえた。
「それもそうだな……あの人はいつ来るんだ? 正直お腹が痛くてたまらないのだが……」
「やめてよね、仮にもセラピストが緊張で腹痛とかーーゴールデンウィーク中って言ってたからいつもなら今日の午前中、それも早すぎず遅すぎずな時間じゃない?」
どうやら加賀親子は華怜以外に待ち人がいるらしく 、その人物が大雑把な約束をしたせいで浩二の腹痛の原因になっているらしい。
「あの、先方にお時間をご確認してはいかがでしょう?」
「あの人は多忙で気にかけて予定を組んでくれるだけでも有難いのーーお父さんはお茶でも飲んでリラックス、華怜さんはこっち」
側に居た華怜からの至極真っ当な案を美森は却下して浩二をドアの向こうに押し、華怜を急き立てて誤魔化した。
美森は浩二をドア向こうの廊下の途中にある一室に押し込むと廊下の更に先にある階段を上っていく。
「やっぱり時間は聞くべきですよ、スーツを着て待っているくらい重要な話なのに時間が決まってないなんておかしいです」
「それは普通ならそうなんだけど、相手がモモさんだからね」
先を進む美森を華怜は追いかけて階段を上りながらそう主張すると、美森はそれをしない理由を明かした。
「え!? でも、なぜ……」
「華怜さんはモモさんの紹介だからね、他の人の時も大体初日か次の日には挨拶に来るのよ……何人かは外出すら難しいからってその人の自宅からエスコートしてきた事もあったわね」
更新が仕事と両立して定期的に出来る人って凄いと思います、かなり大変。
次回はあの人がやってきます。




