プロローグ-4-
2人からの返答に安心したのか華怜は膝から崩れかけ、巴が慌てて支えた。
2人の仲が良い光景を目にしてからモモは倒れている青年達の1人の体を探って携帯を取り出すと電話を掛けた。
「あ、事件です事件。それでなんですけど、申し訳ないのですが偉い人――警視総監辺りにつなげてもらえると話が早いんですが、お願いできますか?」
モモは繋がるとオペレーター相手に一般的ではない要求を突きつけた。その会話に少女達はモモの方を見ると、案の定悪戯か何かと相手に思われている様だった。
「いえいえ、悪戯ではなくてですね? 私です私、ってオレオレ詐欺でもなくてですね? あー、うー、仕方ない、私はモモなんですけど……はい、その魔法少女のモモであってます、はい――いえいえお気になさらず! いきなりこんな事お願いしたこっちが悪いのですし」
モモはオペレーター相手に何とか信じてもらおうと相手に見えないのに手足をパタパタ動かして、諦めて自分の名前を伝えるとあっという間に向こうの態度が変わったらしい、今度は恐縮してペコペコ頭を下げた。
「それで、警視総監をお願いしたいんですけど……え? 私の名前で取り次いではもらえると思うんですが――分かりました、えっとですね、デモニアを倒した後、たまたま女の子を大勢で追いかけているお兄さん達を見つけて割って入ったんです。そしたらお兄さん達が悪そうと分ったのでとりあえず1人残らずやっつけたんですよ」
モモは改めて警視総監につなげてもらうように頼むと状況の説明を求められたらしくモモは軽く概要を話し始めた。
「それでこの事件、私にも関わりがあるみたいでしてね? 前に誰にも迷惑をかけないよう表に出ないように動いて結果だけを政府にあげて後を任せたら、公安と外務省と防衛省と総理から怒られて――あ! これ言っちゃいけない奴だった! お願い忘れて!」
緘口令を敷かれていたのを忘れていたのかモモはポロッと愚痴ってしまい慌てて取り消すも既に遅い。オペレーターはこれ以上聞きたくないとばかりに警視総監に取り次いだのかモモはしばらく黙ってから繋がったのか口を開いた。
「あ、お久しぶりです、お元気ですか? ――え? いやだなぁ、今回はあの約束通りに連絡をしただけですって。まあ、実行犯は全部捕まえちゃいましたけどこれもセイトーボウエイってやつで……え? 今後は分かりませんが今はちゃんと全員無傷ですよ? マネージャーと尋問する前に折角の情報源に余計な事をしたら私が怒られちゃうもん……さっすが、警視総監! 話が分かる!」
先ほどのオペレーター相手と違い、本当にモモと警視総監は知り合いらしく相手から言われたらしいお小言と確認にモモは砕けた口調で返答した。
マネージャーという人物と一緒に尋問する事を決定事項の様に語るモモに巴はマネージャーに心中で怨嗟の声を上げるが警視総監は諦めているのか取り合わなかったらしくモモに望みを聞いたようでモモはつらつらと要望を口にした。
「それじゃ遠慮なく。15人のお兄さんを捕まえて連れていけるだけの戦力と輸送用の車、現場検証とかいるならその人たちと被害者2人を家に送ってほしいから女性の警察官と、うーん、覆面が良いけど無理ならパトカーでも――あ、私も途中まで乗せて欲しいからそのつもりで用意して? 後、調書だっけ? それが必要ならその場で2人にはとって、今後彼女達に関わらせない様に配慮をお願い。他にあるかもだけど、詳しくはマネージャーが電話するからそっちで話し合って……分かってます分かってます、それじゃオーバ……え? 場所? 東京――広すぎ? ちょっと待って」
こういった状況に対応できるようにマネージャーが事前に準備していたのか次々と要望を出していき、電話を切ろうとすると場所を聞かれたのか思い切り大雑把に伝えてダメだったので一度携帯から顔を離し少女達の方をチラリと見た。
「あ、原宿です」
「そう、ありがとう――原宿だって、工事中の建物みたい。解体作業中なのかな? それで何とかして? ……いや、だって、私がやる事ってここが埼玉だろうと横浜だろうとおんなじだもん、たまにナンバープレート見て場所を把握すれば問題なんて……もー! わかりました、以後気を付けます! って逆探知とかで場所は探れるんでしょ!? いつまで待てば――え? もう終わった? もう! オーバー!」
巴がモモの要求を察して瞬時に場所を答えるとモモが伝え、警視総監から何かを言われたらしくモモが言い訳を口にした。しかし旗色が悪いようで結局恥ずかしそうに怒りながら何かを約束し、話題を逸らそうとして逆探知の事を話したが既に終わったことを知らされて顔を真っ赤にすると一方的に通話を切った。
それでもモモの気が治まらなかったようだが一度鼻を鳴らして落ち着きを取り戻すとモモは携帯の電源を落とし、左手の人差し指を1本立てて携帯の上を横に滑らせた。
「洗浄」
その言葉と共にモモの両手と携帯が石鹸の泡のようなきめ細かな泡に包まれ、モモがその状態で携帯を持ち主の上に放り投げると携帯が空中にある間に全ての泡が消えて携帯は持ち主の上に落ちた。
「後は、警察にお任せでよしっと――さてと、ここにいると2人の気分が良くないでしょ? 下の階に行かない?」
その後、モモは髪の色を桃色から黒に変えて2人に話しかけた。
3人は1階の入り口まで降りて5分程話しながら待っていた。といっても巴はいざ話そうとなると緊張して押し黙ってしまったので華怜が基本話し役だった。こんな機会はめったにないのにもったいないと華怜は思っているとふと自分が持っているには過ぎた代物について思い出し、髪をまとめていたリボンを解いた。
「あの、これは多分モモさんがあの男の子に渡していた物ですよね? このリボンのお陰でとても助かりました……本当は私が感謝の気持ちを込めてお返ししたいのですけど、私たちはお互いの名前を聞き忘れてしまって探す方法がありません――モモさん、彼のことをご存知でしたら私たちが助かった事ととても感謝していた事を伝えてお返しして頂けませんか?」
そう言って華怜はリボンを折りたたむと両手に乗せてモモへと差し出した。
モモは差し出されたリボンを見て信じられないといった表情を華怜に向けると真剣な表情をした。
「……いいの? 気づいていると思うから言うけど、それは私に危険を知らせて助けを求める以外にも持ち主の命を守るために色々な魔法を込めた特別なリボン――作るのがかなり面倒な魔法の道具だから私からプレゼントされないと多分2度と手に入らないよ? 手放して、後悔はない?」
「それは……」
モモにそう問われ、華怜は一度迷うように俯くと顔を上げた。
「後悔はあります、本当は私が直接お返ししたいです。ですけど、これは予備だって言っていました――私達はもう安全です、どうかお願いします、これは彼にお返ししてください」
そう正直に華怜は答えると、迷いを振り切るようにモモへ頭を下げた。
「――そっか、そう言うのなら私が責任をもって返すよ」
「ありがとうございます!」
華怜の様子を見て、モモは嘘がないと判断してリボンを受け取って胸ポケットにしまうと華怜は顔を上げてもう一度モモに頭を下げた。
「それじゃ、後ろ向いて?」
そのモモの言葉に華怜が顔を上げると好意的な笑みを浮かべたモモの顔があり、モモが早く早く、と華怜を急かしてくる。
華怜は前にも似たやり取りがあったような……と思いながら求められるまま背中をモモに向け、モモは鼻歌とともに空中から先ほど返却された物と見た目が変わらないリボンを取り出した。
「女の人や子供は助けて欲しいときは助けを呼ぶ権利がある」
「――モモさん!?」
「こら、急に動かないの」
そうモモが告げた事で華怜はリボンをもらった時と同じ状況だと気づいて首を動かして止めようとするが、モモは華怜の顔を両手で抑えて前を向かせる。
華怜はそわそわしているがモモは気にせず華怜の髪を一纏めにしてリボンを結ぶとやはり華怜が男の子からリボンをもらった時と同様に両肩を押して結び終わった合図をした
「どうしようも無いときはそのリボンに強く祈ってくれれば助けを呼べる、そういう魔法がそのリボンにかけられているの」
「モモさん!」
「ちょっと待って、落ち着いて」
怒った顔をして華怜が振り返るとモモは両手を前に突き出して左右に振って弁明すると胸ポケットからリボンを取り出した。
「ほら、返してもらったのはこっち、いまあげたのは別のリボン……まあ、私の知り合いがとんでもない物を渡したからそのお詫びとでも思って受け取って」
「ですがモモさん、これって作るのが大変だって言ってませんでしたか?」
苦笑気味に告げるモモに華怜は首を傾げて問いかけるとモモは頬を指でかいた。
「それはあなたに彼が渡したのに比べれば込めた魔法の数が少ないし想定した状況も優しい物よ――そうね、例えるなら彼が渡したのを『出来れば二度と作りたくはない』位大変とすると今渡したのは『必要ならため息を吐いて作り始める』位には結構……あれ?」
「それって結局大変って……」
「こ、細かい事は気にしないの! ちょっとあなたの心が気に入ったから副作用を抑える以外にも奮発してあげただけ!」
語るに落ちたモモに華怜はツッコミを入れようとするが、モモは慌てて遮り押し切ろうとする。
「副作用……?」
「ええ、副作用――あのね? 落ち着いて聞いて欲しいんだけど、彼があなたに渡したリボンは起動させるとリボンが蓄えた魔力じゃ足りないから今あげた方と違って持ち主に魔力の供給を求めるの」
しかし、華怜に危険があると判断した巴が緊張から解き放たれてモモに問いかけるとモモは巴に同意して華怜の両肩に手を置いて説明を始めた。
「そう感じる感覚が備わっていないから気づかないだけで、あなたは使った事のない魔力をいきなり要求されて体も心も頭も驚いて結構疲れているの……それと、その状態はデモニアにとって魅力的なのか狙われやすい――だから、あなたのためにも落ち着くまでの間は持っていて欲しいの」
「それって、いつまでなんでしょうか……?」
思った以上に真剣な内容で内心震えながら華怜はモモに問いかける。
「この感じだと、長ければ明日の朝……!」
「……明日の朝?」
重々しく告げられた意外と早い日時に華怜は目を瞬かせる。
「リボンの魔法全てが起きた状態になったけど私への救難信号以外は幸い使われなかったみたいだから、その程度なら1晩寝て起きれば元通りだよ――不安なら初めて静電気がバチッとなって驚いた位だと思っていいよ」
「そうなんですか……良かった」
モモは華怜の両肩から手を離し、安心させるように笑顔で答えると華怜も巴も胸をなで下ろす。
「本当に迷惑かけてゴメンね? ただ、そういう副作用がある代わりにこのリボンでは最高レベルの救難信号しか出ない様に作ったから私が大慌てで来たの――だから許してね?」
「とんでもないです! おかげで助けてもらえたのならありがとう以外に言葉がないですよ!」
手を合わせて謝罪するモモに元々迷惑だなんて思っていなかった華怜は慌てて返答し、モモは少しホッとした様に胸に手を当てた。
「ありがとう、警察がもう少しで来そうだし最後に仕上げしないと――2人とも、ちょっと右手を広げてもらっていい?」
遠くからパトカーのサイレンが微かにモモの耳に届いたのであまり大勢に魔法を見せたくはないモモは2人に手のひらを出すように求め、2人はそれに従って手のひらを出すと最初に華怜の手を掴んだ。そしてモモは人差し指で華怜の手のひらに円を描くようになぞり、その円の中に五芒星を描き、最後に円の外側にもう一度円を描いた。
「これは、一体……?」
「これはね、1つ目は明日の朝までデモニアに見つかりづらい様に、2つ目は念のため落ち着きやすいように、3つ目は2人にかけてあげるけど、これは後で教えてあげる――次はお姉さんの番ね」
華怜にそう問われ、モモは2つ目までは説明したが、最後の1つについてははぐらかして巴の手を取り円を1つなぞると手を離し――丁度そのタイミングでサイレンを鳴らしながら警察車両が何台も現れた。
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