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エピローグー1ー

大変遅くなりました。

申し訳ありません。

 8日前にモモとレンが向かい合った駅ビルの屋上で落下防止のフェンスを掴みながらその少女は5分ほど前にたどり着いてから5分程じっと1点を見つめていた。


 少女の身長は140センチほど、腰まで届く長さの赤毛の髪をリボンで一纏めにしてポニーテイルにしている。


 化学繊維特有の光沢を持つ膝丈の白地に桃色のラインが縦に2本入ったズボンとスカイブルーの生地で作られた袖口を桃色で染めたシャツを身に纏い、肘と膝は自転車競技でするようなプロテクターをした本来立ち入り禁止の場所に居ることを除いても十分場違いな少女は肩から力を抜いて緊張を解いた。


「……随分と大暴れしていたみたいだけど、終わったみたいですね、モモさん(ねえさん)


 そう言って少女はスマホを取り出すとまほネットの裏側に直通する方法を使ってアクセスすると通話アプリで相手を選んで電話をかける。


「やっほー、コトリ? 今、モモさんが大体終わらせたみたいだけど、こっちに来るまでどれくらいかかる?」

「気配から考えると後10分前後? ミミ、あなたから見てどんな感じ?」


 少女の電話の相手はモモを追って現場待機しようと箒に乗るという古風な魔法少女像で空を飛んで向かっていた魔法少女コトリで、コトリは到着予定時間を答えると現地に先に待機していた魔法少女ミミに状況の報告を求めた。


「うーん、確かに気配はモモさん案件だけどかなり短期決戦を狙っているのかな? 結構派手に大盤振る舞いしてるみたい――さっき一気に気配が萎んだから今頃は掃討戦状態になったね」


 鏡界や『悪戯』の気配で敵戦力を分析する直感は何度も経験しないと身につかないが、ミミもコトリも魔法少女歴5年目のベテランであり、モモにその直感が正しいか答え合わせに連れ回され何度も大変な目に遭ってきたので直感の精度は互いに日本でトップクラスだと思っている。


「少し歯切れが悪いみたいだけど、掃討戦になっているみたいならモモさんの方にそう問題はないでしょう。それじゃ、私が到着するまで警戒をよろしくね」

「はいはーい、待ってるよー」


 そう言ってミミは通話を切って視線を戻すがその視線は少し険しい。


 一人前の魔法少女なら世界を隔てている境界や『悪戯』で何となく戦っている気配を察知できる――ただ、通常は気配の小さな揺らぎから察する程度なのに今回は明確に揺れたという規模の変化を何度か感じていた。


 ミミはモモが負ける等とは露とも思っていない。思ってはいないがモモが何らかの不測の事態で勝負を急がざるを得ない状況に陥ってしまった可能性は否定出来ない。


 むしろ()()()()()()()()()()()()()()()()()、と自分の安全は度外視して戦うモモの悪癖を知っているからその点が不安でならない。


 モモの妹達が直接お願いしたところでそれで今まで生き抜いてきたモモはまともに取り合ってくれないのである。


 信頼しながらもヒヤヒヤと待つしか無い妹達の不安を理解してほしい、と空中の黒い穴が消えるまでの間ミミは睨み続けた。


 そして黒い穴が消えるとミミは魔力を間隔を開けて2回放ち、魔力を少しだけ制御を甘くして周囲に滲ませる。


 『悪戯』で何かあって後始末中で応援が必要かの問いを込めての合図だが、モモから返答はない。


 すぐに向かう、という意味なのでミミはモモから教わった空間操作魔法にしまっておいた飲み物を渡せる様に取り出して待つと、ミミにとって慣れ親しんだ魔力が黒い穴があった方向から近づいてきてあっという間に駅ビルの屋上に現れた。


 特に怪我らしい怪我の無いモモの様子に巻き込まれた一般人の為に急いだんだろう、と考えてミミは口を開く。


「お疲れ様です、モモさ――モモさん(ねえさん)!?」


 しかし、モモは着地の際に衝撃を殺すために曲げた足を伸ばしきる前に力が抜けてしまったのかそのまま崩れ落ちてしまった。


 ミミは飲み物を放り出した事に気づかないほど慌てて駆け寄るとモモは右手で腹を押さえながら左手を突いて起き上がろうとしていたのを手伝ってその場に座らせる。


 モモの額に汗が浮かんで前髪が張り付き、荒い呼吸をしながら腹を手で押さえていることからミミは無理矢理モモの服を引っ張ってみるとモモの小さな手では隠しきれない程の範囲で紫色に変色していた。


「ちょっ、何があったんですか! どうしてモモさんの根源魔法(オリジン)を使ってないんですか!?」

「色々、あったの、それより、手……」


 ミミの問いにモモは億劫そうに答えてから左手を開いて少し持ち上げたので何がしたいのか理解したミミは右の手のひらをモモの左手に重ねる。


「『教授(ラーニング)』……これで、万が一は、ミミが、広めなさい」

「縁起でも無いことを! ――ああもう、コトリ早く……!」

「……リスクには、備えないと、でしょう」


 手のひらを合わせて情報共有の魔法でモモが受けた毒の情報を受けたミミは慌ててスマホから再度まほネットに接続して通話アプリからコトリに連絡しようとし、モモは小声で反論したがミミは慌てていたので気づかない。


「もしもし、何が……」

「急いでコトリ! モモさん(ねえさん)が毒を受けた!」


 『悪戯』の気配が消えて危機が去ったとホッとしていた所にかかってきた連絡にコトリは訝しげに受けると慌てたミミの大声が襲いかかった。


 耳がキーンとなりながらもコトリは受けた情報を咀嚼して――理解出来なかった。


「ちょっと落ち着いて、意味が分からない――モモさんが毒を受けたってあの人ならなんとでも……」


 コトリの困惑は当然である――何しろ、モモの根源魔法はどれほどの大けがであろうと、それが体の欠損であろうと無かったことに出来るレベルの回復魔法である。


 モモ曰く、()()()()()()()()()()、必ず生き延びさせられるとまで豪語した魔法の使い手本人がどうにかなるなどとてもではないが思えなく……。


「――なってないから連絡したの!」


 その信頼と実績の全否定にコトリは頭が一瞬真っ白になり――箒を最大出力でかっ飛ばす。


「意味不明! 私がつくまでモモさんを何とか保たせなさい!」

「どうやって!? だって()()()()は」

「医療行為! 偶にはこっちからしてやれば良いのよ!」


 コトリはミミの言葉に被せてそう怒鳴ると通話を切った。


 そしてミミは通話を切られたスマホを耳から離し――モモと目があった。


「死には、しない、のに、大げさな……」

「い、医療行為、ですので……」


 スピーカーから音が漏れて2人の会話を理解したモモはそう途切れ途切れにぼやくが、目の前には覚悟とそれでも押さえられなかった恥ずかしさから顔を赤くするミミがいた。


「私は、ヒーラー型、だから、あまり、効果は……なら、まずは日陰に――ここは少し、暑い」


 一応、遠回しに焼け石に水とモモは伝えようとしたが覚悟が完了したミミには届かず、仕方なく室外機のせいで風向き次第で暑くなるせいで少し不快だった場所の変更を求めて時間稼ぎをした。


 それから5分近く必要だった距離を2分程で辿りついたコトリはモモ達を確認するとまさしく矢のような速さで飛んでいた箒を逆さまにすると手を離した。


 重力に従って落ちる間に体を捻り、足から駅ビルに着地し――箒はあっという間に飛び去る。


 手を離せば自動的に持ち主の元に戻ってくる箒なのでコトリは気にせず屋上階段の建物の陰にいるモモ達の元へ駆け寄る。


 ミミは顔が赤いがアドバイス通り医療行為をしたのだろう、とコトリは判断してミミが上げた左手に右手を重ねる。


「『教授(ラーニング)』……ごめん、あまり効いてない」

「大丈夫――私だってきっと五十歩百歩よ」


 ミミは悔いるようにモモの現状を報告するが、無茶なことを言った自覚のあるコトリは慰めて横になっているモモの側に片膝を付く。


「みんな、過保護、なんだから……誰に、似たのやら……」

「モモさん、2つの意味で鏡を見ます?」


 コトリが側に寄ったことで目を開けて軽口を叩くモモだったが、顔色が青白い途切れ途切れでしか話せない取り繕う事さえ出来ていないモモにコトリは容赦なく言い返しながらモモの額と服をめくって紫色に変色した肌にそれぞれ手を伸ばして触れた。


「――ッ」

「この状況でやせ我慢とか見逃しませんので――なんで根源魔法を使わないんです?」


 腹部の痛みにモモは平気を装ってみるが、コトリは一瞬の強ばりを見逃さずに諦めろと釘を刺すと体の状況の確認が済む間に問いかけた。


「使ったの、末っ子に……かなり危険、だったから」


 モモは流石に観念して理由を話す事にした。


 モモがレンを救出した際にレンの体は毒に侵されていた。


 これが1人前の魔法少女なら耐毒魔法や解毒魔法で対処したり、あるいはデモニアと戦う内に自然と付いてしまう毒物への耐性で軽症化出来たりするのだが、残念ながらレンにはそのどれも無く、手遅れに近い状態だったので確実に助けるためにはその方法しか無かった。


「私以外、使えない、根源魔法(オリジン)、だから、言わなかったんだけど……アレ、私以外に使うと、しばらく発動しなく、なるの」


 強力な効果を持つが故の制約――正確には本来意図してない使い方を無理矢理した事に対するペナルティだが、そこまでは言う必要が無いとモモは2人に告げない。


「ただ、その毒は、珍しくて……つい、臨床試験、のため、受けてみた、みたいな?」

『何やっているんですか! モモさん!』


 出来心で、みたいにその体で毒を試してみたと供述するモモにコトリとミミの声がハモった。


 確かに愚行じみているが、全く意味が無い訳では無い。


 魔法少女達に広まっている耐毒魔法は言わば毒物専用の外付けの免疫機能のような代物で、その毒がどういう代物かを調べ、毒の影響を最小限に押さえる学習型の魔法であり、解毒魔法は字の通り毒を無害化させる魔法である。


 この魔法の仕様として共通しているのは、毒がどう働いて体を蝕むのか学習させる必要と本当に毒に効果があるのかを確認する必要があるため、どちらの魔法も一度は必ず人体実験を必要とするという点である。


 その人体実験は基本的にその毒を受けて生き延びた魔法少女が済ませ、後は情報を共有するだけなのだが――毒の情報だけを持ち帰ってくる事もあり、そういう場合はモモを含めた幾人かが毒を再現して人体実験を行い情報を共有している。


 モモがそんな危険な役割を担っているのは純粋に激戦の結果、毒物に対する高い耐性が出来ている点とモモの根源魔法(オリジン)が強力で万が一でも何とか出来るという点である――にも関わらず、だ……。


根源魔法(オリジン)が使えない状態で、万が一が起きたらどうするつもりだったんですか……!」

「目の前に新鮮な、毒があった、んだから、劣化する前に、使うべき、でしょう?」

「百歩譲ってもですよモモさん(ねえさん)、毒だけ出させて少量を後で試せば良いでしょうが!」


 実際毒を調べて大丈夫だと判断したモモと万が一の危険でも排してほしいと願うコトリとミミでは意見がなかなか一致しないのであった。

自分が一番リスクが少ないと危険を率先して受けるモモと1人に危険を集める必要は無いでしょう、と思っている妹たち。

まだ少し続きます。


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