22話
腱鞘炎が痛いです。
加筆が少なかったので投稿します。
「別に2人には縄張りを最低限守れれば好きにして良いと言ったし、私も維持が大変だからその事だけなら問題にするつもりはないけれど、貴女の行いは下の子達が見て真似るのよ?」
モモが危惧しているのは関東が余所と比べて魔法少女間の仲が非常に良いという点にある。
全員がモモの妹達で崩壊寸前の関東地方を供に立て直したという仲間意識もあるので連帯感も強いのだが、余所の地方と温度差があるのもまた事実である。
関東の魔法少女達が派閥争いの激化が要因となって壊滅してからは他の地方で『そういった確執は一端棚上げしよう』という堅実な対応が行われ、世代交代も進んで当時の確執はほぼ忘れ去られた――しかし、法律の及ばない魔法少女の世界では身を守る為に派閥はどうしても出来てしまい対立は生まれてしまう。
「関東の緩いルールのつもりで修学旅行とかの時に余所の地方に行って争いの種埋めて後の世代に確執を作ってもらうのは困るの――いくら仲が良い姉妹であってもケジメと形式は……一体何を笑っているのかなぁ?」
「ふぇ? はらっへまふ?」
特に当事者不在で改善不能となった確執が原因で今も苦労しているモモ姉妹の長女としては自分の後を実力で継ぐ事になる2人にはしっかりと言い聞かせなければと直接顔を合わせて窘めに来たのだが……コトリはシュンとして聞いていたと思ったら途中から笑顔が浮かんだのである。
どこに喜ぶ所があった、とモモはコトリの両頬をつまみ笑顔で怒りを隠さず問いかける。
すると完全に無自覚だったコトリは頬をつままれたまま顔をぺたぺたと触り確かめようとした――モモは自分と仲が良い事を示す言動は相手に対してリスクになると認識していて滅多にしないのでコトリは表情を隠すことも出来ない程喜んでしまったのである。
その反応から何となく察してしまいモモは少し顔を赤く染めながらコトリの両頬から手を離した。
「もう良いわよ、それで何の話だっけ――そう、実力が伸びて今の縄張りじゃ物足りなくなったんでしょ? 私の予想を超えて成長しているのは嬉しいから今度は報連相を忘れずに!」
「分かりました……それにしても妙ですね? 分かっていたのなら即座に言いに来るモモさんがこんなに伸ばすなんて何か――いえ何があったんですか?」
当然モモの顔が赤い事をコトリが見逃す訳もなかったが、そこを突いて弄っても3度目は仏様でも許してくれないのだからと賢明に記憶に残すだけにして――モモの両肩をつかんで聞くまで逃がさないと意思表示をしてからわざわざこんな昼間に呼び出した理由を追及する事にした。
「……まぁ、黙って進めるのは不義理だし2人には話すのが筋かな、自分で報連相を忘れずになんて言っちゃったし、後でミミにも伝えるから他の子達には私が話すまで黙っていて欲しいんだけどね」
モモは両肩にかかる力が強い事からコトリの聞き出そうとする意思が強いことを理解して言うか否か悩んでいた事を伝える事にした。
「実は私、魔法少女の卒業を考えてる」
「――! いつですか!?」
モモは自分の役目、次の世代へしっかりとバトンを渡すという重要な仕事を始めるとコトリの目を見つめて宣言した。
反応は劇的でコトリの肩を掴む力が更に強くなった――とはいえ無理もない、関東でモモの次に強いコトリとミミの2人が連携してやっと勝負になってきたエース、もはやジョーカーと言えるほどの最大戦力の引退は関東の魔法少女にとって大きすぎるのだ。
「落ち着いて、2年か3年位先の話……少し痛いよ」
「あ……ご、ごめんなさい」
モモが顔を僅かにしかめてコトリの腕を叩くとコトリは慌てて肩から手を離した。
「元々、関東を立て直すまでって言い訳をして私へ依存する事を前提に作ってしまった今の体制は直さないといけないとは思っていたの」
7年前の関東デモニア災害の後に魔法少女として戦い続けられるベテランはモモしか残らなかったため、最善の一手は例えモモが捨て石となってでも時間を可能な限り稼ぎ、他の若い魔法少女達が十分な力をつけるというか細いながら最も堅実な未来へと繋げる事だった。
「私は勝率だけなら99.9パーセント以上を保っているけど、大怪我をしながらの勝利だって両手の指じゃ足りない。私が常勝無敗で完璧なエース様だったら良かったのだけど、残念ながら今まで死なずにすんだだけだから……」
そこまでの覚悟をしたモモの最大の誤算は信頼していた姉達が生死を問わない形でリタイアしてしまい弱気になっていた残存の魔法少女達には『肉を切らせて骨を断つ』『死ななければ後で治す』と実力不足を血肉で補う様なモモの覚悟と姿が怖れつつも立ち上がろうとはした彼女達の心を怯ませ、へし折るのに十分な迫力が有ったという点だろう。
失敗しちゃったなぁとばかりに軽く苦笑いするモモにコトリは言葉が思い浮かばず少し表情が陰ったがモモはコトリの腕を伸ばしてコトリの頭を撫でた。
「そんな顔をしないの、これは単に無理をすると後が大変っていう悪い例を伝えただけ――至らない姉だったけど、妹達が後を託せると思えるくらい立派に育ってくれた事は私の誇りよ」
「……やっぱりらしくないですよモモさん、いつものツンデレな――イタッ!」
優しい声音で告げられた賞賛にコトリは目を潤ませてしまうがここで涙を見せては折角認めてもらえたのに頼りなく思われると虚勢を張って軽口を叩くとモモは手首のスナップを効かせて頭を叩いた。
「ツンデレ言うなし、関東の体制を変えるのは少なくないリスクが有るのだから私にだって万が一は有りうる――特に私は一番危険な場所にいるんだから少しの違いで呆気なく、なんてなる前に姉として伝えたい事は伝えるべきかなって思っただけよ」
「だとしたらなおさらいつも通り堂々としてください――私たちは自信満々でどんな危機でも涼しい顔で切り抜ける姉さんしか知らないんです、変に動揺させた方がリスクは増えるのでは?」
先ほどまでの空気は霧散し憮然とした表情でモモはコトリを見るが、コトリは自信満々な笑みで迎え撃ち――モモはため息を吐いて勝ち気な笑みを浮かべる。
「流石の私も卒業を考えたら少し感傷的になっただけなのに随分と言ってくれるじゃない? そんなにいつも通りをお望みならガンガンと――!」
モモはそこまで言った瞬間緊迫した表情をして弾かれたかのように横を向き、コトリも一拍遅れてモモの視線の先を追う。
「――『悪戯』、ですか?」
「コトリは無理だった?」
モモがそのような反応をすることなどそれくらいしかなかったがコトリは正確な状況確認の為に問いかけ、モモは肯定の意味を込めて問い返した。
「すみません、分かりませんでした」
「大丈夫、この距離だと私も数年前だったら探知出来なかったかもしれない」
モモはコトリの言葉にフォローをいれつつ視線を現場に向けたまま短く思案してコトリに顔を向けた。
「私が10分後に単騎突撃する、皆に私の名前で出撃待機指示とコトリとミミは念のため現場待機、まほネットに情報提供――場所は私の縄張り中枢周辺としか分からない、後は任せる」
「待って下さい! 私はともかくミミなら急行させれば合流可能かと思います!」
コトリが決定事項を矢継ぎ早に告げてその場から早速移動をしようとするのでコトリは慌てて計画の変更を進言した。
モモとコトリでは移動速度が全く違うのでコトリが置いていかれる事は仕方がないと割り切ったが、ミミが自分の縄張りにいればモモの到着に少し遅れる形で現場で集合出来ると判断しての事だった。
「無理、末っ子が認識出来ない程の距離じゃない――正義感が強い子だから目の前でデモニアの被害があれば昔のコトリみたいに勇気と無謀を取り違えて戦っていても不思議じゃないの」
しかしモモは短い付き合いながら華怜がその現場に立ち会った場合どう動いてしまうかを予想し、やりかねないと判断していた。
正義感や責任感は邪魔でしかない、というモモが華怜にした助言は冷酷な響きを持つが新人の魔法少女は遵守すべき内容なのだ――なぜならベテランでさえ帰ってこない事も有る『悪戯』に新人が無謀にも挑んでしまう引き金なのだから。
頼むから軽率に人助けをしたいなんて考えはやめて、それは自分も助けられる状況以外は犠牲者が1人増えるだけなんだから――そう祈りながらモモは今度こそ屋上から飛び出して障壁で足場を作りながら移動を開始した。
モモは自分を律して妹たちに厳しく接していますが、一人前と認める位に長い付き合いになった相手だと結構世話焼きで情が深いという素の一面が出てきます。
次回、その頃の華怜です。




