21話
サキと華怜が出会ってから更に8日が経った。
華怜はサキから助言を受けながら順調に戦い続け、サキは華怜の成長を一戦毎に報告するため青年に電話をしていたのだが、符丁を返すと別の少女の声がスピーカーから聞こえてきた。
「先輩、私です」
「おっと! 久しぶり、いつ以来だっけ?」
符丁を知っていて、青年の電話を取る事の出来る間柄のサキを先輩と呼ぶ少女という条件を満たせるのは1人しかいない――魔法少女モモが電話の向こうに居るのだ。
「そんなに前じゃないですよ――えっと、確か10年ぶりですか?」
「半年位だよ、10年なら互いに面識無いだろ……君のボケは私にはわからん、若い子が相手ならウケるのか?」
しれっとすっとぼけた事を言うモモにまだ20代で若いと思っているサキはジェネレーションギャップが発生しているのかと内心恐る恐る訊ねてみた。
「私に聞かないでください、学校では無口で文学少女な運動音痴の協調性が低い我が道を征く不思議ちゃんで通しているのでそんな面倒な相手と友達になりたいなんてボランティア精神ある人は残念ながら……」
属性を盛りすぎである。
とはいえモモの属性をあげると、魔法少女、幼児体型、美少女、歴戦の戦士、武器娘、無邪気、甘党Etc.とありすぎる事を思えばチョイスがおかしい事を除けば幾分控えめかもしれないが。
「高校デビューを盛大に失敗するにも限度があるでしょ、中学デビューも大失敗したらしいのに教訓を活かさなかったの?」
「……別に問題ありませーん、愛と勇気だけが友達です」
サキの問いにモモは国民的アニメのテーマを一部引用して自虐的に伝えるとサキは苦笑いをした。
「はいはい、どうせ同好会活動が忙しいからって猫をかぶって没個性の少女演じているんでしょ? 友達付き合いが面倒だからって理由でそんな悪目立ちするのはコストもリスクも釣り合ってないし、そんな馬鹿なまねを彼が許すとも思えないよ」
「……」
嘘を吐くならもっと信憑性のある内容にしなさい、と遠回しにサキは告げるとモモは黙秘権を行使したがそれは認めた事に等しい。
久々に会話が出来たからかモモがじゃれ合うように会話を脱線させたのでサキもそれに合わせたが互いに長電話はリスクが増すに等しい行為でもあるのでサキは本題に戻す事にした。
「さてと、これ以上追求すると電話きられそうだから保留にしてあげてこっちの本題だけど――同好会の新人ちゃんについて、本当に報告いる?」
「? どういう意味です?」
サキの問いかけに心当たりが無いと言うかのようにモモは問いを返し、その反応がどういう意味かサキはつかみ損ねたのでもう少し続ける事にした。
「そのまんまの意味よ、あの子を自分の部屋に招く事になったから部屋の片付けをしたんじゃないの? 他の子達からあなたの部屋は片付いてないって聞いていたけどあの子は部屋が綺麗だったっていうのだもの、あの子の実力は一緒に過ごした貴方の方が詳しいんじゃないの?」
「私の部屋を汚部屋呼ばわりした子達は探し出してでも必ず絞めるとして、あの子に部屋は貸してあげたけどそれは作業スペースを貸しただけで見ていると横から口だししちゃいそうだからほとんど見ていません」
汚部屋呼ばわりは嫌だったのか報復を示唆する言葉を口にしてモモはレンを見守っている訳では無いと口にした。
「あら、そうなの?」
「まだ本当に続けるかを考えてもらうために自由にやらせている段階、変な癖がついたりしないよう貴女に指導をお願いしているけどまだ技術云々は早いでしょ? それと部屋の片付けはあの子を招くからっていうのが理由に全く無いとは言えませんが、あの子が同好会に入る前から始めた事ですね」
過保護なモモがレンの為に危険な戦場を潰したのだと思っていたサキはいつもの照れ隠しにわざと関心が薄いような反応をしているのだろうとレンの安全の為にもう少し探りを入れる事にした。
「……自主的に片付けたの? 貴女が?」
「なんでそこを疑問に思うのか後でじっくり話し合うとして、テスト勉強始めると部屋の整理を始めたりしちゃう経験はありません? そんな感じです」
「……それは文字通りの意味で?」
「たとえ話です、ちょっと気になっていつの間にか片付けちゃっていただけ。綺麗になったからしばらくは保つだろうし、貸し出している間は恥ずかしくないよう維持します」
しかし、モモの返答は縄張りの掃除は本当にレンとは別件であると言っている様にサキは受け取った――解釈違いでレンを危険にさらしてしまう訳にはいかないのでモモに私生活関係での気まぐれか、とサキが問えばモモ自身測りかねているのか言葉を濁した。
「――なにが気になったか分かったの?」
「わかんないです、イベントが近くにあるのを忘れていた訳でもなさげ、ストーカーが現れたのとは違う感じ、テストはしばらく先――私の気のせいだったら良いな」
サキが懸念の詳細を求めればモモはデモニア事件が発生する寸前まで鏡界を放置した訳でも、某国の諜報組織が動いている訳でも、文字通り学校のテストが近い訳でもないと告げて――だからこそ気味が悪くて警戒中であることを告げた。
「新人ちゃんにそれとなく伝えようか?」
「それは不要です、今が大事な時期だから変な気を使わせるような事は避けて欲しい――もし何かあっても会長の私が対応します」
あやふやな不安をレンへ伝える必要は無いとサキにお願いし、何が起きようとモモが責任を持って動くと宣言した。
そして関東最高戦力が動くと約束した以上この話は終わりである――モモは時間も押している事もあり電話を切る前に正直に伝えることにした。
「そうそう、あの子は貴女の言いつけを守っている事は少し散歩する前に毎回確認しています。同好会に入って知識を得て自分の得意なやり方なら結構な強みを持っているけど、頭が固いのか即興性や応用は苦手っぽいですね。特に危険な兆候がないなら今日は彼への連絡はいいです、私が代わりに受けたので――いずれ、また」
そう告げるとモモは電話を切った。
「なんだ、やっぱり見守っているじゃないか――クールとか冷酷みたいな格好良い評価が欲しいのかもしれないが、言葉でいくら頑張っても行動が真逆なら過保護とか情が深いとか自分の望んでいない評価を結局得るんだぞ?」
微妙なお年頃なせいか青春の全てを闘争に当てたせいか発作的に面倒くさい言動をするモモに電話が切れた事を良いことにサキは言いたい放題だった。
そしてモモは電話を受けるために足を止めた名前も知らない小学校の屋上で電話を切ってから折り返しの電話が無いことを確認していたが呼び出していた相手が接近してきたので折りたたみ式の携帯をしまい、相手は転落防止のフェンスを軽々飛び越えて現れた。
屋上のど真ん中に降り立った少女は着地した際に曲げた足を伸ばして立ち上がると鮮やかな若草色の魔女帽子が落ちないように押さえていた手を離し首を振ってモモを確認するとパッと笑顔になって駆け寄った。
「こんにちはモモさん、こんな昼間に呼び出しなんて珍しいですね?」
その少女の身長はモモより頭1つ近く大きい為にモモは少し見上げる形になる。
「こんにちはコトリ――もしかして何かの予定があったならいきなり呼び出してゴメン」
「いえいえ、部屋でいつものように本を読んでいただけですから大丈夫です」
モモからの急な呼び出しにも関わらずコトリはしっかりとファッション誌に載るような流行の春コーデを身に纏っていたのだが、コトリは両手を軽く前に出して横に振りながら否定した。
コトリの否定の言葉に『結構気合いの入った部屋着だなぁ』とか『これが女子力……』などという内心をモモは表情に出すことはなかった。
「あ、でも万が一という事もあるのでアドレスの」
「それはダメ、活動時期が被る魔法少女同士はなるべく突飛な関係性を後追い可能な履歴として残しちゃいけない。まほネットで連絡は可能なんだから諦めて」
そのため良いこと思いついたとばかりにアドレスの交換を要求をコトリはたたみかけたが言い終わる前にモモは遮って拒否と理由を伝えた。
「むぅ、そっち経由だと時間がかかるので直アドが欲しいって話なん――ダメですか、そうですか」
しかし諦めきれなかったコトリはごねようとしたが、モモが目を僅かに細くした事で慌てて取り消した。
「それで、呼び出した用件だけど新しい縄張りを調整する為の聞き取りよ」
「あれ? 最近のモモさん周りの話題からするとてっきり新しい妹のお披露目の件かと思ってました」
モモはコトリが完全に話題を引っ込めた事を確認してから本題に入るとコトリは想像していた普通なら優先度の高い話題とは違った事に少し困惑した。
「それもあるけど……コトリとミミの2人はここ2,3ヶ月位前から緩衝地帯を超えて私の縄張りでも狩りをし始めてるでしょ?」
「あ、えっとそれは……」
魔法少女達が自分たちで争わない様に決めた縄張りが接近している際のルールの中の1つが緩衝地帯というもので地方毎や個別に多少違いはあるがおおよそは相手の縄張りは基本的に戦闘禁止、当事者で話し合った緩衝地帯は先に見つけた方に優先権を与えるといった内容である。
当然、人の縄張りで無断で戦闘をしたら相手から報復をされても文句を言えない。
新魔法少女登場です。




