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7話

 アステリオスがモモの命令に従ってその球体へ槌を振り下ろし――直後その球体が急激に周囲の空気を吸い込み始めた。


 その突風じみた勢いの空気の流れに華怜は小さく悲鳴を上げて踏ん張り――3秒程で球体がしぼんで突き刺さった剣と槌の先端部分と共に消えると唐突に空気の流れは治まった。


「今のは、いったい……?」

「あれはトンネルみたいなもので落盤させて無理矢理道を塞いだとおもってくれると一番近いかな」


 呆然と呟いた華怜にモモは乱れた自分の髪を手串で整えながら回答した。


「さて、帰るまでが遠足って言うから帰りましょう?」


 モモは肩の荷が下りたとばかりに柔らかな笑みを浮かべて華怜を振り返った。


 モモの先導で華怜はアステリオスと彼女の護衛につけられた剣3本と共に屋上へと上っていく。


 敵地についていって緊張続きだった華怜は屋外の解放感にようやく肩から力が抜けた。華怜が周囲を見渡すと車が一台も止まっていない広々とした空間と、そこでも戦闘があった為にゴブリンの死体がとある壁際に密集しており華怜は目を逸らしてモモの後をついていく。


 屋上に備え付けられたエレベーターに向かって進む途中、モモは立ち止まって上を見上げ華怜もモモの視線の先を追うと先ほど飛んで行った魔法の鷹の1羽が何かを持って飛んできていた。


 モモは前に腕を広げて受け止める体制になると鷹は高度を下げてモモへと向かい、モモの前で羽ばたいて速度を殺すとモモの腕の中にそれを落として再び飛び去った。


「あ! それ、もしかして私の……」

「そうじゃないかなって思って探させていたの。中身は零れてなかったみたいだけど無い物があったらごめんね」


 そう告げてモモは華怜に腕の中にある華怜の鞄を手渡した。


「ありがとうございます! でもどうしてこれが私のだと……」

「服装と時間から下校中に寄ったのかなって、そう考えると会った時に鞄が無かったからどこかに置いて逃げたのかなって」


 後は学院指定の鞄を探すだけだったから楽だったよ、と笑顔のモモに華怜はその気遣いに感謝して頭を下げる。


 その後2人はエレベーターの乗降口の前まで移動するとモモは華怜の顔を見上げて約束を果たすことにした。


「少し調べるからその間写真を撮ってもいいよ」


 そう告げてモモは黙りこくって空を見上げる……華怜もまたモモの視線を追うが今度は何もない。


 何を調べるのか説明は無かったものの写真を撮っていいとのことだったので華怜は自分の手元に戻ってきた鞄の中からスマートフォンを取り出して写真を取り始めた。


 モモが空を見上げてから動かなくなったアステリオスの周囲を回って華怜が撮影をしているといきなりアステリオスが片膝をついて頭を下げた。


 ポージングが変わった事に驚いてモモの方を華怜が振り返るとモモは笑顔でウィンクをして空を再び見上げた。


 その後華怜が何枚か写真をとるとモモが近寄ってきて調べものが終わった事を告げた。


 華怜は最後にだめで元々と一緒に写真を撮りたいとモモに願い、モモは快諾して2人でアステリオスを背景に写真を撮った。


「そういえば、何を調べていたんですか?」

「ちょっと腑に落ちなくてね……討ち漏らしも無いみたいだし、私の気の所為かも」


 撮った写真をチェックしながら軽く世間話の体で華怜は訊ねてみるとモモからはそんな回答が返ってきた。


 気の所為、と言いながらモモの表情は優れない事を華怜は横目で確認すると相槌をうって流す事にした。


「それじゃ、帰りましょうか? 日常が貴女を待っているよ」


 そう告げてモモは華怜の正面に回って両手を繋いだ。


「目を閉じてね? 一瞬気分が悪くなるかもだけど、すぐにつくからね」


 言われるまま華怜は目を閉じると足元が弾力のある何かに変わるような感覚を一瞬感じると華怜の耳を騒音が叩いた。


 それに驚いて目を開くと髪の色が黒く変わったモモと先ほどまで無かった車が駐車場に停まっている光景が広がっていた。


「おかえりなさい、帰って来たよ」


 どうやら無音だった鏡界から戻ってきたら急に車の音が響いたため騒音と勘違いしてしまったのだろう……こんなにうるさかったんだ、と華怜が目を丸くしているとモモが笑顔で告げた言葉にようやく実感が追いついて華怜の目から涙が零れた。


 華怜は溢れる感情のままモモに抱き着くとモモは彼女の感情が落ち着くまで抱きしめ返した。


 危険地帯でモモの保護下で安全を得るのと本当に安全地帯にたどりつくのでは安心の度合いが違う――モモに負担をかけまいと聞き分け良く気丈に振る舞ってみたところで怖くなかった筈がない。


 感情が落ち着くまでただひたすら感謝の言葉を口にし続け、そして落ち着いたのか抱きしめていたモモの体を離す。


「モモさん、いつの間に髪の色が……? それにアステリオスさんも何処へ……?」

「目立つ必要が無い時は色くらい変えるよ。アステリオスは用が済んだから置いてきた」


 周囲に気を配る余裕が出来たのか華怜は真っ先にその2つを訊ね、モモは笑顔でそう返答した。


「本当に、帰ってこられたんですね……あんなに怖かったのに夢でも見ていたみたい」

「不思議な夢でも見たと思って忘れちゃいなよ、平和が一番なんだからさ」


 そう告げてモモはエレベーターと階段に続く扉を開け華怜は頭を下げて礼をすると先に入る。


 できればもう少し話していたい、と華怜は思うのだがふと今の会話に既視感を覚える事になり自身の記憶を少し辿っていた。


「だから、2度と会わないで済むよう祈ってる――さよなら、お嬢さん」


 そのため華怜はモモが一緒についてきていない事に気づくのが遅れ、モモの言葉に振り返ると閉じゆく扉から見える優しい笑みに頭が真っ白になった。


 そして扉が閉まる音と共に既視感など吹き飛び思考が回復し猛烈に回りだした。


 慌てて華怜はドアノブに飛びつく――モモはここでお別れをするつもりだと気づいたのだ。


 自分の命の恩人が去ろうとしている――後で夢でも見ていたと華怜が思いやすい様に唐突に別れようとしているのだと。


 焦りで少し乱暴に華怜は体当たりするかのような勢いで扉を開いた――外に人が居れば怪我をしても不思議では無かったが華怜は気にもとめていない。


 まだモモに自分の名も名乗っていない! あの状況下で気が動転していたのを差し引いても礼を欠いたままお別れなどしたくはない! そう強く願い外に飛び出るもモモの姿はどこにもない。


 エレベーターに繋がる建物は立体駐車場の壁から飛び出ている形状のため隠れる場所は無い。


 僅か3秒にも満たない時間でモモは華怜の前から姿をくらましてしまった。


 この声は多分あの人に届かない、きっと自己満足で終わるだろう――そう華怜は思いつつもそれでも声を張り上げていた。


「モモさん! 私は宝蔵院華怜と言います! 次に会える時はもっとフランクな言葉で接する事が出来るよう努力します! また、会いましょう! ありがとうございました!」


 貴女と会えたのは決して夢じゃない、絶対に忘れるものかとモモに届く事を願って……。


 華怜は声を張り上げた後にその場を後にしたが、その場にはまだ1人残っているものが居た。


 それは華怜の前から姿をくらましたモモに他ならない――いくらモモでも咄嗟であれば屋根に飛び乗って姿を隠すくらいしか方法が無かったのだ。


 だから、モモに華怜の思いは全て届いていた。


「ごめんなさい、華怜さん――間に合って、本当に良かった……!」


 華怜の言葉を聞いてモモは安堵の涙を流した――実のところモモは今回のデモニア案件は対応を後回しにするつもりでいた。


 華怜が遭遇した程度なら近隣でも1週間に1件発生しても別に不思議ではなく現実側に影響を及ぼすまで4,5日は猶予がある。


 そのため2,3日後に対応するつもりでいた――ここだけ聞くと対応が遅いと勘違いしそうであるが、彼女がデモニアを狩っている縄張りは関東地方全域である。


 関東地方にモモ以外の魔法少女も当然いるが、数は非常に少なく魔法少女の手が届いていない地域が多いため関東地方最強格のモモが自主的に見回っている。


 その結果、相当な数のデモニア案件をモモが一人で片付けて回るためどうしても優先度の低いものは例え自身の居住地の近傍でも後回しにせざるを得ないのだ。


 それなのに今回モモが華怜を救出に向かった理由は、過去にモモが自分と関わった少女達の中で()()()()()()()()()と判断した少女達へ色々な理由をつけて与えていたリボンがあり――そのリボンに仕込んでいた救難信号が発せられたからである。


 モモが渡したリボンには身に着ける限りある程度身を守ってくれる魔法を込めた貴重な品物ではあるが、欠点としてそもそもリボンを身に着けているか持ち歩いていないと効果がない。


 しかし、渡した状況が危機的状況の直後ばかりでアフターケアとして基本的に記憶を薄れさせたり消したりしていた――その結果どうしても()()()()()()()()()()()()()()という形にリボンの印象を操作するのが精一杯だったりする。


 華怜は偶然にもリボンを身に着けた日に巻き込まれたので助かったが、そうでなければ彼女はモモに気づかれる事は無かったのである。


 その幸運に感謝しモモは立ち上がった。


 人1人を自分の目の前で危うく死なせてしまうところだった、その事実にモモは予定を少しでも繰り上げて余裕を確保しようと今日明日の予定を脳裏から引っ張り出す。


 涙を乱暴に拭った後には強い覚悟によって鍛え上げられた関東圏最強の魔法少女がそこにいた。


 ――いつもよりだいぶ早いが、魔法少女モモのお時間である。

次回は華怜の日常です。

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