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5話

 モモは合図を出すと華怜の護衛の1本にかなり接近してきた別動隊への時間稼ぎを命令して待機させる。


 華怜が駆け出して自分に向かってくるのを確認してモモは街路樹の傍らまで走り華怜を待つ。


「ここからは街路樹を盾にしながら突っ込む、心配せず走ってついてきて」


 モモは華怜が緊張で息を切らせていたら息が整うまで待つつもりだったのだが予測に反して息を切らせていない事に関心しつつ華怜が頷くと走り出す。


 だが、2本目の街路樹を過ぎた所で急に反転して華怜に飛びつく。


 当然いきなりモモがそのような行動をするなど思いもよらなかった華怜は簡単に押し倒されてしまう。


 モモはといえば華怜が転ぶ際に頭を強打しないよう手を華怜の後頭部に回して魔法を急ぎ発動させた。


 ブロックとコンクリートで舗装された地面が彼女らのすぐ横で隆起し立体駐車場との間に壁を作るのとほぼ同時に何かを弾く音が響く。


「モモさん!」

「ごめん油断した、怪我は?」


 モモの問いに首を振ることで華怜は回答する。


 あれだけ堂々と見晴らしの良い場所で姿をさらして遠距離攻撃を誘ったというのに1階は打って来なかったので何匹か居るのはわかっていたが接近戦要員しかいないと油断してしまった。


 心配しないで、なんて大見え切った直後にこれである。


 流石のモモもこれには自身のプライドを傷つけられて少し枷を外す事にした。


 さっきまでは華怜がトラウマにならないよう、デモニアの凄惨な死骸を極力目の前にさらさせない為に手段を選ぶ配慮をしていたが――()()()()()()()()()()になっても見せなければいいやと考える事にしたのだ。


 大人の背丈ほどに隆起している壁の裏でモモは華怜を助け起こすと自分達と車道を分けるガードレールを自分達のすぐ脇だけ地面に陥没させて埋めた。


 魔法で強引に押し込んだためコンクリートがひび割れ、砕ける大きな音と共にガードレールが捻じれる際に発する金属音の二重奏が前触れなく華怜の目の前で行われ、その後に残った光景も十分トラウマになってもおかしくないに代物である事実にまるで気づいていないモモにこれが何を意味するか当然わからない華怜が恐々問いかける。


「あの、一体……」

「ねえ、車は左側通行って鏡界でも有効かな?」

「はい?」


 しかし、モモはその質問を遮るように笑顔で意味不明な質問を繰り出した。


 当然ながら理解出来なかった華怜は困惑のまま聞き返したがモモはそれを肯定だと強引に判断し次の魔法を発動し壁に近寄ってしゃがみ込む。


「オーケー、駐車場に正面から突っ込んで2階から飛び込むから落ちないよう背中にきつく抱きついてね?」


 モモの耳を疑う謎発言の後、彼女たちの真下の2メートル四方ほどの舗装がモモの作ったコンクリートの壁ごとメリメリと音を立てて浮上した。


 流石にこの段階となって華怜はモモが発言通りの内容を実行しようとしている事を否定できなくなった。


 慌てて華怜が抱き着くと2人を乗せた『乗り物』は陥没させたガードレールを乗り越えて車道の左車線に移動して移動を開始する。


 デモニアが移動の阻止をしようと矢を放ってくるが、モモは乗り物の壁を射手との間にいれて決して自分たちを傷つけさせない。


 その合間にモモは殿を命じて戦闘中だった剣を呼び戻し、駐車場前まで『乗り物』を移動させると律儀に入り口側めがけて加速する。


 車止めのバーは下りたままでその奥にはデモニアが武器を持って待ち構えていたが、そもそも1階から律儀に突入するつもりの無かったモモにはまるで関係無かった。


「パージ! トランスフォーム!」


 瞬く間に時速60キロメートル近くまで加速させながらモモは叫ぶ。


 その命令が下ると2人を守る防壁の前半分がはじけ飛んで前方へ襲い掛かった。


 狙いをつけて放ったわけでもない上にはじけ飛んだ破片も1つ1つはせいぜいこぶし大ともなればそこまで打撃力があるわけではない。


 ただ目くらましが目的であったためモモにはそれで十分だった。


 2人の足元がみるみるうちに狭くなり、代わりに高さが上がっていくのだが材料が足りないのか2階までは高さが足りていないし、当然窓のように開けられたコンクリートの無い空間は更に上である。


 『ぶつかる!』と、とっさに叫ぶことも出来ない華怜は目をきつく閉ざし衝撃に耐えようと歯を噛みしめる。


 華怜がその後感じたのはモモがジャンプした際の浮遊感と何かの大きく重い何かが衝突したかのような轟音、そして速度を急激に落とす際に発生する慣性力……。


「も、もうついたから――苦しい、ギブギブ」


 もはや首を絞めているかのような力の入れ具合になっていた華怜の腕を叩いてモモは訴えると華怜は恐る恐る目を開く。


 華怜の目の前に広がるのは車が1台もない殺風景な立体駐車場、視線の先に上の階に行くスロープがあるが、2人の目の前に書かれている順路が自分たちの位置をカーブだと表していた。


 もしここが1階なら2人は入り口から突っ込んでいたため出入り口の表記になるはずなので確かに1階より上にいるようだった。


「ど、どうやって? 全然2階に届いてなかったのに」

「ああやってみました」


 モモに回していた腕の力は全く緩まず呆然といった体で呟いた華怜にモモは指で背後を指さしながら答えを示した。


 華怜が弾かれた様に振り返ると自分たちの背後の壁がなくなっている。


 モモは飛び込む寸前に壁を自分たちが通れるように形を変えていたのである。そして形を変えたままでいる必要はないとばかりにあっという間に元の形に戻っていくのを目の当たりにして華怜は思わず呟いた。


「――死ぬかと思った」

「だから言ったでしょ? きつく抱きついてねって」

「言っていましたね! 言っていましたけどそういう事じゃないでしょう!?」


 飄々とちゃんと説明はしたよ? と告げるモモに華怜は腕の力を緩めながら一般人があの説明で理解できるはずがない、と不満を口にする。


 とはいえ華怜も常識の違いがある事を理解してきているのでそれ以上の事は言ったりしない――過ぎた事より現在進行中の事で聞きたいことが出来たからという理由も大きい。


「さっきから轟音が下から響いてきているのはいったい何が起きているんですか?」

「あれは下でさっきの乗り物が大暴れしているからだよ?」


 少しずつ華怜がフランクな言葉使いになってきた事に嬉しくなってきたモモは説明が理解できなかった華怜が乗り物? 大暴れ? と首をひねっていたので少し補足する。


「あの後手足を作って『とりあえず動いているのを動かなくなるまで潰せ』って命令しといたから下で決死の抵抗が行われているみたい――自衛隊の小隊程度でも初見ならまず勝てない程度には強いゴーレムだから下からの増援は気にしないで」


 そう告げてモモが笑うと華怜は引きつった笑みを浮かべた。


 華怜からすれば自衛隊員は災害派遣される人たちという認識もあるが体を鍛え格闘技も習得し銃火器という武装を纏う戦闘のスペシャリストという認識も当然ある。


 そんな人たちが複数人いた所でまず勝てないと判断する強大な存在を『とりあえず』から始まる雑な命令で放置である。


 モモにとって思いつきで使い捨て感覚程度の存在がこれである――華怜も分かってはいたが目の前の少女にどれ程の力が秘められているのか見当もつかない。


 華怜が気を取り直して上り側のスロープに向かおうとするとモモはそれを察して華怜の手を引いて先導を始める。


「私が直接操作したわけではないから状態はよくない――できれば見ない方がいいよ」


 何を、とは言われなかったがモモの固い口調からそれがデモニアの死体である事が華怜にも分かった。


 モモも華怜と出会った際いくつか似た死体を生み出していたが、その時はモモの技量の冴えに目を奪われて華怜が切り捨てた側に目を向ける事はなかった。


 ただ、これから目にしなければならない華怜はその配慮に感謝して黙ってついていくと上り側スロープ入り口で剣が1本待っていた。


 剣に血が滴っているような事は無いが、2階にデモニアがいても不思議では無いのに見なかったという事はこの剣が倒していたのであろうと華怜は理解した。


 モモが華怜とつないでいない方の手を払うように動かすと剣はスロープに沿って上階に移動し3階側で待機していた別の剣と共にコンクリートの無い空間を飛び出して更に上へ飛んでいった。


「行こうか、3階も制圧は終わっているみたいだけど本丸のすぐ下だから気は抜かないで」


 そう告げて華怜の手を引いてモモはスロープを上っていく。


 スロープを上り切り進行方向に華怜が目をやるとそこには血だまりと倒れ伏すデモニアがあった――これからその傍を通らないといけない、そう思い華怜が覚悟を固めているとモモは弾かれた様に上を向いた。


 華怜もまたモモの視線を追いかけて顔を上げると同時に自分達より上から轟音が発生し駐車場が震えた。


「走るよ! 直下に居たら守り切れない!」


 目を見開いて固まった華怜をモモは繋いだ手を強く握って自分に意識を向けさせるとそう告げて華怜の手を引いて走り出した。

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