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“4”の記憶倉庫 その一

 暗い暗い闇の中にうっすらと光がさしたかと思うと、そこに突如として光景が広がった。

 自分は確かにここでその光景を見ているのにその場に自分が存在するという感覚が一切なく、これはどうやら映画やテレビを観ているようなものらしいと直感的に理解できた。



「四ツ谷健祐さん。」


「はい、元気です。」



 大人の声と、それに返事をする子どもの声が聞こえる。

 大きな黒板と小さな机、そして小さな小さな子どもたち。場所はどうやら小学校の教室のようだ。


 その中で先生の健康観察に返事をする一人の子ども。

 名字は四ツ谷、名前は健祐。

 特に不自由のない家庭で生まれ育った、どこにでもいるようなありふれた男の子。

 そうだ、僕は四ツ谷健祐という名前だったんだ。どうして今まで忘れていたのだろう。



「おにごっこしようぜ、おにごっこ!」


「えー、こおりおににしようよ。」


「あの、どっちでもいいから、ぼくも入れて。」



 場面が一瞬にして切り替わるのも、やっぱり映画やテレビと同じ。

 僕はみんなを引っ張るリーダーなんかでは決してなくて、堂々と自分の意見をできるような子どもでもない。

 普段は一人で教室で本なんかを読んでいて、遊びの輪に入ることにさえ緊張するような子どもだったんだ。



「あらそう、健祐はサッカー部に入るのね。」


「うん。」


「やっぱり男の子は運動ができないとね。」



 そうそう、そんな僕だけど少し大きくなって、小学校での部活動はサッカー部に入部していたんだ。

 運動神経は本当に悪くて、特にサッカーが好きなわけでもない、帰宅部が一番しっくりくるような子どもだったはず。

 けれど、男の子は運動ができないと、なんて母さんが口癖のように言うもんだから、親に失望されたくないと思ってサッカー部に入ったんだ。

 当時はそんなに深く考えていたかは分からないけれど、そういうことで間違っていないだろう。



「よし、行ってこい四ツ谷。」


「はい!」



 結局一度もレギュラーとして試合に出ることはなかったけれど、6年生の時に交代では出させてもらったんだったな。

 今にして思えば、あれもきっと教育の一環としての判断ってやつなんだろう。もしくは保護者からのクレームの予防か。

 そして部活を引退して、小学校の卒業式を迎えたんだ。



「僕の将来の夢は、小説家になることです。」



 そうだ、卒業式の日にそれぞれが将来の夢を発表するってことで、僕は小説家になることだと言ったんだった。

 それも特に深く考えたわけじゃなくて、相変わらず消極的な性格で本を読むことが好きだったからという理由で。

 別に漫画家でもよかったけれど、絵を描くことが苦手、というよりそんな努力をしたことがないから消去法で小説家。


 ただ、結局小学校のことは特にこれといった強い思い出はなかった。

 そりゃあそうだ、小学校のことが強く思い出として残っているなんて人、そうはいないだろう。

 消極的だろうが何だろうがそれなりに友達がいて、たくさん遊んで、それでおしまいだ。


 でも、違う。違うはずだ。

 僕という人間は小学生ではなかったはずなのだ。

 順当にいけば次は続きの、中学生になった時の僕の記憶が見られることだろう。

 そうすればもっともっと自分という人間の正体が明確になっていくはずだ。


 それなのに何故だろう、身体がぶるりと震えた気がした。

 この場所には僕の身体なんて無いはずなのに。

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