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Pq35880世界 大賢者の島 【忠告】

「やあ、おはようフォー。随分と思い詰めた表情をしているね。」



 今日がストリングスが僕に言った、僕がこの世界に存在することのできる最終日。場所はストリングスの家の中、リビング。

 彼女は朝の開口一番にそんなことを言った。



「さっそく襲い掛かってくることは知ってるよ。」



 僕に勢いよく振りぬかれた包丁が空を切る。

 不意打ちを避けられた。ストリングスには特に驚いた様子もない。


 むしろ驚いているとすれば、それは僕の方だ。

 この島での生活は不本意ながらも楽しかったし、僕自身の過去の記憶への興味もあって、この世界での任務の達成は確かに諦めていたはずだった。

 それなのに滞在猶予期間の終了が迫るに連れて、僕の中のとある気持ちが大きくなってきていたのだ。


 任務を達成せねば。


 そういう気持ちだ。



「不意打ちを避けられても諦めずに向かってくることだって知ってる。」



 体勢を立て直してもう一度。

 僕はまるで通り魔のように、彼女になりふり構わず切りかかる。



「でも最初に言ったよね。

 残念だけど、あなたには殺されてあげないからそこんとこよろしくね、って。」



 ストリングスがその言葉を言い終わるか言い終わらないかのタイミングで、ピタリと僕の身体が動かなくなった。

 頭のてっぺんから足の先までものの見事に動かない。

 まるで身体を誰か別人に乗っ取られたかのような感覚だ。



「全部知ってるからさ。

 フォーがこのタイミングで襲い掛かってくることも、その結果がどうなるかっていうことも。

 もちろん知っていたって嫌な気分にはなるし、今だって本気で殺されそうになったせいで心臓がドキドキしちゃってるよ。」



 彼女はそう言いながら深く息を吐き、近くの椅子に腰かける。

 同時に悲しげで、それでいて優しいまなざしを僕に向けた。



「でも、フォーだって心臓がドキドキしているよね。

 なんで自分は動けないんだろう。いや、それ以前に、なんで自分は衝動的にストリングスを殺そうとしているんだろう、ってね。」



 そう、そうなんだよ。まさしくそのとおりなんだ。

 だから頼む、この違和感がなんなのか、僕に教えてくれ。

 そう言って声に出したかったが、僕は自分の身体を動かすことができない。

 パクパクと口を開くことすら叶わなかった。



「うん、うん。大丈夫、大丈夫だよ。

 その殺人衝動はあなたが元々持っているものじゃなくて、後天的に植え付けられたもの。

 ちょっと苦しいけれど、我慢してね。」



 後天的に?いったいいつ?誰が何のために?

 質問はいくつも湧いてくるけれど、今の僕には質問することすらできない。



「本題に入る前に身体が動かないことについてもネタバレしておこうか。

 前にフットサルで一緒に遊んだメガネの気のいいオッサンいたよね。

 あの人の能力、完全制御。

 相手の顔と名前さえ知っていれば、いつでもどこからでも自由に行動を操れるんだって。

 まあ同時に二人以上は無理らしいんだけど、大賢者の島の住人にふさわしい冗談みたいな能力だよね。」



 もう、今は自分の身体が動かないことはどうでもいいんだ。

 それよりも早く、早く僕に僕のことを教えてくれ!

 そんな僕の思いを知ってか知らずか――いや、全知の彼女は知っているのだろう。

 いつになく真剣な顔が僕の視界に映った。



「今からフォーには思い出させてあげる。

 前に言っていた、自分がエージェントである以前の記憶のこと。

 それを知れば、自ずと今の自分が置かれている状況も理解できるはず。

 そして次にあなたの意識が覚醒するのはあなたたちが意識の海と呼んでいる場所だから、先に忠告しておくね。

 ……信用しない方がいいよ。転生撲滅委員会のこと。」



 そう、彼女は続ける。



「記憶を取り戻した後には色々と疑問が浮かぶと思うけど、記憶を思い出したことは誰にも悟られないように。

 そうすれば、近いうちに好機が訪れる。」



 後は言うより体験した方が早いと言って、彼女は椅子から立ち上がった。

 そして僕のもとへと近づいてくる。



「それじゃあ今から、全知の力を体験させてあげる。

 自分が失った過去の記憶に、いってらっしゃい。」



 そう言って僕の左の頬に手を添えるストリングス。

 彼女の体温を肌で感じた瞬間に、今まで僕の中に足りなかった何かが入ってきた。

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