四の思い出語
「んー、あー……。
俺はエージェントAa015だ。
気軽にエージェントAa015様と呼んでくれ。」
長身で体格も良く、いかにも屈強で硬派な男。
そんな印象を一見で与えるエージェントAa015の第一声に、当時の僕はおおいに混乱した。
「えっ、あ……?
は、はい、わかりました、エージェントAa015様。」
動揺しながらも、馬鹿正直に言われた通りの呼び名で相手を呼び、頭を下げる自分。
僕のエージェントコードはAa004で、目の前の男のエージェントコードはAa015。
大した差こそないが、仮にも先輩?であるのはエージェントAa004である自分だよな?という疑問に頭を悩ませていた。
しかしふと顔を上げると、目の前の男は僕以上に驚いた顔。
鳩が豆鉄砲を喰らったような顔、とはこういう顔を言うのだろう。
その時のAa015のアホ面……もとい、間抜け顔は今でも強く記憶に残っている。
「んっ……ふふふふ……!
な、なんて顔してるんですか……!」
「くっ……くくく……!
おまえこそ、何をクソ真面目に様付けして呼んでんだよ……!
馬鹿正直に呼ぶなよ、あと、敬語もやめろな?」
思わず笑ってしまう僕と、つられて笑い出すAa015。
正直に言って、僕も初めての合同任務にはそれはそれは緊張していた。
そりゃあそうだ、今まで単独行動が常であり、他のエージェントと関わることなど初めてだったのだから。
だからこそ、このファーストコンタクトでいきなり笑い合えたことは、当時の僕の気負いをすっと消し去るのにおおいに役立った。
後に彼は僕のことを「真面目が服を着て歩いてるような人物」だと評し、僕は彼のことを「不真面目が服を着て小躍りしているような人物」だと評した。
それほどに性格の違う僕たちだったけれど、お互いの実力はお互いに一目置いていたし、何より芯の部分は似た者同士だとも感じていた。
「『双生の転生者』ねえ。
なるほど、これは前任者が5人も帰って来られないわけだ。」
「確かにね。
やりようはいくらか思いつくけれど、それでも二人同時に始末しないと死なないっていうのは、確かに一人じゃあ少し辛いものはあるね。」
「まあ、早速合同任務の甲斐は合ったってとこだろうな。
今回のことを報告したら、きっと今後も合同任務が増えるだろうよ。
喜べ、きっとまた俺と組むこともあるぞ。」
「ふふふ。
うん、素直に喜んでおくよ。」
初回の合同任務で見事成果を出した僕たちは、その後も何度か合同任務として同じ世界に派遣されることがあった。
「おう、また会ったな。」
「久しぶりだね、エージェントAa015様。」
「ちょっ、引きずんなよ、そのネタ!」
そんなやりとりを何回もして、何度もお互いにお互いがまだ生き残っていることを確かめ合った。
繰り返すけれどお互いの実力はお互いに一目置いていたから、簡単にくたばるようなことはないと信じてはいるけれど、いつ死んでもおかしくないのがエージェントだ。
だから、こういった気の合う仲間との合同任務の時間は大切にしたいんだよ。
「……おまえ、真顔で恥ずかしいこと言うよな。」
「まあね。」