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十五の思い出語

 

 どの世界、どの時代、どの国に行っても、年季の入った人間はたいていがこの言葉を口にする。

「昔は良かった」、「昔の方が良かった」と。

 しかし少なくとも転生撲滅委員会のエージェントにとっては、昔の方が良かったなどと言う者はほぼいないことだろう。


 それほどに、昔は過酷だった。

 無論、今でもエージェントは常に死と隣り合わせであり過酷な役目であるが、それでも昔に比べれば随分とマシだ。

 例えば今なら事前に得られた世界の情報をもとに、その世界に向いていると思われるエージェントが派遣されることが多い。

 そして容易には情報が得られない世界には、基本的にベテランエージェントが送りこまれることで対処される。


 しかし委員会発足最初期の頃はまだ絞り込みだなんて技術は確立しておらず、事前に自らが向かう世界がどんな世界か、ましてや転生者・転移者がどんな人物かといった情報など一切知ることができなかった。




「悪魔だ!侵略者だ!」


「殺せ!耳を傾けるな!八つ裂きだ!!」


「ったく!俺の瞳の色が違うってだけで殺しにかかってくるなんざ、失礼な奴らだ……!!」



 得られる情報が無いのだから肉体に添える、つまり事前に収集されたその世界に関する情報を記憶として添えるということも当然ない。

 だからこそ、その世界に降りた途端に世界中の人間を敵にまわすなんてことがあったり、世界独自の常識やルールを見出すのに困難が生じたりすることが多々あった。


 最初期のエージェントである俺たちには当然師など無く、すべてを自らの力で、手探りでどうにかするほか方法は無かった。

 当時意識の海に生還するエージェントの数は少なく、特に初回から数回のうちの任務でのエージェントの死亡率は頭を抱えたくなるほどに高かったそうだ。

 もっとも俺たちエージェントは他のエージェントと顔を合わせることなど無く、見ず知らずの他人の生き死になどに構っていられる余裕も無かったのだが。



「エージェントAa015。

 キミを優秀なエージェントと見込んで、新しい取り組みに協力してほしい。」



 だからこそ、初めて『合同任務』のお誘いが来た時には驚いた。

 いわく、「エージェントが5人連続で意識の海へと帰還しない世界がある」、「委員会初の取り組みとして、エージェント二名による合同任務としてこの世界に向かってほしい」とのことだったが、もちろん俺に拒否権などなく、あまり気の乗らないままに合同任務へと赴いた。

 そしてそこで出会う、初めての同僚。



「初めまして、エージェントAa004です。

 よろしくお願いします。」



 何かの冗談だろうと思った。

 エージェントコードに冗談など決してありえないということは分かっていても、だ。

 その世界で待ち受けていたのは華奢な男子。

 そう、男性ではなく男子だ。

 背は決して高くはなく、少なくとも外見年齢は確実に二十歳を下回ることだろう。


 その出会いの時点で、転生撲滅委員会は発足からある程度の期間を経ていた。

 既にエージェントコードAaを冠して生き残っている者は少なく、ましてやAa015の俺よりも古い番号のエージェントなど、いったいどんな屈強な大男かと身構えていたのだ。

 だから、拍子抜けした。



「んー、あー……。

 俺はエージェントAa015だ。

 気軽にエージェントAa015様と呼んでくれ。」



 そして、思わず軽口を叩いた。

 それが、俺とあいつの始まり。

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