He99904世界 天国戦争跡地 【広場】
「うん、上手くいったね、アイ。
お疲れ様。」
「いえいえ、先生こそ、サクラ役お疲れ様です。」
私は神の子、だなんて嘘っぱち。
私はエージェントIh014。神の子どころかむしろ死神に近い。
「あらためて感じたけれど、やっぱりアイは立案能力が高いね。
今回の流れは見事と言うほかないよ。」
「あ、ありがとうございます!」
走り去った転生者を目で追った後、残りの野次馬に今の人間こそが転移者であり諸悪の根源であるといった話を吹き込むと、その場にいたほぼ全員が目の色を変えて追いかけていった。
そして残された私と先生の二人は、広場に座りながら一息ついていた。
初めてこの世界の情報を手に入れた時は、流石にどうしようかと頭を悩ませた。
転生者の情報を手に入れようにも、現地の人々とコミュニケーションを取ることさえ困難な劣悪極まる人間模様。
そもそも食糧を手に入れることすら困難で普通に生きていくことすら難しいのに、人口を減らすという目的で見ず知らずの人間に襲われることを常に警戒しなければならない。
「じゃあ、今までで一番うまくいったイメージを元に、作戦を考えてみます。」
そう言って私が考えた作戦は、以前、Bu00100世界のララマリアでの成功をもとにしたもの。
振り返ってみれば、おそらくあれが最もスマートに事を成した任務だった。
演説で転生者の動揺を誘う。
そのための舞台を用意する。
今回はそのまま現地の人々も言いくるめる。
さらには思い通りに事が運ぶために、あらかじめ観客の中にはサクラを仕込む。これに関しては近いことを最初の世界で先生がしていたところを見た。
そして結果はこの上なく上手くいったと言っていいだろう。
「もはや僕たちが手を下すまでもなく、転生者は排除されるだろうね。
そしてこの後滞在猶予期間を終えて、アイは文字通りこの世界から消える。
そうなればもう本当に神の子だったと信じざるを得ないだろうね。」
「はい。
そうしたら、もう後は天国が実現できると人々が前を向ければいいんですけどね。」
「そのために、あんなことを言ったんだろう?
天国の実現は自らの手で成すべきものであり、人口の減少と転生者の排除はあくまでもその土台を作る条件に過ぎない、だなんて。」
「まあ、そうなんですけどね。」
関わった世界や人々を不幸にすることが多い分、せめて今回は私の働きかけによって、この世界が良い方向に向かいますようにだなんて。
私はそんなことを考えていたのだ。
……無論、転生者一人の生については目を瞑って、という大前提のうえでの話ではあるが。
「……あらためて、君は優秀な弟子だよ、アイ。」
「えへへ、ありがとうございます。」
照れくさくて、頭を掻く。
そんな私を先生はしっかりと見据えた。
「今回を含め、あとたった二つの任務が終われば。
君は単独でJ以降の世界の任務を達成するという条件に続いて、十以上の世界で任務を達成するという研修終了のための二つ目の条件を満たす。」
突然、何の話を?
そう思っても聞けなかったのは、その話が重要な話だということを即座に感じ取ったからだ。
「そうなれば、更なる単独実習を挟んだ後に晴れて一人前のエージェントだ。
……もう少しで、僕ともお別れだよ。」
「……え?」
私はこの時まですっかりと失念していた。
そう、この関係が研修の上に成り立っている以上、終わりはいつか来るのだと。