Ku41084世界 良い子の楽園 【懇願】
この世界に来てからもうどれだけ経っただろうか。
迷える子羊とも言えるこのおれ滝沢大五郎の、心から願ったのが神に届いたのかもしれない。
本当に神はいるのか、いたとすればおれのことを随分と嫌っているのではないかと、そんなことを思わないでもないがこの際そんなことはどうでもよかった。
「な、なあ!アンタたちもこことは違う世界から転移してきたんだろ?
そうなんだろ!?
そうなんだろう!!!??」
「な、なんのことですか?」
「とぼけなくていい!
っていうか頼む、とぼけないでくれ!!
分かってるんだよ、アンタたちが他の連中と違うってことは!!」
呼び止めた男女の二人組は、先日新たにこの町に来た新参者だった。
別にこの世界では引っ越しする人間が少ないというわけではなく、今までにも新しくおれの住む町に増えた人間もいた。
けれども出身地が違ったところでこの世界の住人は皆、反吐が出るほど「良い子」だったのだ。
ただ、今度の二人は明らかにソイツらとは違っていた。
「面白い話ですね。
あなたはもしかしてお話屋さんなのですか?」
前にも言われたけどなんだよお話屋さんって!
そんな言葉を喉元でぐっと堪える。
この男が話をはぐらかそうとしているのがわかったからだ。
「この世界の住人の真似なんかしなくていいんだよ!!
確かに男の方のアンタは随分とこの世界の住人に似せているけれど、それでも違うんだ!
頼む、おれの話を聞いてくれ!!」
二人の行動にどこかぎこちなさを感じ取ったおれは、昨日・今日と二人を観察していたのだ。
そして確信した、この二人はこの世界の住人ではない。
どれだけこの世界に馴染もうとしても、どれだけこの世界の住人になり切ろうとしても、この世界の人間の価値観に染まるというのはどうやったって無理がある。
それはおれと同じような転移者であれば、絶対に同じのはずだ。
そしてこの二人はおれのように、この世界の人々とは異なった価値観を持つように思えたのだ。
失うものなど何もない。
頭を地面にへばりつける。
「……らちがあかないか。
そうだよ、僕たちも転移者だ。」
「え!?あ、明かしちゃうんですか!?」
男の言葉に同行している女が動揺したようで、声をかけている。
二人のうち、女の方がより感情的とでもいうのか、今までの観察でもとにかく他の世界の人間だろうということがわかりやすかった。
「まあ、この状況なら仕方ないんじゃないかな。
昨日からつけられてたみたいだしね。」
なるほど、尾行していたのはバレていたのか。
だからこそ男の方は警戒して、あなたはもしかしてお話屋さんなのですか?などと誤魔化そうとしていたのだろう。
下げていた顔を上げると、少し困ったような表情を浮かべる男が目に入った。
「で、僕たちが転移者だったら、どうだって言うんだい?」
そして一瞬にして男の雰囲気が変わる。
威圧感とでもいうのか、言いようのない凄みを感じさせるその男は、ただものではないことをおれに確信させた。
けれど、だからといってこのチャンスをみすみす逃すわけにはいかない、引き下がれない!
「頼む!一生のお願いだ!!」
もしもおれの他にも転移者が現れたら。
そんなことを夢見がちに考えていた日々の中で出た結論を叫ぶ。
「おれを、殺してくれ!!!!!!」
二人は流石に、驚きで目を見開いていた。




