Fd27528世界 コンラート王国 【復讐】
「んー、んー!!」
指定されたハイエルン平原。
障害となる物のないその場所には、猿ぐつわをされた見慣れない一人の女と、僕、エージェントAa004にとって見覚えのある男とが待ち構えていた。
「久しぶりだな、フォー。
コイツがおまえの探している転生者だよ。」
見覚えのある男の名はロウリー。
以前の任務でこの世界に降り立った際、転生者と行動を共にしていた男。
これは移動中にアイに語った、事前に予想した手紙の主と一致した。
もっとも、端正で整っていた顔は痩せこけ大きな隈もあり、やつれきったその姿は記憶の中の彼とは違ったものではあったが。
「なんだ、だんまりかよ。
仕方ねえ、一方的にしゃべるか。」
まさか楽しくおしゃべりをするために僕をここまで誘い込んだわけでもあるまいに。
警戒して身構える僕とアイを前に、ロウリーは語る。
「おまえ、あの時、俺に尋ねたよな。
【転生者】は、どちらですか?ってよ。」
あの時。
それは以前に僕がセラァと名乗る転生者を殺害した時に他ならない。
さらに言うなら、そのセリフは転生者を二択まで絞り込んだものの、最後の決め手に欠けていた当時の僕が発した言葉だ。
まさか二度同じ世界に来ることなど、ましてやあの一言が後にここまでの展開を見せるなどとは思いもしなかった僕の落ち度とも言えるだろう。
無論、ただの結果論ではあるが。
「それから色々調べたんだ。絶望の中でな。
セラァは他人から恨みを買うような人間では、ましてや殺されるような人間では決してなかった。
善良な、幸せになるべき女だった。
殺された理由として思い当たるものはたった一つ、セラァがおまえの言うところの【転生者】だったから。
そうなんだろう?」
「……正解だ。」
僕がロウリーの問いかけに答えると、彼は自身の仮説が正しかったことに対する満足そうな、それでいて言いようのない憎しみのこもった複雑な表情を浮かべた。
そして息を吐き、震える唇で続きを語る。
「だから、もしも他にも転生者がいたとすれば、きっとおまえはソイツを始末しに現れる。
一時期を境に一切の風の噂が消えたおまえをおびき寄せるためには、俺が先に転生者を探し出す必要があった。
結果、こうしておまえは俺の前に居る。
はは、眉唾物の胡散臭い資料にまで手を伸ばし、おとぎ話だと言われた転生者の存在を信じて探した甲斐があったわけだ。」
ロウリーの予想は実際には誤っている。
転生者が居たとしても、現れるのは僕、つまりエージェントAa004だとは限らない。
いや、実際にはむしろ僕が現れる可能性の方が極端に低かった。
しかし運命のいたずらとでも言うのか、現実として今ここにエージェントAa004とロウリーは再会している。
「今でも夢に見るんだ。
あの時、俺がもっと強ければおまえに好き勝手させなかった。セラァは死ななかった。」
ロウリーの目には今や僕しか入っていないのだろう。
この場の転生者やアイの存在を無視するかのように、真っすぐ僕だけを見据えている。
「あの時、俺がもっと注意深ければおまえという存在に警戒を抱けた。セラァは死ななかった……!」
ロウリーの言葉が、強く。
「あの時、あの時!あの時!!あの時!!!!」
抑えていた激情を吐き出すように、強く。
「おまえさえいなければ!!俺の、セラァの人生は狂わなかった!!!!!」
心からの、憎しみの叫びへと変わった。
「セラァさんは、あなたが寿命を縮めてまで仇を討ってくれることを本当に望んでいると、」
「黙れ、殺すぞ、その使い古されたきれいごとを二度と口に出すな。」
アイの言葉は、思っているんですか、と言い切ることすら待たずに遮られる。
口八丁でどうにかしようと思ったのだろうが、もはやこの期に及んではそれが無理なことは明白だ。
「逆に聞いてやる、なぜ望んでいないと言い切れる?
自分を殺した相手を、心底恨んだ相手を、誰かが殺してくれることをなぜ望んでいないと考えられるんだ!?」
答えられずにアイが黙る。
憎しみの対象である僕が言うのもなんだが、ロウリーのその持論には一理ある。
それが本物だったのか幻だったのかは定かではないが、実際に僕は夢幻領域にて、過去に殺めた転生者たちに口をそろえて死ねと言われているのだから。
「だが、そもそもセラァが仇討ちを望んでいようがいまいが関係が無い。シンプルな話なんだ。」
長かったような、短かったようなお喋りの時間が終わる。
「セラァじゃなくて、この俺が!!!!!
おまえがのうのうと生きていることを!!!!!!!!!
どうやったって許せねえんだよ!!!!!!!!!!!!」
そして、呪いの籠った魔力が空間に渦巻いた。