Fd27528世界 コンラート王国 【疲弊】
それからも襲撃は続いた。
町に入れば金を握らされた浮浪者によるすれ違いざまの攻撃。
常に先生と行動を共にしたおかげで事なきを得たが、私が人質として攫われそうになったことも何度もある。
さらに恐ろしいことに、あの地獄のような火事はもう一度起きた。
そこは前回よりも大きな町だったけれど、まるでなぞる様に結果は同じだった。
「これは、人のいる場所にはいられないな。」
「私も、そう思います……。」
相談の結果、必要最低限の物資で野宿をして時間経過を待つことになる。
ただそれは他の人々を巻き込むわけにはいかないという高尚な理由よりも、人気のない360度見渡せる場所の方が襲撃の主を発見しやすいという打算的な理由が大きかった。
「先生、魔物です!」
「くそ、やはり直接は来ないか!」
しかし町を出れば不自然なほどに大量の魔物による襲撃が待っており、休まるときなど無い。
交代で仮眠を取ろうにも、私一人で対処できる事態などはたかが知れているので必然的に先生の力が必要になる。
私の器はこの世界との相性は悪くなく、大の男であろうと悠々と倒すことのできる程度には魔法の才に溢れていたものの、いかんせん相手と先生の実力が別次元だ。
数百の魔物を相手取れるほどの実力は私にはない。
「流石にキツイものがあるな。
……アイ、今、何日目だったかな?」
「4日目の朝です、先生。
あと少し、あと少し耐えきれれば、意識の海に帰れますよ。」
「そうか、そうだね。
ああ、今までにも何度か不眠不休で活動したことはあるけれど、常に命を狙われた緊張状態での不眠不休は、苦しいもんだ。」
先生の目の下には大きなクマができており、もはや疲労は隠し切れない域にまで達している。
そして先生と行動を共にしている以上、それは私も同じことだった。
「先生を狙っている相手の正体は、やはり五大英雄の一人、“操心のルーチェ”なんですかね。
私たちの野宿中に襲ってくる魔物に関しても、数え切れぬほどの魔物の群れを意のままに操るという特徴に当てはまっていますし、その、以前撤退を余儀なくされたということで先生に強い恨みを抱いている人物の一人かと。」
「可能性はあるね。」
少しでも気を抜けば睡魔に意識を奪われてしまいそうで、なんとか頭を働かせながら会話をする。
少なくとも会話が続いている以上は、お互いに眠ることはない。
「ただ、実はそれほど高い可能性ではないんだ。」
「え、どうしてですか?」
「まず第一に、相手が本当に“操心のルーチェ”なら、襲撃に使う魔物はもっとレベルが、危険度が高い。
具体的に言うと、今襲ってきている魔物10匹よりもヤツが使う魔物一匹の方が強い。
ヤツの本気はこんなものじゃないよ。」
絶句する。
今先生が相手にしている魔物とて、その一匹一匹が強力な魔物だ。
私では一対一ですら倒せるかどうか怪しいレベルの強さにさえ思える。
それでもなお「こんなもの」と言えるのは、流石は世界最強と思わざるを得ない。
「でも、魔物の使役だなんてそう簡単に誰でもできるものなんですか?」
「いや、普通はできない。けれどそういう禁術がある。」
「また禁術、ですか。」
「ああ。本来は誰に伝わることも無い文字通り禁止された術。
けれどこうしてその存在を僕が知っているように、確かにその方法は受け継がれている。
ファンタジーの世界線なら、けっこうどの世界にもあるもんなんだよ。
己の命と引き換えに強大な力を得る方法が。」
そう言われて納得する。
私もかつてD世界の役職の箱庭で、寿命と引き換えの悪魔の秘術に頼ったことがある。
やはり寿命とはその世界だけに適応されるものではなく、ただ漠然と、私の意識がごっそりとすり減った感覚があるのだ。
ただ、それだけに禁術・秘術といったものが強力だということも身に染みて理解している。
「だから、相手が誰だか特定はできない。
禁術さえ手に入れてしまえば誰にだってここまでのことはできる。
ただ。」
「はい、その、それほどまでに強烈な憎悪を抱いている人物だ、ということですね。」
「その通りだよ。
これだけの禁術の連発、術者の寿命ももうほとんど残されてはいないだろう。
復讐のために無関係な大勢の人間を巻き込むだけでなく、自分の命をも惜しげなく投げ出す。
尋常じゃない恨みだ。
だから特定はできない、が、おそらく相手は――」
そのとき不意に、手紙が届いた。
恐らくはるか上空から、使役した魔物によって落とされたのだろう。
おどろおどろしい、血で書かれた手紙が。