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Fd27528世界 コンラート王国 【最強】

 

 このFd27528世界には、五大英雄と称される規格外の能力を持つ存在がいる。

 例えばある者は魔法で地震を引き起こし、例えばある者は拳圧で建造物を吹き飛ばす。

 彼らは集団としてあるのではなく、圧倒的実力を備えた個々を周囲が勝手にまとめて呼んでいるというだけらしいのだが、称号や肩書きなんかをつけたがるのは人の性だろう。


 その五大英雄に含まれる一人、“操心のルーチェ”を激戦の末に撤退に追いやったのが他ならぬ先生、エージェントAa004だということだ。

 その肩書き通り目視では数え切れぬほどの魔物の群れを意のままに操る“操心のルーチェ”に対し、先生は剣や魔法・罠等、あらゆる手を用いてそのほとんどを撃退したのだとか。

 そうしてついた称号が“殲滅のフォー”。

 ここまでが、先生のこの世界での経歴だそうだ。



「この世界では他にも迷宮に囚われた人々の救出だとか、村を襲うドラゴンの討伐だとか、色々とやっていたからね。顔は広いし、良い意味で有名みたいだ

 もちろん、だからこそ僕が邪魔だという人間もいるだろうけどね。」



 酒場を出た後、先生が以前にも使っていたという宿屋で部屋を取り、任務の初日の定例となっている作戦会議を行う。

 田舎だけあって土地は広く、宿屋の部屋も素朴ながら今までに経験してきた部屋よりも広い。



「同じ世界に来た場合、肉体は当然前回と同じパフォーマンスを発揮することができる。だから今回の僕は任務達成における最強のカードだと考えていい。

 ただし注意しなくちゃいけないのは、滞在猶予期間は前回と同じとは限らないということだ。

 前回の僕の任務の時には100日間もあったんだけれど、今回の場合は滞在猶予期間はたったの5日間だけだからね。」


「今回はたった5日間という限られた期間で転生者を探し出さなきゃいけないんですね。

 しかも絞り込みは不十分、転生者の名前はおろか、場所もおそらくこのプリム領周辺だろうということしか分かっていない……うーん、難しいですね。

 状況はB世界のララマリアと似ていますけど、あの時は超能力なんて便利なものがあったうえに、それでも結局は滞在猶予期間ギリギリでしたし。」



 今までの私の任務の中で、転生者が特定できていなかった案件は二つ。

 一つはA世界の日国。しかしこの時はほぼ先生に任せっきりで、そのうえ特定こそできてなかったものの人数は随分と絞られていた。

 もう一つは先ほど話題にも挙げたララマリア。こちらは超能力ありきの解決で、今回も同じ手は使えない。



「その、参考までに教えてほしいのですが、先生は普段転生者を特定するためにはどんなことをするんですか?」


「うーん、本当はもう少し自分で考えてごらんと言いたいところだけれど、今回は本当に時間が無いしね。仕方ないか。」



 先生は安易に結論を教えることに少し渋った様子だったけれど、すぐに切り替えて教えてくれようとする。



「普通の転生者は大体目立つってことは、ララマリアで教えたよね?」


「はい。子どものころから中身は大人だったり、そもそもその世界とは別の世界線の情報を持っていたりで、思想・発想的な面で嫌でも目立つ、と。」


「うん、正解。よく覚えていたね。

 でもここで聞き取りを行った限り、そんな人物はいなかった。」



 そうなのだ。

 先生と私はなにも酒場で雑談やファンサービスだけをしていたわけではない。

 それとなく探りを入れて、心当たりのある人物はいないかと聞き取りをしていたのだ。

 ただしその成果は実らず、結果としてこうして先生に質問をしているというわけだ。



「じゃあ単純な話だ。

 未だ会っていない・会えていないというのが一番濃厚な可能性になる。

 同じ場所で聞き取りを続けるよりも、何かわかったことがあれば連絡をもらえるように取り次いだうえで次の場所に向かう。

 それが一番やり方としては効率がいい。」


「なるほど。結局、地道な努力が一番ということですね。」


「その通り。

 情報は足で稼げってことさ。」



 ベテランエージェントの先生だからこそ裏技のような何かを持っているかと思いきや、なんてことはない。

 先生は面倒で地道な当たり前のことを、当たり前にこなすからこそベテランエージェントとして今なお健在なのだと改めて思い知る。

 そして先生のありがたい指導を受け、話し合いの末に私たちは翌朝この場を発つことになった。



「じゃあ、明日は朝からしっかりと歩くためにも、今日はもう寝ますね。」


「あ、ちょっと待ってくれ、アイ。

 これだけは聞いておいて。」



 寝るための準備に取り掛かる私に、珍しく先生が待ったをかける。



「僕がこの世界で最強の一角ということは、だ。

 僕の命を狙う連中は正面から正々堂々なんて方法はまず取らず、あらゆる手を考えてくるということでもある。

 それこそ普段の僕たちみたいにね。

 だから、警戒だけは常に怠らないようにしておいてくれ。」


「な、なるほど。

 わかりました、肝に銘じておきます!」


「うん、引き止めて悪かったね。

 それじゃあおやすみ。」


「はい、おやすみなさい。」



 ……そして私はこの世界で、狙われる側の恐怖を思い知ることになるのだ。



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