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Sy10592世界 夢幻領域 【戦闘】

「わが魔力よ、形を成せ。仇敵を屠れ。ヴェントブレイド。」


「射出!魔弾『炎』!」


「オーダー13、エレクトリック。」


「創造具現氷塊連鎖!」



 いくつもの詠唱や掛け声とともに、風の刃と炎の弾丸、紫電、氷塊と多種多様な攻撃が飛んでくる。

 実弾銃撃や光線銃撃、果ては手裏剣や鋲など、そこには当然分かりやすい詠唱や掛け声の必要のない攻撃も含まれる。


 なるほど確かに遠距離攻撃は非常に効果的だ。

 遠距離からの一方的な攻撃であれば他の転生者を傷つけずに済むし、いくら優秀と評される僕だって流石にあれだけの数の群れの中に真正面から突っ込んでいけるほどの命知らずではない。


 敵のアクションを前に僕は姿勢を低くしつつ右手を前にかざし、左手を地面にかざす。

 雷や風のような攻撃を防ぐために超能力でシールドを展開。無効化する。

 弾丸のような物理的な攻撃に対しては魔法で重力を操り、僕に届く前に地面に叩きつける。

なぜだろう。確かめるまでもなく、今ならなんだってできる気がした。



「喝ッ!!!」



 同時に大気を震わすほどの発声。

 敵の脳を揺らし気を奪う、とある世界の無手戦闘技術。

 多対一の戦闘で効果的であるこの技術は群れの半数以上をその場に崩れさせた。

 遠距離攻撃を仕掛けてくる手合いは、基本的にどこの世界でも打たれ弱い。

 雨のような一方的な遠距離攻撃が、ようやく止んだ。



「我ら矮小なる存在に慈悲をお恵みください。プロレマ。」



 が、群れの後方に位置する少女の小さなつぶやきによって、倒れた連中が再び立ち上がる。

 ……あれはたしか、Fの世界で聖女ともてはやされた治癒術師。

 非常に厄介だ。

 アイツは一刻も早くに潰したい。

 幸いなことに今は両手が空いている。

 カードゲームで世界の存亡を争った世界を思い出そう。確かあれはKの世界だったか。



「召喚、ドラゴン・アナンタ。」



 僕は腰に付けたデッキケースからカードを一枚抜き取り宣言する。

 同時にヤツらの上に空から降って落ちる、ドームほどの大きさを持った大蛇。

 ある者は部分的に切り刻み、ある者は拳によって押し返し、ある者は結界を張ろうとする。

 即座に対応できる者は少なくなかったが、咄嗟のことに反応しきれず命を落とす者が一定数いるはずだ。


 ドズンと鈍い音。加えて悲鳴と断末魔。


 結果として一瞬にして大蛇は絶命したが、その死体はそのまま転生者の群れに降りかかり、やはり一定数の者を下敷きにした。

 カードとしての効力を失ったドラゴンが消滅すると、下敷きとなって潰された者たちが見える。

 その中には先ほどの聖女の亡骸も見られた。


 上出来だ。



「火遁、飛来火球の術!」


「射撃魔術『空砲』。」


「バースト・バースト・バースト。」


「戦時コード、轟雷砲!」



 再びの遠距離攻撃。

 戦闘開始直後と同様の手。

 ならばこちらの対処も決まっている。

 右手を前に、左手を下に。

 そして同時に大気を震わす発声を――



「構築、『無音世界』。」



 やはり群れの後方、その姿は巨漢の僧。

 ヤツのその言葉を最後に、この世界から音が消えた。

 そうか。

 そんなに早く死にたいか!


 先ほどの聖女と同様、次の狙いをヤツに絞る。

 が、先ほどの聖女の二の舞は踏まぬということか、僧の周囲を見るからに接近戦に向いていそうな屈強な男たちが固めている。


 ……馬鹿が!!



「は!?」



 声にならない声、ではない。

 たしかに世界に音が戻ってきた。

 そして巨漢僧の周囲の混乱が手に取るように伝わってくる。

 それもそのはず、周囲を囲んでいた男たちの内の一人が、突如として仲間の巨漢僧を切り殺したのだから。


 視線を合わせて10秒。

 これで操ることができるのは脳筋の馬鹿だけという難儀な能力だが、この場においてはこれ以上ないほどに効果を発揮したと言えるだろう。

 ただ、それでも遠距離攻撃は止まない。

 じゃあ、今度はこれはどうだ?



 《上だ!!》



 転生者のほぼすべてが、脳内に響くその言葉に反応して上を向く。

 しかし上にあるものなど何もない。

 ダメじゃないか。ほら、遠距離攻撃が止んだ。



「広域掃射、双手弾。」



 無防備な転生者共に、両手から殺傷能力を持った無数の気を放つ。

 これでまた、一定数が削られた。

 本来テレパシーは、戦闘とはまったく関係のない世界の能力。

 ただ、生きるか死ぬかの精神を極限まで張り詰めた戦闘中に、直接脳に語り掛けられて反応しない者などまずいない。

 使いようによっては、こうまで凶悪な武器になるのだ。



「ふ、ふふふ。」



 僕が根が自信家ではないというのは、嘘じゃない。

 どんな世界での任務だって、いつ自分の意識が消滅し、完全な死を迎えるか怯えているのだって、本当だ。



「ふふふふふふふふ。」



 けれどこの溢れる力をもって、好き勝手できるだなんて。



「楽しすぎるじゃないか!!!!」



 そう、楽しすぎるのだ!!!!



「なあ、そうだろブラック!?」



 いつの間にか星屑に搭乗して襲い掛かってきたブラックことキムラトウジに、僕は生身のままカウンターパンチを浴びせる。



「ぐがっ!!」


「あの世界では正攻法で手も足も出なかった君を、今なら生身で翻弄できるよ。」



 僕の足は崩れ落ちる星屑ごと、頭部を踏み砕く。


 ふと思った。

 今、僕はいったいどんな表情をしているのだろうか。


 ……まあ、どうでもいいか。



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