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Jg93998世界 愛ノ町 【部活】

 愛ノ町恋坂府立純愛高等学校。

 この高校の正式名称である。

 どうでもいいが「愛ノ町」というのはいわゆる国名であって、一般的にこの学校は純愛高校と呼ばれるらしい。


 この学校に転校して来て、なんと早くも一か月が経っていた。

 その間の私はというと転生者アイキの所属する、とある部活に入部し部員同士の親交を深めていた。


 その部活は科学部。

 マトモそうと思うことなかれ、その実態は愛力という名の訳の分からないエネルギーを用いて、摩訶不思議な実験を繰り返す部活なのだ。



「よし、発射。愛力ビーム!」



 凛とした女性の声のもと、怪しげな装置に桃色の光が集約され、勢いよく光線が発射される。

 その光線は目標物である鉄製の硬貨を貫通し、後ろの愛力遮断板に当たることで消滅した。



「おお!部長、やりましたね!

 鉄を貫通するレベルの射出だなんて!」


「いやいや。全国高等学校科学研究大会の愛力部門で優勝を目指すからには、こんなことで満足していてはいけないよ。」



 今しがた怪しい実験器具を使って、部室で愛力ビームという非常に怪しいピンク色の光線を発射したのが部長である。

 部長は3年生で、ロングの銀髪が絵になる女性で、ついでに生徒会長。

 そんな部長に合いの手を入れているのが、2年生の男子部員である副部長だ。

 ショートの金髪が似合う副部長は良く言ってスポーツマン、悪く言えばチャラ男のような風貌だが、実際のところは非常に優しく温厚な頼りになる人物である。


 この二人は相思相愛であり、実験に使用する愛力はすべて自前である。

 見つめ合ってピンク色に発光。

 手が触れあってピンク色に発光。

 とにかくピンク色に発光。

 そうして自らが生み出した愛力を元に、奇怪な実験を繰り返しているのだ。



「たしか昨年度の優勝校は、言語認識機能付き自立二足歩行型愛動力ロボットを作ったんですよね。」


「お、偉いねアイ。自主勉強でもしてきたのかな。

 同じ一年生なんだから、アイキも見習いなよ?」


「俺だってそれくらいちゃんと分かってますよ、副部長!」



 部長と副部長の他に、この科学部の部員は二人。

 すなわち私と転生者であるアイキだけだ。

 つまり元々の部員は部長、副部長、アイキの三人であったということになる。


 なぜ、私がこの科学部に所属しているのか。

 それは私が転生者であるアイキにとって近しい人間となるためである。

 なぜ、私がアイキにとって近しい人間となる必要があるのか。

 それはアイキから自主的に、私にキスをさせるためである。

 ……不愉快だ!


 そしてなぜ、不愉快なのにも関わらずキスをさせるという方法でアイキを殺そうと考えているのか。

 その答えは簡単、キス以外ではこの世界の人間は死なないからである。



「そういえば聞いてくださいよ部長。

 今朝俺、車にはねられたんですよ。いやあ、ビビりました。」


「そうは言ってもアイキ。キミ、今月だけでもう車にはねられるのはたしか4回目だろう?」


「いやまあ、そうなんですけどね。

 でもやっぱり慣れなくて、ビックリするもんですよ。」



 車にはねられても、こんな軽い会話で済む。

 大きな怪我をすることはまずなく、仮にあったとしても気付けば治っている、そういうものらしい。

 そしてどうやら病気という概念はあっても、命を落とすような病気はない。

 例えるならそう、A世界のギャグマンガのような世界だ。

 流石にこんな馬鹿げた世界だということの情報は事前になかった。

 ちなみに試しに恐る恐る包丁を自分の腕に押し付けてみたところ、薄皮一枚すら切れなかった。

 野菜はサクサク切れるのに、なぜだ。


 しかし、ならば人間はキスさえしなければ、その気になれば何百年でも何千年でも生きることができるのかといえば答えはNOなのだとか。

 歳を重ねるにつれて自らキスをしたいという欲求が高まっていき、抑えられないものとなっていく。

 そのためむしろこの世界の平均寿命は低いらしい。


 それらしいことを聞き、なるほどと思わなくもないが、冷静に考えれば考えるほど訳の分からない世界だ。

 結局のところ、この世界はそういうものとして割り切って、深く気にしてはいけないのだという自戒に落ち着く。


 この世界において重要なことは一点。

 任務を達成するためには、転生者にキスをさせなければならないということだ。

 もちろんその相手が私である必要はないが、なんにせよある程度の近しさはあるにこしたことはない。



「ところでアイアイキ。」


「だから俺とアイを繋げて呼ばないでくださいよ、なんかアホっぽくなるじゃないですか。

 っていうかわざとでしょ。」


「うん、わざとだよ。

 で、二人は科学部の一員で、それも愛力を研究してるときたものだ。

 愛力ぐらい、自前で用意したらどうだね?うん?」



 ニヤニヤと私たちをからかう部長。

 それを見ながらも、特に止めようともしない副部長。



「別に、俺には俺の、アイにはアイなりのやり方があるんですよ!」



 そういうアイキの身体からはほんのりとピンク色の光が見えた、ような気がした。

 ……任務は順調、なのかもしれない。

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