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Aa00005世界 ジェペェン 「難しい話。」

 

「まあ座れ。

 先に言っとくが、難しいし面白くもないうえに根拠の無い話が続くぞ。」



 それから三日。

 悪い意味で有言実行。

 あれ以降本当に意識の海のことには言及せず、ぐだぐだ生活を満喫していた師匠だが、流石にオレからの催促に根負けしたのか、ようやく話す気になったらしい。



「まず前提として、意識の海ってのは俺たち意識の還る場所であって、恐らくエージェント全員の意識は同じ場所に還っている。

 そうじゃないと目を瞑った時の感覚に近いだとか、俺たちが意識の海について共通のイメージを持てているのがおかしいからな。」


「お待たせしました、いちごパフェとチョコバナナパフェになります。」


「おっ、きたきた。」


「シリアスな雰囲気、台無しだな……。」



 転生者もいない今、特に家でしなきゃいけない話じゃねえ。

 せめて気分は明るくしないとな。

 そういった師匠の提案で、オレたちはお洒落な喫茶店で話していた。



「さっちゃんも食いながら聞けよ、溶けるぞ。んで、続きな。

 全員の意識が同じ場所に還っているのであれば、それにもかかわらず基本的に俺たちが意識の海で互いに関わることが無いのはなぜか。

 それはおそらく意識の海というものが、文字通り海のように広い場所だからだと俺は思っている。」



 いちごパフェを口に運びながら、時に「美味しー!」と女子のようなリアクションを交えながら、師匠の話は続く。

 もしかしたら重く、深刻に考えすぎないようにとの師匠なりの配慮なのかもしれない。

 ……もしかしたら特にそんな意図は無く、ただ単に甘いものが大好きなだけかもしれないが。



「俺たち意識は例えるなら海の中の砂粒みたいな大きさで、だから同じ意識の海という場所にいても他の意識と出会うことはない。

 だから仮に俺とさっちゃんが意識の海で会おうとしたって無理なわけだ。

 まあそもそも意識の状態じゃあ会おうにも動くも何もないんだが。」


「確かに、ここまでは納得できるよ。

 意識の海に一人でポツンと存在する感覚。あれは本当に、近くに誰もいないことを嫌でも実感するから。」



 オレはその感覚が今でも怖い。

 今では師匠がいつも側にいてくれるから夜も大丈夫だけれど、意識の海に還るのは本当は嫌だ。

 そんな心中を察してか頭をポンポンと撫でてくる師匠。

 普段はおちゃらけて見せるけれど、やっぱり師匠は信頼できる人だと改めて思う。



「さて、ここまでの仮説が合っているとしたら、じゃあ本来他者と関わることの無いハズの意識の海に干渉してくる連中は一体何なのかってことになる。

 俺たちに指令を発し、様々な世界へと送り込む奴らな。厳密には奴()とも限らんけれど。」


「うーん、例えば神様とか?」


「ないない。

 絶対にありえんとは言わんが、限りなく可能性は低い。」


「なんで?」


「本当に全知全能の神様の類で本当に転生や転移をどうにかしたいなら、わざわざ俺たちエージェントなんかを使わなくても神の力で撲滅すりゃあいいからな。」


「あ、なるほど。」


「ところでアイス、溶けてんぞ。」



 師匠の言葉に、急いでアイスの溶け始めた部分に手を付ける。

 真剣に話を聞いていたら、パフェを食べる手が止まってしまっていた。

 師匠のパフェはもう残りわずかだというのに。



「ちなみに意識の海に干渉してくる連中の正体。

 一番可能性が高いのはAa00000世界の人間で、アホみたいな謎の技術で意識の海に干渉してるって説が少しは有力なんだけどな。」


「ん?なんでそうなるんだ?」


「世界線番号については流石に既に話したはずだが、覚えてるか?」



 パフェ用の細長いスプーンでビシッと指される。

 確かにその話はずいぶん初めの頃に聞いた覚えがある。



「えっと、まずAa00000世界と定められた世界があって、その世界からどれだけ離れた世界かを表した番号、で合ってるよな。」


「正解。じゃあその基準となるAa00000世界って、どうやって決められたと思う?」


「うーん、流石にくじ引きとかでは無いよな……駄目だわかんねえ。」


「普通に考えれば自分の世界、つまり世界線番号を定義づけたヤツが住んでる世界を基準の世界と考えるんじゃねえかって話。」


「えっ、ちょっと待って、情報量多いし難しいしよくわからなくなってきたんだけど。」



 オレは自分があまり頭が良くない自覚はあって、そのうえで一生懸命に考えを巡らせるのだけれど、残念ながらあまり上手に理解できたとは言い難い。

 ただそれを気にするでもなく、師匠はあっけらかんと言い放った。



「まぁ、また復習ってことでいつでも教えてやるよ。

 けど別に理解しようとしなくていいぞ。

 あくまでも、ぜーーーーーーーーんぶ、ただの俺の予想だからな。

 前提としてるエージェント全員の意識は同じ場所に還っている~ってところから間違ってたっておかしくはないし。」


「それでもさあ……。」


「しかも万が一、俺の説が大当たりだったとしてだな。

 だったらどうなるってわけでもねえんだよ。

 どのみち俺たちがやることなんて、派遣された世界で転生者をぶち殺す、たったそれだけなんだから。」



 確かにそれはそうなんだけど。

 自分を取り巻くものくらいは、予想でいいから知っておきたいじゃないか。








「……ところで、その残ってるパフェもらっていい?」


「ダメ。」




 エージェントIh030

 エージェントAa015

 残り滞在猶予期間【7日】。


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