Aa00005世界 ジェペェン 「山だああああああああああああ!!!!」
「ぜえ、はあ、ぜえ、ぜえ、ぜえ……。
だ、駄目だ、俺はもう駄目みたいだ。
さっちゃん、いやエージェントIh030よ。
このエージェントAa015の屍を超えていくがいい……。」
師匠がその場に崩れ落ちる。
ここまで弱った師匠は今までに見たことは……いや、つい最近あったな、海で。
「ほら、休憩取るからもうちょっと頑張ろうぜ師匠。
もうすぐで山頂だって看板出てただろ?」
「う、嘘だ!もうすぐ山頂って案内が出てからもう1時間は歩いてるだろ!?
もうすぐっていったいどれぐらいだよ!」
「ええい、大人が子どもみたいに駄々こねんな、みっともない!」
汗だくの顔をタオルで拭いながらぶつぶつと文句を言う師匠。
今日は「おまえもやりたいこと、考えとけよ!!」と言われて「じゃあ海の次は山に行きたい」と答えた結果、標高約1500mほどの山へ登山に来ている。
「こんにちは。」
「こんにちはー。
暑いですねえ。あ、お先にどうぞ。」
「最近は本当に暑いねえ。
それじゃあお言葉に甘えますねぇ。」
「ありがとのう。」
挨拶を交わしオレたちの後ろから来た老夫婦に道を譲る。
そう、別に登山と言っても道なき道を登っているわけではなく、普通にオレたち以外にも登山客がいるような観光登山だ。
またこの世界はAa00000世界にとても近いこともあり、魔物だのなんだのが出るわけでもない。
つまり師匠がへばっているのは単純に体力のなさが原因だ。
「おい師匠。老人に追い抜かれてるけど、あんたにはトップエージェントのプライドだとかそういうもんはねえのか。」
「そんなもんがあるような人間に見えるか?」
「……見えない。」
「よくわかってんじゃねえか。」
まあ単純にこの世界では師匠の器があまり合っていないというのが主な原因なんだろうけれど、「そもそも俺は普段から短期決戦型だから体力使うようなしんどいやり方は滅多にしねえんだよ!」とは師匠の言葉である。
「ほら、そろそろ登るぞ、師匠!」
「まあここまで来たらには頂上からの景色くらい拝まねえとな。
うし、頑張るかあ。」
重い腰を上げて二人で歩く
進む先に見える景色は空が近くなっていて、本当に山頂はもうすぐなんだということがわかる。
「ところでさっちゃん、なんで登山だったんだ?
確かに海ときたら次は山だってのは分かるんだが、山って言ったってバーベキューだとか他にもやることあるだろうに。」
ところどころで息を切らせながらも師匠がオレに問う。
最初はただぼんやりと頭に浮かんだから、程度の理由だったのだけど、きっとオレは山に登るのは初めてではないんだろう。
師匠が言うみたいに、たぶんエージェントになる前に何度か経験しているんだと思う。
「うーん、大きな理由は達成感があるからってことだろうな。
ほら、自分の足で一歩一歩積み重ねて行くっていうのは楽しいじゃん?」
「真面目だねえ。」
「お、もう山頂だ。
師匠、こっちこっち。」
山頂の案内が出ている看板を通りぎて、師匠を見晴らしの良い位置まで招く。
「……ああ、なるほど。
たしかに悪くはないな。」
「だろ?」
眼下に広がる景色に一瞬目を丸くした師匠を見て、その言葉が本心であることに満足する。
山頂には他にもチラホラ人に姿があって、先ほどの老夫婦にも手を振った。
「なあ。あたりまえだけど、これまた下りなきゃいけないんだよな?」
「ああたりまえだな。」
「うっへえ。」
「まあまあ。下りは脚にクるけど、登りより息切れはしないからラクだよ。」
「信じるぞおい。」
時刻はとっくに昼を過ぎたころ。
持参した携帯食料、おにぎりを食べながら師匠をなだめる。
帰りは宿で美味しいご飯が待ってるぞ、だとか、疲れ切った後の温泉は最高に気持ちいいぞ、だとか。
これじゃあどっちが大人なんだか。
「ただまあ、おまえが楽しそうなのが何よりだよ。」
でもポロッとこういう発言が出るあたり、師匠にとってオレはやっぱり同僚や後輩じゃなくて、子どもなんだろうなあと思う。
「うん、楽しいよ。」
「おお?珍しい、素直だな。」
「たまにはな!」
ついでにオレが登山を好きなもう一つの理由。
それは同行する人物と、たわいない話をしながら同じ時を過ごせるからだよ。
それは言葉にしなかったけれど、きっと伝わってるような気がした。
エージェントIh030
エージェントAa015
残り滞在猶予期間【26日】。