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Aa00005世界 ジェペェン 「海だああああああああああああ!!!!」

「こういうパターンも無いわけじゃないんだわ。

 俺たちに手を下されるまでもなく死んでるパターン。別に転生者全員が幸せな人生を用意されてるわけでもないしな。

 とはいえ転生反応光が観測されてから俺たちエージェントが派遣されるわけだから、現地に着いてみたら実は既に対象が死んでましたってことはまずありえない。

 だから今回みたいに俺たちの到着直後に亡くなるってのが一番レア且つラクなパターン。」



 とは、師匠の談。



「えーと、つまり滞在猶予期間ってのが意識がその世界で肉体にとどまり続けることのできる期間である以上、オレたちってもしかして既にこの世界でやることなくなってない?」


「馬鹿言え!んなわけあるか!!」


「な、なんだよデカい声出して!」


「一番重要なことが残ってる!!」



 それは後から振り返ると、今まで聞いてきた師匠の言葉の中でも一番真剣な物言いだったように思う。



「のこりの時間、好きに過ごすことだ!!!」









 と、そんなやりとりがあり。

 オレたちは今、海に来ている。


 太陽の光を受けてきらめく砂浜。

 同じく太陽の光を受けてきらめく水面。

 どこまでも続く海は澄んでいて青く、遠くむこうには水平線が広がっている。

 わざわざ調達したビーチパラソルを設置してその下に荷物を置く。

 その間にも視界の端にはときおり魚が跳ねる姿も見られ、心躍るのは間違いない。

 この世界の住人には海水浴の風習が無く、人がほとんどいないのも貸し切り感があって開放感がある。



「うっひょおおおおおおおおおおおおおおお海だああああああああああああああああ!!!!」



 だが勘違いしないでほしい。

 テンションMAXで騒いでいるのは断じてオレではなく師匠、いや、もはやただのおっさんだ。



「よおおおおおおおおし泳ぐぞさっちゃん!!!!

 俺に続けえええええええええええええ!!!!」



 おっさんは叫ぶと海パンにゴーグルという泳ぐ気満々の格好で走りだした。

 呆れるオレに目もくれず大いにはしゃぐ姿は師匠らしいといえば師匠らしいが、それにしてもいつになくテンションが高い。



「……って、おい!師匠!?」


「ごぼがぼがぼ……」



 見れば師匠がそれはもう明らかに溺れている!

 まさかカナヅチなのか師匠!?

 初めて師匠の弱点らしい弱点を知ることができたけれど、そんなことを考えている場合じゃない!



「ほら師匠!引っ張って泳ぐからオレにつかまれ!!」


「た、だすがるっ!!」



 今まで見たこともないくらいに弱々しく必死な師匠を連れてなんとか泳ぐ。

 良い歳した成人男性を引っ張るのはいくら水中でも大変だったが、幸いにも足の着く場所まではあまり離れていたわけでもなくなんとか助けることに成功。

 息を整えながらとりあえず砂浜のビーチパラソルまで戻る。

 ぜえ、ぜえ、と言葉すら発することのできない師匠の背中をさすってやる。



「わ、わりいな、本当に助かったわ。」


「無事に引き上げられたし別にいいけどさぁ。

 でも師匠、泳げないのになんでそんなにテンション高く海に入っていったんだよ?」


「いやだって俺、自分が泳げないだなんて知らなかったし。」


「は?」



 ようやく喋ることができるようになってきた師匠に疑問を投げかけると、思いもよらない返答が返ってきた。

 自分が泳げるかどうかがわからない?



「それってどういうこと?」


「んー、俺泳ぐの初めてなんだよなあ。」


「えっ、マジで?」


「もっと言えば肉眼で海を見るのも初めて。」


「えっ!マジで!?」



 器に事前に収集されたその世界に関する情報を記憶として添えること、いわゆる肉体に添えるという委員会の技術のおかげで、海という知識こそ持っているものの師匠はこれまで直接海を見たことが無かったらしい。



「ん?でも師匠が海を見たことが無いってことは、当然オレも見たことも泳いだこともないはずなんだけど……?」


「そりゃあきっとおまえがエージェントになる前の経験なんだろ。

 多分俺はエージェントになる前から海を見たことも泳いだことも無かったってだけのことだよ。」



 エージェントになる前。

 そういえば前の世界でもそんなようなことを言われた気がする。



「なあ師匠、それって、」


「よーし休憩終了!

 ということでさっちゃん、俺に泳ぎを教えてくれ!!」



 勢いよく立ち上がり、オレの言葉を遮る師匠。

 きっと、今はまだそのことについて話す気は無いということだろう。

 ならオレも無理に聞き出そうというつもりはない。

 大丈夫、いつか然るべきタイミングで教えてくれることだろう。

 だってこの人は信用できるオレの師匠なのだから。

 ……恥ずかしくて面と向かっては言えないけれど。



「しゃーねえなあ。

 手取り足取り教えてやるよ。

 そのかわり、その間はオレのことを師匠と呼んでもらおうかな?」


「押忍、師匠!」


「ちょっ、冗談だよ師匠、紛らわしくなるだろ!!」



 師匠の泳ぎがマシになるのにかかった時間はせいぜい数時間。

 流石にこんなおっさんでもトップエージェント、筋がいい。

 結局その後は泳ぎだけじゃなくて色々なことをした。



「右、右!だから右だってば、さっちゃんよぉ!」


「だっていっつもオレをからかう師匠の性格上、どうせ嘘ついてんだろ。」


「信用ねえな!?」



 いったいどこから調達したのか木の棒を使ってスイカ割りをしたり。



「なあ師匠、水切り勝負しようぜ、水切り。」


「水切り?なんだそりゃ。俺知らねえぞ。」


「投げた石が水面で何回跳ねるかって遊びなんだけどさ。

 そらっ!!」


「おお!?なんだそれおもしれえな!」



 子どもが遊ぶようなことにひたすら熱中したり。

 とにかくこの日はひたすら海を満喫した。

 それでも残り滞在猶予期間はまだまだある。



「おまえもやりたいこと、考えとけよ!!」



 夕日の沈む海を見ながら師匠のその言葉を受けて。

 自分は何がしたいのかなあと漠然と考えた。

 結局出た答えは、この人となんか楽しいことしたいなあ、くらいのものだったけれど。




 エージェントIh030

 エージェントAa015

 残り滞在猶予期間【29日】。


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