Ch12025世界 ノルウェーニッセ 「確認が足りていない。」
迎えた聖夜当日の朝。
オレと師匠は部屋で朝食を食べながら具体的な作戦を練っていた。
「プレゼントに『サンタさんのお命』って書く案はいい線言ってると思ったんだけどなあ。」
「さっちゃんよぉ。まさかおまえ、それ本気で言ってるわけじゃあねえよな?」
「いや、流石に冗談だよ。いやいやマジで。」
この世界において、サンタクロース族へのプレゼント希望は事前申告制。
専用の手紙に住所氏名その他必要事項を書いて、一人一枚を限度にプレゼントの希望を行うわけだ。
当然『サンタさんのお命』だとかいうふざけたことを書いたら相手にされない、あるいは下手をすれば警察にご厄介になる可能性すら考えられる。
ならばどうするのか。
それを文字通り必死に考えていたわけで、今しがたなんとか決まった。
「まあでも今回の発想は面白いと思うわ。
たしかにうまくいきそうだ。」
「なんか、普段は師匠に褒められることほとんどないからむず痒いな。」
「照れんな照れんな。胸でも張っとけ。」
そう言われても、やっぱりむず痒いものはむず痒い。
ただそれは嫌な気分ではなかったし、むしろいい気分ではあった。
オレの考えた作戦、それはプレゼントに『サンタさんとの握手券』を望むこと。
これならわざわざ聖夜真っただ中に事を起こさずに済むし、高いリスクを負わなくとも後日に比較的安全に任務をこなすことができるだろう。
滞在猶予期間ギリギリに事を済ませばあと腐れもないはずだ。
「プレゼント希望の手紙は、ポストへの投函じゃなくても朝10時までに直接サンタ本部に渡せればいい、とのことだったよな?今何時だ?」
「大丈夫、まだ8時。それにサンタ本部まではここから歩いて30分で着く。」
「ほー、今回は頼もしいじゃないか。よし、ご褒美にちゃんとサティと呼んでやろう。」
「ふふん。」
今回はオレの立案がうまくいっている形だ。
ちゃんと考えて、抜かりないように動けるように、オレはオレなりにきちんと頑張っている!
それを一応師匠にも褒められたようだし、今回こそはいける!そう思っていた。
「さあ師匠、朝メシ食ったら早速出るぞ!
道中や本部前が混んでたりして時間ロスするのもまずいしな!」
「おうおう張り切るねえ。分かったよ。」
朝食を食べ終えて出発したのは結局8時半前といったところ。
特に道中に何かあるわけでも、本部前に人が大混雑していることもなく、無事に9時頃には着くことができた。
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「申し訳ありませんが、こちらのプレゼント希望はお受け取り出来かねます。」
「えっ。」
デカい煙突に赤と緑のカラーリング、電飾がこれでもかと付けられた馬鹿デカい建物、サンタ本部。
その入り口、プレゼント希望受付で浮かれていたオレを撃沈させるような一言が。
「聖夜・聖夜外を問わず、直接サンタと接触するような願いは受け付けられないようになっております、誠に申し訳ありません。」
「えっ、えっ。どうして?」
「はい、本来非常にありがたいことではあるのですが、私どもサンタに会いたいという類のプレゼント希望が年々増えてきておりまして。
サンタ本部にて会議の結果、主に年に一度の聖夜という特別性を保つことを理由に今年度より断らせていただいております。」
「そ、そこをなんとか!」
「お気持ちは大変ありがたいのですが……。」
受付のミニスカサンタが心底申し訳なさそうに頭を下げる。
そりゃあこのサンタだって末端だろうし、ここで粘ったところで彼女の一存で許可を得られるわけではないことくらいはわかる。
ただ、ここで引き下がるわけには……!
「いや、もういいわサティ、諦めろ。
よく見てみろ、プレゼントの要項にもちゃんと書いてある。
確認が足りてなかったこっちの落ち度だ。」
制すようにオレの肩に師匠の手が置かれる。
そしてもう一方の手で渡された要項の紙には、たしかに長々と書かれた注意書きの一項目にその旨が。
「し、師匠、そりゃあいくらなんでもあんまりだ!
気づいていたならすぐに教えてくれよ!!」
「いや、俺も今気づいたんだよ。
受け取れないって言われて、あらためて要項を確認したら見つけちまった。」
「そ、そんな。」
オレたちのそんなやりとりを見て、受付のサンタは申し訳なさそうに目を伏せる。
そして残り僅かな時間と焦った脳みそで有効な解決策が見つかるはずもなく。
結局はプレゼント希望にオレは「目覚まし時計」、師匠は「サンタ服」とだけ書いて、その場を後にした。