Ds12166世界 役職の箱庭 【三分】
外見は二十歳前後のただの青年。
髪は茶色く、しかし意図的に残しているのか額からは竜の角が生えている。
ようやく視認できた転生者の首を、私は一撃のもとに切り落としにかかった。
「やっぱり来たか、その反則じみた正体不明の装備……!!」
目にも止まらぬはずの一撃、しかし当然のように避けられる。
おそらくスライムからの報告で警戒していたのだろう。
けれど避けたということは、いかに圧倒的なステータスを持つ地帝竜でも「当たればマズい」と告げたも同然だ。
「アイさん、三分です。分かっていますね?」
蹴破られた壁に切り落とされた柱。
崩壊する建物から逃げ惑う人々。
そんな中、転生者と距離を取った偽物の私が私に告げた。
そう、三分。それが限界
私に世界線同調は使えない。
私のこれまでの経験・巡った世界の数など、先生の足元にも及ばないからだ。
だけど先生はこの技について、「自分の意識・器を依り代に、異なる世界線の理を適用させること」だと言った。
ならば瀕死とはいえ先生が未だ生きてこの世界に存在している現状では、まだ繋がれた世界の理は途切れていないのではないか。
そう考えた私は悪魔に情報を提供、協力を募った。
結果、悪魔の秘術により星屑の再発現を可能とする。
ただし、『私の寿命30年分と引き換えに3分間の再現』という制限のもとで。
「ああ、もうこの変身は必要ありませんね。」
固有スキル【変幻自在】。
それは一部の上級悪魔のみが持ち得る希少な技。
偽物の私は姿を変え、鋭い歯にコウモリのような羽を持った悪魔が現れた。
彼は私の協力者、試練洞の実況の悪魔だ。
「おいおい、悪魔を手なずけるなんて、邪神かよ。」
「そんな中身のない軽口は叩かずとも結構。
それよりもそこの地帝竜に一つ尋ねたい。」
半壊した宿屋で向かい合う転生者と私たち。
互いが次の相手の出方を伺う中で、悪魔が人の形をした竜に問いかける。
「あなたも【変幻自在】のスキルを持っておられるとのことですが。
……あなたが食べた悪魔の名前はお覚えで?」
「へえ。悪魔にも仲間意識があるのか。
まあ、残念ながら覚えちゃいないけどな。」
「ならもうよろしい。」
瞬間、悪魔の魔力が膨れ上がるのがわかった。
そしてそう感じた時にはもう、転生者の身体に首は無かった。
「悪魔を敵にまわしたこと、後悔なさい。」
念のためということか、憎しみによるものか。
悪魔は遺された転生者の身体を魔法で焼きながら言葉を吐き捨てる。
何をしたのかすら分からなかった。
こんなに呆気なく終わるものかと我が目を疑った。
「お、お強いですね。」
「ええ。ワタクシ、こう見えても邪神様直属三柱の一柱ですので。
それにしても正直、拍子抜けですよ。」
これが危険度測定外とされる悪魔の力か。
そう納得しかけた時、今度は悪魔の首が飛んだ。
……は?
「拍子抜けはこっちのセリフだけどな。」
「……化け物め。」
「悪魔に言われるなんて光栄だね。
じゃあ死ね。」
振り向けばそこには元の青年の姿をした転生者。
その手のひらから意趣返しとばかりに放たれた魔法によって、飛んだ悪魔の首が燃える。
「どうして。
首をはねられて、身体まで燃やされて。」
「素直に種明かしすると思うか?
まあ仮に明かしてもどうにかなる問題じゃないけど。」
さて、と目の前の男は続ける。
「まだやる?
今なら痛み分けってことで、小鬼さえ帰してくれれば見逃してやるけど。」
ブラフだ。ハッタリだ。
そう信じて振動剣を振るう。
今は気の良い悪魔の死に動揺している場合ではない!
「っぶねえな!人が下手に出てりゃ調子に乗りやがって!!」
やはり、避けた……!
どういった理屈かはわからない、考える必要もない。
けれど振動剣であれば、確かに殺せる。
そして小鬼の居場所を聞き出さねばならない以上、相手は私を殺すことはできない。
依然として有利なことに変わりはない!
「あなたはここで、死んでください!!」
家屋の破壊も、町人への被害も、何も気かけず、祈るように剣を振り回す。
転生者は避けるだけ。しかしその動きに余裕が無いのもまた事実。
当たれば死ぬ。
その攻撃が怖くない者などいるはずがない。
そして、三分が経った。