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Ds12166世界 役職の箱庭 【死闘】

 

「なんだ、そりゃあ。」



 闇の霧が晴れるなり、それ(・・)を視界に入れた小鬼が呆気に取られて呟く。

 全長3mほどの人形のような、甲冑のような、武骨なパワードスーツ。

 当然、剣と魔法のこの世界には元から存在するはずのないもの。

 スライム・オルタと呼ばれたもう一匹も目を見開き、小鬼同様に驚きを隠しきれていない。


 それは、そうだろう。

 この場で、いや、この世界で、それ(・・)の正体を知る者は先生を除けば私、エージェントIh014以外にいるはずもない。

 ただ、それの正体を知っているからこそ、目の前に現れた灰色の機体の衝撃は計り知れなかった。



「星、屑。」



 思わず言葉が零れる。

 見紛うはずもない。

 あれは私たちが以前の任務で深く関わったパワードスーツ、対敵性侵略体兵器【星屑】だ。



「いくぞ!!!!!」



 先生の咆哮が響く。

 灰色の機体が、一瞬で小鬼との間を詰める。

 対する小鬼の反応も流石のもので、その一瞬の間に金棒で全身を防御するように構える。

 しかし星屑の武骨な拳は、金棒の防御に構うことなく振り抜かれた。



「ゲボ……!!」



 魔剣の一撃にさえ耐えた小鬼が、くぐもった声を漏らして吹き飛ぶ。

 まるでボールのように地面でバウンドし、勢いよく擦れ、小鬼が私の近くにまで到達した時にはもう、その身体はピクリとも動かなかった。


 星屑はパワードスーツ。

 生身の身体では決して戦うことのできない敵性侵略体に抗うために、En37033世界のヒューマンドームで開発された特殊機体。

 もしも身体能力の上昇倍率を数値として表すのならば、星屑は身体能力を10倍、あるいは100倍ほどに上昇させるものであるといっても過言ではないだろう。


 もしもそうであるならば話は早い。

 ここ、Ds12166世界は攻撃力や防御力といったものが数値化される世界だ。

 星屑を纏った先生の能力値が暗黒騎士としての能力の10~100倍だとすれば、その能力は地帝竜アーシーさえ凌ぐかもしれないのだから……!



「貴様!!」



 それでもなおスライムは戦う意思を曲げず、星屑へと襲い掛かる。

 余裕の態度が崩れ、激情を隠す気もない一匹の攻撃に対し、星屑はその巨体を感じさせない軽やかな動きで避け切った。



「嘘でしょ……!?」


「振動剣、起動。」



 そして起動する振動剣。

 あの武器のことは、当然私もよく知っている。


 振動剣は一撃必殺。

 その剣は高速振動によって発生した熱により、対象を溶断する。

 そう、相手が液体の身体を持つスライムであろうとお構いなしに。



「あっ、あああああああああああああああああああああ!!!!!!」



 焼き切れ、蒸発し、スライムの半身が消滅した。

 それでもなお残った身体に、振動剣が突き付けられる。



「小鬼は人質だ。

 おまえは本拠地に戻って地帝竜アーシーに伝えろ。

 人質が、仲間の命が惜しければ、三日後に一人で僕を訪ねに来いと。」


「あ、アーシー様に、ご、ご迷惑をおかけするくらいなら、」


「この場で地獄の苦しみを味わいたいのか!!

 わかったら早く行け!!!」


「ひ、ひい……!」



 響く怒号。

 情けない声を出し、震える身体で逃げ出すスライム。


 彼女はその場に小鬼を残し、振り返ることなくその場を後にする。

 振り返ることは許さない。

 まるでそう聞こえるかのような星屑の威圧感に、その背は完全に負けていた。


 そして私たちの視界からスライムが完全に消えたころ。

 対敵性侵略体兵器【星屑】はまるで幻のように、最初からそんなものは無かったかのように霧散し。



「ぜぇっ……!はぁっ……!」


「せ、先生!!」



 その場には今にも崩れ落ちそうな、満身創痍の先生が残された。



「アイ、すまないけれど、肩を貸してくれるかい……?」



 弱々しい声で、けれどにこりと私に微笑みかける先生。

 心身ともにとっくに限界を超えていることは嫌でもわかって、私は無言で肩を差し出すことしかできなかった。


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