Ds12166世界 役職の箱庭 【人質】
再度確認する。
転生者、地帝竜アーシーとはマトモにやり合うのは自殺行為だ。
ならばどうするか。マトモにやりあわなければいいのだ。
「そこで、人質作戦ですね。」
「うん。まあ、厳密には人質ではないんだけどね。
相手はモンスターだし。」
今回狙うモンスターは二匹、早い話が小鬼とスライムだ。
この二匹を選んだ理由は二つ。
一つ目、彼らは地帝竜アーシーの最初の部下の二匹であるということで人質の価値が高い。
二つ目、地帝竜の加護を受けているとはいえ、小鬼とスライムという種族はこの世界のモンスターの実力としては最底辺に位置する。
僕は自分の力量を過信しない。
いくら自分がこの世界で優れている実力を持ち、伝説の装備で身を固めていても、決して慢心しない。
それが委員会のエージェントが生き延びるための必須事項だと理解しているからだ。
「でも、人質としか呼びようがないですよね。
モンスター質?いや、流石にそれは……」
「……まあね。」
今回の作戦の肝、それは人質を確保するという一点に尽きる。
僕とアイが言葉を交わすのはやはり宿屋の一室。
基本的に僕たちの任務についての会話は誰にも話を聞かれない空間ですることが望ましい。
邪神の試練洞突破からはや一ヶ月。
小さく、しかし王都からも決して遠くない町に僕たちは陣取っていた。
準備のために流通の盛んな場所が望ましいこと、そして地帝竜アーシーの息のかかった場所であることがこの場所に留まる大きな理由だ。
「ただ、本当に転生者に人質を見捨てられることはないですかね?
人質無視で問答無用で襲ってこられたら私たち、ひとたまりもないとは思うんですが……」
「そりゃあ確かに100%とは言えないけれどね。
ただ99%、ほぼ間違いなく転生者に効く方法ではあるよ。
少なくとも僕は今までに人質を取って失敗したことはないな。」
才能、立場、あるいはチート、あるいはユニークスキル。
転生先で強力な武器を転生者は基本的に、自分たちの境遇に酔っている。
程度こそ違えど、誰だって必ず持っている一面だ。
この事は、初めてアイと出会ったFa49012世界でも少し話したか。
「納得できるように、もう少し詳しく説明しようか。
今回のように仲間を増やして挙げ句に国まで作ろうだなんて輩は、他者からチヤホヤされることに、自己承認欲求に特に飢えている。
だからこそまわりからどう見られるかということを最優先にして動き、自分を崇拝する者は決して手離さない。
だから、ほぼ間違いなく人質は機能する。
そういう理屈だ。」
なるほど、と机を挟んで真剣な顔で頷くアイ。
滞在猶予期間も残り少なくなり、決戦が近いことはアイも理解している。
「先生って、色々と難しいことを知ってますよね。
まるで、本当の先生みたい。
いえ、先生は先生なんですけど。」
「ははは、なんだそれ。
まあ、なんとなく言いたいことは伝わるけどさ。」
その真剣な話し合いでも、顔の緩む場面はある。
緊張のし過ぎということは無さそうだ。まだまだ僅かとはいえ、複数の世界を巡った成果だろう。
「で、いよいよその重要な人質を確保する段階だ。
段取り通り、アイは転生者の庇護下にあるモンスター二匹を転移魔方陣まで誘導してくれ。
方法は任せる。僕はあらかじめ転移先で待ち伏せしなくちゃいけないからね。」
「はい。
そして私は人質候補を転移させた後、悟られないように追う。
後は先生のサポートに徹します。」
「うん、頼んだよ。
僕は神経を尖らせて待ち構えているから、できるだけ早めに送ってくれるとありがたいな。」
「任せてください、ご期待に応えて見せます!」
うん、良い笑顔、頼もしいことだ。
---
町から離れ、いつでも振るえるように魔剣を構える。
人気のない荒野に一人。転移先予定地点の目前に僕はいる。
アイは上手くやるだろうか。
いや、上手くやれるだろう。
余計な雑念を払い、神経を張り巡らせる。
それからどれだけ時間が経ったろう。
短かったかもしれないし、長かったのかもしれない。
――それでもその時は来て、目の前の空間が歪んだ。
「ふっ……!」
僕は、自分の力量を過信しない。
いくら自分がこの世界で優れている実力を持ち、伝説の装備で身を固めていても、決して慢心しない。
今回はさらに必殺のつもりで不意打ちを仕掛ける。
先手必勝、最悪の場合は絶命させてもかまわない。
現れた影を確認する間もなく、一息で切りつけた。