Ds12166世界 役職の箱庭 【宴会】
「おーい、酒足りねえぞ!!もっともっと持ってこい!」
「今さらながら、悪魔の料理って美味しいね。
普段からこういう味付けで食べてるの?それとももしかして僕たちに合わせてくれてる?」
「っとに可愛げが無いほどに察しがいいなぁおめえさん。
後者で当たりだよ。ただ、別に俺たち悪魔も無理してるわけじゃあない。
だから気にせず楽しめよ。」
気の良い悪魔にポンポンと肩を叩かれ、今の状況に至った経緯を思い返す。
挑戦者が勝ったら邪神由来の由緒ある武具を贈呈したうえで、転移魔術により洞窟外まで送り出す。
人のイメージにある悪魔にあるまじきことに、その言葉に嘘偽りはなかったようで。
「先生、見てましたよ!
超かっこよかったです!!」
「……キミ、本物のアイ?
この世界に来て僕に奢らせたもの、答えられる?」
「ちょっ、人聞きの悪いこと言わないでくださいよ!?」
「ははは、どうやら本物みたいだ。」
正真正銘伝説級のオーラを放つ邪神の鎧と邪神の魔剣、そして本物のアイを受け取った僕は、悪魔特製の転移魔方陣で洞窟の外へと帰されようとした。
「これはもしよろしければなのですが、此度のあなた様の勝利を祝う宴会へとご参加いただけませんか?」
しかし帰る間際、元実況の悪魔からそのような提案をされ、特設会場だという闘技場の真横の空間である大宴会場へと案内された。
そこは既に僕の戦いぶりを見ていたという観客の悪魔で埋め尽くされ、僕とアイは大歓迎されたのだった。
そして飲んで食べてくつろいで、今に至る。
「しかし気前がいいね、悪魔って。
僕の悪魔のイメージ、ぶち壊しになったよ。」
「うん?冒険者を殺して、挙句混ぜ物にして見世物だぞ?
負けたらおめえさんも同じ道を辿ってたんだ。
悪魔として人に忌み嫌われるようなことなら、やることはやってると思うが?」
「とはいえ冒険者だって、伝説の武具という報酬のために命を懸けて洞窟に挑むわけだろう?
覚悟の上の末路だ、君たち悪魔が非難されるいわれは無いさ。」
「ははあ、本当に変わってんなあ。」
「どうも。誉め言葉として受け取るよ。」
隣に座る、6本腕のガタイの良い悪魔と飲み交わす。
裏表のない悪魔たちとの会話は楽しく、またこの宴会で得られる収穫は尽きなかった。
まず、悪魔の行使する門外不出とされた転移魔方陣。
この世界の人間がどうやっても再現できなかったその転移魔方陣は、悪魔からしてみれば門外不出でも何でもなかったようで。
「ああ、あの転移魔方陣?作り方なんかそんなに難しくねえよ、ほら、教えてやる。」
本当にあっさりと、僕は転移魔方陣の作り方を習得することができた。
これにより今後取ることのできる行動の選択肢が一気に広がったのは言うまでもない。
他にも拳程度の大きさの中にその100倍ほどの収納性を誇るという悪魔印の収納袋など、得られたものは遥かに大きい。
「だあぁかぁらぁ。
あいてをおにぎりに変えるおにぎりビームが打てればぁ。
わたしは全世界でも最強だぁーっていってるじゃないれすかぁ!」
「ぎゃーーーーーっはっはっはっはっは!!
んなもん打てれば【神速食い】なんてスキル持ってなくたって最強だよバーーーーーカ!!」
「あーーーーーー……!
ばかって言ったほうがばかなんですぅーーーーーーーーー!!」
「いやいや、悪魔の技術の粋を結集させて理論立てて考えていけば、意外とできるかもよー?おにぎりビーム。」
「マジで?んじゃあオレも協力するわ。」
「何それ面白そう。おれもおれも。」
「ええーーーー。
じゃあー、完成したらぜえったいにわたしにもおしえてくださいよぉー。」
奥の席では明らかに酔っぱらったアイが、同じく酔っぱらった悪魔たちと何やら夢のある話をしている。
「ねえー、そろそろ席変わりましょうよぉ。
ほらフォーさん、こっちに来てってばあ。」
「ひゅう。流石は今日の主役、モテるねえ。
ほら、言って来いよ。」
「ははは、なんだか悪いね。」
手招きされるまま、赤い目をした色っぽい悪魔のいるテーブル席へと移動する。
――ああ、本当に楽しいひと時だ。
---
「それではフォー様、アイ様。
またいつか、ぜひこの試練洞へと足を踏み入れてください。
その時までにはさらにとびきりの報酬と、さらにとびきりの強敵を用意しておきますので……」
悪魔たちに見送られ、僕たちは転移魔方陣の光に包まれる。
結局その後も宴会は本当に何事も無く進み、僕たちは大量の成果を持ち帰ることに成功したのだ。
こうして『邪神の試練洞』攻略は幕を下ろす。
そしてここから僕たちは、本格的に転生者の撲滅へと動き出すのだった。