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Ds12166世界 役職の箱庭 【贋作】

 現れたそれ(・・)を目にした瞬間、直感的に感じた。

 何かがおかしい。

 見た目こそC級モンスターのゾンビに近いただの人型だが、間違いなく底知れない何かを持っている。



「アイ、出し惜しみは無しだ!!

 ポーションすべて使い切るくらいのつもりでいい、ありったけの強化を施してくれ!!」


「は、はい先生!」



 頷くアイを確認したのち、真っすぐに敵を見据える。

 繰り返すが僕の能力・ステータスはこの世界でもトップクラス。

 それでも楽観視はできなかった。



「あ、あううううう。」



 対面する相手の身の丈は僕より少し高い程度。

 二本ずつの手足があり、顔があり、人語らしきものを漏らしている。

 腐敗した肉で人の形を何とか保っているそれは、しかし継ぎ接ぎの混ざりものだった。



「さああ、出ました現チャンピオン!!

 その正体は皆さんご存知、過去この邪神の試練洞に挑んだ冒険者たちの成れの果て!

 特に優秀だった冒険者三名の混ざりものでございます!!!!!!

 こちらの成れ果てゾンビ、我々の技術の粋を結集させた、紛うことなき傑作と言えるでしょう!!」



 早く始めろ!能書き垂れてんじゃねえ!

 そんな声ばかりが響き、観客の熱も最高潮。

 開始の合図があるまで敵、成れの果ては動くことさえできない様子。

 攻撃を受けることなくアイのサポートを一身に受けることができたのはまだ幸いと言えた。



「それでは始めましょおぉおおおおおおおおおおお!!

 邪神の最終試練んんんんんんんんんスタートおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


「し、ししししし死ね。」



 実況の合図とほぼ同時、一瞬にして成れ果てゾンビが距離を詰めてくる。

 僕は即座に反応、剣での迎撃体制に移行する、が。

 直前でゾンビの身体がぶれ(・・)た。



「くっ!!」


「「あ、ああああれ?よよよ避けられれた?」」


「おおおおおおっとぉ、素晴らしい反応です挑戦者!

 迎撃体制から一転、即座に後方への回避行動に移るその身体能力!

 そして何より初見で成れ果てゾンビの役職が一つ、【贋作師】の二重攻撃を避けるその判断力!!

 これは我々を楽しませてくれるのではという期待が高まります!!」



【贋作師】。

 その固有スキル【瞬間贋作】は、自身の触れたものの贋作を一体に限り一瞬のうちに作り上げるという恐るべき能力。

 対象が生物の贋作であった場合、本物よりも性能は劣るが実体を伴い製作者の意に従った行動を取るという。

 そして分身が可能ということは、その対象には自身も含まれているということだ。


 また、成れ果てゾンビの肉体を構成する主要な役職は【暗黒闘士】。

 こちらは僕の【暗黒騎士】同様、圧倒的なステータスを要する役職とのこと。


 そういった相手の手の内を晒すような内容を、ご丁寧にも実況の悪魔は大音量で響かせる。



「実質的には二対一、か。

 悪くはない、そんなものは慣れっこだ。」



 ちらりと後方のアイに目をやる。

 目の前のゾンビが円形闘技場の端まで避難しているアイではなく、僕を標的としているのは都合が良かった。



「ひ、ひひひ、いいいいのか?

 よよよよそ見して。」


「いいんだよ。」



 一閃。

 振り返りもせず、剣を振りぬく。

 そこには確かな手ごたえがあって、成れ果てゾンビの片割れはそのまま真っ二つになって地面に落ちた。



「わざと作った隙に飛びつくようじゃあ、僕には勝てないと思うよ。」


「きききき貴様!!

 や、【闇の魔弾】!!」



 激高するもう一体のゾンビから、禍々しい魔力の塊が迫る。

 実況の「三名の混ざりもの」発言が真実だとすれば、最後の一つの役職に由来するものだろう。



「【闇の霧】。」



 しかし魔法の類は僕には効かない。

 魔力の塊は霧に包まれ、僕に届く前に消失する。



「な、なんということでしょう!

【闇魔導士】由来の【闇の魔弾】が、かき消されました!!

 あの成れ果てゾンビが、連戦連勝の大記録を打ち立ててきたチャンピオンが今、手玉に取られております!!」



 なるほど確かに強力な相手だ。

 近接戦に秀でた【暗黒闘士】、遠距離戦に長けた【闇魔導士】、そして奇策を可能とする【贋作師】。

 この三つを同時に相手しているようなものだ、これまでの挑戦者が敗れたのも道理だろう。



「けれど、僕まで連戦連勝に貢献してやる義理はないよね。」



 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 地鳴りのような観客の歓声が響き、実況の声が沸いた。




 ---




「はっはははははは、ままま、マジかよよよ。」


「マジだよ。

 でも君、流石に強かったよ。危なかった。」



 戦闘開始からどれだけ経ったのだろうか。

 こちらのポーションは底をつき、額から流れ出る血を止めることさえできずに、しかし僕はとどめの剣を振り下ろした。



「かかか完敗、だだだ。」



 潔い最期の言葉を遺して成れの果てが崩れ落ちる。

 場内は不気味なほどに静まり返っていた。



「や、やりましたね先生!」


「ああ、サポートありがとう。」



 戦闘の終了を見届け、駆け寄ってくるアイ。


 ずぐり。


 そしてアイと僕を隔てる距離が0になった時。

 会場には肉に突き刺さる刃の音が響き渡った。


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