Bu00100世界 ララマリア 【仮説】
「やっぱり本来転生者って、ボロが出るものですよね?」
一晩明けて、予想滞在猶予期間残り二日。
本日大学は創立記念日によりお休み。
大学生らしくカフェにでも行って作戦立てます?というアイの提案を却下。
話の内容が内容なので、家で二人で作戦会議中。
よほどカフェに行きたかったのかしょぼんとしていたので、せめて僕がコーヒーを淹れた。
「うん、そうだね。
子どものころから中身は大人なんだから、そりゃあ当然不自然なほど優秀ってことで目立つ。
そもそもその世界とは別の世界線の情報を持っているわけだから、思想・発想的な面でも非凡だってことで目立つ。
っていうか普通の転生者は大体目立つ。」
「でも、目立たずに普通の、平穏な人生を過ごしたいって思う転生者もいないわけじゃないですよね?」
「確かにいないわけじゃないけれど。
それでも目立たないってのは無理があるよ。
特に幼少期。
中身自体は変わらない大の大人が3歳や4歳の幼稚園児、あるいは6歳や7歳の小学生の中に混じって違和感なく振る舞うなんて、不可能と言っていい。」
アイがコーヒー片手に納得した様子で頷く。
作戦会議とはいっても、基本的にはアイの質問に僕が答える形だ。
どうにか転生者を見つけ出すために現状の情報を整理する意味合いがあるが、同時に研修としての意味合いも強い。
「で、幼少期に目立った人間はある程度大きくなって違和感がぬぐえても、意外と周りの人間が覚えてる。
そういえばあの人、昔はこんなことがあったんだってさーってな具合に。」
「なるほど。
でも今回は容疑者が数百人規模になっているから、一人ひとりちゃんとした情報が調べられないってことですね。」
「いや、実はもう調査した。
休学中の人物含め、大学の在校生全員分。」
「え、どうやって……あ、超能力ですか。」
「うん。いろんな動物に、餌とか移住の手伝いとかを条件に調査協力してもらった。
使えるものは有効活用していかないとね。」
考え込むときは眉間にしわを寄せ、驚きの際には目を見開き、納得すればうんうんと頷く。
アイは相変わらず表情豊かで面白い。
ころころと変わる表情を見ながら自分用のコーヒーを一口飲んで、話の続き。
「で、結果。不自然なまでに、不自然な人物はいなかった。
ただ、この世界は超能力があるから実質的に何でもありの世界なんだよなあ。
やっぱり難しいな、今回の任務。」
「あれ?
そういえば教授とか、学生よりもっと年齢が上の大人の可能性は考えなくていいんですか?」
ん、それも知らなかったか。
てっきり、転生者の大半が若者であることは知っているかと思いこんでいた。
「そうか、知らないのか。
そもそも転生反応光って聞いたことある?
一個体がその生命活動を終えて、しかし意識――精神あるいは魂ともいわれたりする――を引き継いだ状態で新たに転生に成功した際に生じる光、とかいうヤツ。」
「き、聞いた覚えがないです。」
少し焦ったような顔のアイ。
アイが忘れたとかではなく、単純に、本当に聞いたことがないんだろう。
「そっか。
まあ、転生撲滅委員会はその転生反応光を観測してから、その観測された世界線にエージェントを派遣するらしいんだけどね。
実際に転生が生じてから転生反応光が観測されるまでには平均して10~30年くらいのタイムラグが生まれるらしいんだよ。
だから、転生者は基本的に10~30歳前後だと考えていい。」
ついでに転移の際にも似たような光が生じるらしいが、こちらは転移が生じてから観測されるまでにタイムラグがほとんどないらしい。
ということも、一応教えておく。
「どうしても質問を受け付ける形になりがちだけど、もし考えてることがあるなら遠慮せずに教えてね。
アイの発想が、もしかしたら今回の任務の突破口になるかもしれない。」
「……その、私なりに可能性を二つ考えたんですけど。」
質問が多いということは、それだけ真剣に思考を巡らせているという証拠だ。
できる限り柔軟な発想で意見を出してもらえればと思ったが、即座に応えようとしてくるあたり作戦立案能力に関してはどうも優秀そうだ。
思えば初回の任務でも考えるのに時間をあまりかけなかったわりには、作戦の質は悪いものではなかった。
「一つ目は、転生者は透明人間になれるような超能力を持っているんじゃないかと思ったんです。
……ただ自分で言っておいてなんですが、この可能性は低いと思います。
生まれたときから常に透明な状態だっていうのはあまり現実的じゃないし、もしも自由自在に透明になれるというのなら、それはそれでまわりの人間に違和感が生まれると思うから。」
うん、よく考えられてる。
考えたうえで、自ら客観的にみることも忘れていない。
「そうだね、実は僕も透明人間の線は考えた。
で、同じ理由で可能性は低いなと思っていたよ。」
「ですよね。
……それで、二つ目なんですけど。」
「うん。」
「転生者の能力って、もしかしたら人の心・あるいは記憶を読むことなんじゃないかなって。」
で、実はこちらの考えてることが筒抜けだったりして、なんて思うんですよ。
アイは平然と、そう言ってのけた。
「……それ、マズくない?」
自分の思いつかなかったその発想が、核心をついているように思えて。
思わずポロリと言葉がこぼれた。
「いや、逆にチャンスだと思いますよ?」
にも拘わらず、対するアイはこともなげに言い放った。