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Bu00100世界 ララマリア 【平穏】

「もしかしたら答えにくい質問かもしれないんだけどさ。

 キミ、いや、キミたちは人間を恨んでないの?」


「なんで?」



 僕の問いに対して、カラスが逆に問いかける。



「いやだって人間って動物をたくさん殺すし、さんざん酷いことするよね。」


「おいおいフォーさんよ、そんなことあたりまえのことだろ?人間が今は事実上地球で頂点に立つ存在なんだから。

 もし仮にオレたちが地球で頂点の立場だったら同じようなことをするだろうよ。

 それに見ず知らずの人間、どっかの誰かさんがライオンに喰われたーって聞いたらおまえ、ライオン恨むか?」


「……いや、恨まない。」


「だろ?そんなもんさ。」



 エージェントとして僕の意識がこの世界に降り立った時に、授かったこの能力。

 頭の中で動物に話しかけると、話しかけた動物と会話ができる。

 こんな得体のしれない僕なんかにも、漏れなく超能力を与えてくれるこの世界の神様とやらはずいぶんと太っ腹だ。


 そしてこの能力は、他の人には僕の声も動物の声も聞こえないらしい。

 つまり端から見れば動物と見つめ合っているようなものだ。

 変な目で見られることもなく、気軽に話ができる。


 今、公園のベンチで僕としゃべっているカラスの他にも興味本位で犬や猫、金魚やハムスター、果てはアリやミミズたちともしゃべってみたけれど、みんないい奴らだ。

 なんていうかこう言っちゃ変だけど、みんな人間らしい。

 



「だからもしカラスが人の上に立つ時がきたら、おまえもカラスを恨むなよ?心配しなくてもおまえはオレのペットにしてやるからさ。ははははは。」


「うん。それじゃあその時はうまいペットフードをよろしく頼むよ」



 任せとけ、じゃーな。

 そう言ってカラスは僕の前から薄暗い空へと飛び去っていった。


 この世界に降り立ってからすでに三日。

 動物は本当は普段から人間と同じように思考しているのかと聞くと、たいていの動物はこういった旨のことを言う。



「まあな。人間は物事の表面しか見ていないけどさ。

 脳の大きさだとかくだらないことで判断するばかりだから、いつまで経ってもオレたちの本当の姿のことはわからない。

 オレたちが何も考えてないと思ったら大間違いさ。」



 それはつまり裏を返せば、しっかりとすべてを受け入れ、物事の本質を知ろうとした時、いつか人は日常的に動物と話せるようになれるかもしれないということでもある。

 そんなことができれば、この世界はさらに夢に満ちた、楽しい世界になるだろう。


 ……いい世界だ。

 そして随分とセンチメンタルになってしまった。


 僕は帰路へと着く。

 この世界での僕は、幼馴染と二人暮らしのちょっと羨ましい大学生だ。

 もちろん、そういう設定というだけの話であって、お相手はアイだが。



「あ、先生、お帰りなさい。晩ご飯もうすぐできますよ。

 何か有益な情報は見つかりましたか?」


「おお、ありがとう、助かるよ。

 いや、僕の方はさっぱり。

 流石に勘の良い動物たちでも、この大学の人間に転生者がいるらしいんだけど知らない?なんて馬鹿げた質問に答えられるヤツはやっぱりいないみたいだ。

 そっちの方は?」


「いーえ、全然成果がないです。

 大学内の色んな場所、いろんな物に触れてはみるんですが、物の記憶って量が膨大で。

 すぐに頭の中がパンクしちゃいそうになります。

 そのくせ、見たくもない記憶が見えてしまったりして。」



 二人暮らしのそうそう広くない部屋だけあって、玄関からはすぐにキッチンに立つアイの姿が見える。

 エプロンを付けてスープの味見をしている姿はなかなかグッとくるものがあった。


 ちなみにアイの能力はサイコメトリー。

 触れた物体の記憶を読み取れるのだとか。ただし人間には効果がない模様。



 この国ララマリアでは主神マリアの加護によって、人には生まれつき一つの特別な能力が宿る。

 主神マリアは争いを好まない慈愛の神であり、人間に与えられる能力は争いとは無縁の平和的な能力に限られる。

 正直なところ、とても羨ましい世界だ。夢と希望に溢れた平和な世界。

 人類みな兄弟といったところか、ここにはどうも名字という概念が無いようで。

 僕はただのフォー、Ih014はただのアイと名乗っていた。


 だがそんな世界で、僕たちは任務をこなさなければならない。

 転生者の抹殺という、血なまぐさい任務を。



「しかし滞在猶予期間が残り三日っていうのが本当に惜しまれますね。

 私たちは任務こそあれど、この世界では大学生としてのんびりと過ごすだけ。

 私、ワクワクするような戦いの世界も好きですけど、こういうのんびりとした世界も好きです。」



 たしかに、それには僕も同感できる。

 そしてもしかしたら今までに任務に失敗したという二人のエージェントも、この世界の穏やかな雰囲気にのまれて実力が発揮しきれなかったのかもしれない。

 もちろん、この世界の転生者が単純に優秀なだけという考え方も、もっと単純に容疑者が多すぎるだけという考え方もできるが。



「まあでもエージェントに限らず、人間なんてそんなもんさ。

 戦いばかりの日々が続けば、そんな毎日に嫌気がさす。

 そして今回の世界のような、こういう平穏な生活にあこがれる。

 けれどこんな生活がいつまでも続けば、きっと刺激を求めて戦いの世界が恋しくなる。」


「なるほど、そんなもんですか。」


「そんなもんですな。」


「ふふ、なんですかその喋り方。

 ……さあ、ご飯ができましたよ。食べましょう。」



 そう、そんなもんなのだきっと。僕たち人間は。

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