「意識の海にて」
「やあ。
今度はこの前と反対だね。Ih014がずいぶんと落ち込んでいるようだったけど。」
そうだなあ。
やっぱり短い期間とはいえ、一緒に過ごした人たちがなすすべもなく皆殺しにされるのを黙って見ているだけっていうのは、そりゃあ苦しいんじゃないかなあ。しかも見捨てて逃げたわけだから、なおさら。
僕はおかげさまで、そういうのもある程度慣れてしまっているけれど。
「まあ言い方は悪いけど、使い物になるまでに潰れてしまうのを防ぐための研修だしね。
彼女が割り切ることができるまで、温かく見守っていてほしいな。」
もちろんそのつもりだよ。
僕だって一人で任務をこなすより、同行者がいてくれた方が随分と人間らしいマトモな感情を取り戻せる。
それが良いことか悪いことかはわからないけど、少なくとも僕はありがたいな。
自分がまだ生きているって実感することができる。
「そっか。うん、そうだよね。
キミはそういう人だ。」
……脱線したね。
僕としてはこうやっておしゃべりを続けるのは好きなんだけど、そうもいかないんだろう?
「そうだね。じゃあ、お仕事の話をしよう。
次の世界はBu00100世界。
Bの世界線だけあってベースはA世界に準じるものの、面白い特徴が一つ。
全ての人間が生まれつき一つ、超能力を使えるそうだよ。」
超能力か。
前回に続いて、戦いがメインになるのかな。
「いや、そうじゃない。
超能力こそあれど、そこは平和的な世界らしい。
キミたちは今回、ララマリアという国の国立大学で転生者を探してくれればそれでいい。」
国立大学、それもA世界ベースの……ってそれ、もしかして転生の容疑者数百人、数千人規模じゃないの?
「そうなんだよね。今回、絞り込みが不十分なんだ。
実は既に二人のエージェントが任務に失敗していてさ。
研修の最中ではあるんだけれど、優秀なエージェントのキミにまかせようということで白羽の矢が立ったんだよ。
あ、任務失敗といっても前任者の二人とも殺害されたわけじゃなくて、滞在猶予期間が切れただけだからそこは心配しなくていい。」
うーん。
評価してもらえるのはありがたいんだけどさ。
流石にそれ、僕でも無理だと思うよ?
「無理かどうかなんてやってみなけりゃ分からない。
だろ?勇者殺しの村人、エージェントAa004。」
その格好いいんだか悪いんだかわからない呼び方やめてくれよ。
……まあいいや。
期待しないで待っててね。
「分かった、期待して待ってるよ。」
はあ。まったく。
「冗談さ、冗談。
それじゃあいってらっしゃい、エージェントAa004。」
ん。
いってきます。