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一人称。

消える。

私という人間が、いや、私という意識が消えていく。


私のこれまでの旅路には意味があったのだろうか。

誰かに何かを遺すことは、あるいは世界に痕跡を残すことはできたのだろうか。


……そこまで考えて、けれど急に馬鹿馬鹿しくなって考えるのを止めた。

いよいよ死が目の前まで迫ってきて弱気になっている自分が、滑稽に思えたからだ。



自身にあらためて問いかける。

私は、死に場所を探していたのだろう?

必死になって生きていることに、必然性を感じられなくなっていたのだろう?


 私は自分が生き続けられるところまで生き続けよう。

 死ぬなら死ぬで構わない。

 崇高な目的なんかなくて構わない。

 ただ、死に場所を求めるために世界を渡ろう。


そう考えたのは、本心だったろう。

そしてついに私の死に場所が決まった、そういう話なのだ、これは。


意識が擦り切れて命の終わりを迎えるというのはなるほど、こういう感覚なのか。

まずはブツリと電源が切れたかのように目の前が真っ暗になり、視覚が消え去ったことを思い知る。

その後身体に力が入らなくなり、地面に倒れたと思ったが何も感じない。

己の触覚が消滅したことを思い知る。

おそらく気づかぬ間に残りの感覚も失っていたのだろう。

今の私に感じられる物事など何もなく、ただ自分の思考のみが世界に存在した。

それは瞼の裏の世界のようでもあり、それはまた――嗚呼、そうだ。

意識の海のようでもあった。



さて、と。

残念ながら思考にも、つまりは私が私を私と認識するこの意識にも、どうやら限界が来たようだ。

意識が薄れていくのが分かる。

このまま『私』が消えていくのが分かる。

そして不思議だ。異世界転移・異世界転生という所謂記憶の引継ぎも、この私の身には起こらないだろうという確信がある。


……ふふふ。

仮に、私が漫画やアニメ、ドラマで言うところのヒロインだったとして。

本当なら、ヒロインの最期には、それに相応しい誰かがたとえ幻だとしても寄り添ってくれるものだろうに。

残念ながら、私に寄り添ってほしかった人は、私がこの手で殺し、そして否定したのだ。

だから、私の物語はここでおしまい。

転生撲滅委員会に足を踏み入れ、素敵な先生に恋い焦がれ、しかし傷つき、摩耗してしまいながらも世界を渡った一人の女の物語は、ここでおしまいだ。


だからどうか、せめて最後に胸を張りましょう。


私は、私のために生きたのだと。


私は、私として、私の長い旅の果てへと辿り着いたのだと――――



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