Aa00000世界 日本 【懺悔】
「はじめまして。」
「いや、大丈夫。
『はじめまして』じゃないこと、ちゃんと分かってるよ。
僕のこと、殺しに来たんだろ?それも分かってる。」
「……そうですか。
じゃあ、少し、話しましょうか。」
揺れたブランコ。
視線を移すとそこには前の僕がエージェントIh014、アイと呼んだ女性。
どこかも分からない遠くを見るように、キィ、キィとブランコを鳴らす。
「私、もう一人のあなたに頼みごとをされてきたんですよ。
『やっぱり僕は間違っていた。せめて君の手でケリをつけてきてくれ』って。」
「うん、多分そういうことなんだろうなって思ってた。
僕ならきっと、そう言うだろう。」
僕だから、僕のことが分かる。
だからその結論をも受け入れるつもりで、それはつまり終わりを受け入れるつもりで僕はこの公園に来たのだ。
「……覚えてますか?
一番最初の、私との任務。」
夕日が沈みかけていて、周囲の赤みが心地よい。
沈む夕日がまるで僕のことのように思えて、これまでの生を振り返るのに相応しく思えた。
「覚えてるよ。
今の僕にとっては、なんだか夢の中の記憶みたいなものだけれどさ。
でも、ちゃんと覚えてる。」
「私に指輪を買ってくれたことも?」
「ああ。
格好つけて、壁をぶち破ったことも。」
「ふふ。あれ、カッコつけだったんですか?」
「それが理由の一つではあったよ。
だって、普通にドア蹴破って突入しても良かったわけだし。」
キィ、キィと音を立てるブランコが二つ。
二人が同じ速度でブランコを漕ぐけれど、当然交わることはない。
どこまで行っても何回漕いでも平行線。
「……それで、僕のことはいつになったら殺してくれるんだい?」
「すぐに、やってほしいんですか?」
「ああ。」
音を立てていた隣のブランコが止まる。
彼女は地面に足をついて、真っすぐに僕を見つめていた。
「どうして?」
その真っすぐな目の、真っすぐな質問に僕は答えることを一瞬躊躇したけれど。
それでもちゃんと僕は相手の眼を見てこう答えた。
「怖いからだよ。
今度こそ、僕という存在が消えてしまうのが。」
死んだらおしまい。
それは当たり前すぎることだけれど、数えきれないほどの転生・転移に関わった身としては、その当たり前の事実が何より恐ろしかった。
だから。本当は。
「本当はまだ死にたくなんかない。
見苦しくとも、せめて今のこの人生だけは謳歌して終わりたいんだ。
でも。」
「でも?」
「僕と同じように願った人々を、僕は躊躇なく殺してきたんだよ。」
キミのことなんて全然知らないし、わからないけどさ。
考えてることならなんとなくわかるよ――なんで私がこんな目に?
私はただ、この世界で、今度こそ必死に生きていこうとしていただけなのに――こんな感じでしょ?
でも残念。さようなら。
……それは昔、僕が言い放った言葉。
言葉は刃。そして自身の放ったそれが、自分自身に跳ね返ってくることがある。
「つまり、今のこの状況はこれまでの自らの行いの報い。
だから、叶うならせめてもう、早くラクにしてほしいんだ。」
「……そうですか。」
僕の懺悔を聞き終えた彼女は言った。
わかりました、と。
そして。
「さようなら。」