Aa00000世界 日本 【公園】
「――あっ。」
「?
どうかした?」
「……いや、忘れ物したのを思い出した。
一度学校に戻るよ。」
「あ、そう?
りょーかい、先行ってるわ。」
日本の中で、そこそこ大きな町の、何不自由しない平和な日々。
その、高校生活最後の初夏。
受験を控えていた僕は放課後、友人と一緒に塾の自習室へと向かう途中だったが、途中で別れ引き返した。
いや、引き返したというのは正しくない。
本当は学校に忘れ物なんてしていないのだから。
「さて、どこに行ったものかなあ。」
一人自虐的に呟くのには、理由がある。
この後僕の元には一人の女性が現れるだろう。
その人は僕にとっては初対面だが、知らない人間ではない。
僕が、僕としてこの世に生を受ける前に関わっていた人物だからだ。
――遠く、遠く、果てしなく離れたどこかの世界で、僕の片割れが死んだ。
そのあまりにも奇妙な感覚を一身に受けた後、僕は己が幸せな人生を送るために今まで意図的に封じていたのであろう、すべての記憶を思い出した。
自分が転生撲滅委員会などという冗談みたいな組織のエージェントであったこと。
幾つもの多様な世界を巡り廻ってきたこと。
そこで数えきれないほどの人間の命をこの手にかけたこと。
その生の終着点で真実を知り、贖罪に生きると決意したこと。
……けれど普通の生活を諦めきれずに、今の僕がいること。
全てを思い出したのだ。
それと同時に確信があった。
きっと今から僕は殺されるだろうと。
「せめて人目につかなくて、迷惑のかからないところがいいな。
参ったな、母さんや父さん、みんなを悲しませることになるな。」
口に出したか出さなかった分からないくらいの声。
別に誰かに話しかけているわけではないのだから当然だ。
ともかく僕は歩いて人気の無い場所を探す。
彼女、エージェントIh014に殺されてもいい場所を。
――遠く、遠く、果てしなく離れたどこかの世界で、僕の片割れが死んだ。
おそらくもう一人の僕はその死に際に、この僕のことを伝えただろう。
未練がましく平和なもう一つの人生を望んだ僕だ。
が、そのことを自分だけがそんな我がままを通していいものかと、悩んでもいた小心者の僕だ。
自分のことだから分かる。
「やっぱり僕は間違っていた。せめて君の手でケリをつけてきてくれ。」
そんなことでも言って、最後の力で彼女をこの世界へと送り届けたに違いない。
そうなのだとすれば、それは外ならぬ僕自身の望みだ。
だから仕方がないなあと、己の死を受け入れている自分自身の思考回路もきっとおかしいものではないのだろう。
「ここで、いっか。」
そんなことを考えながら辿り着いたのは、今の僕が子どもの頃によく遊んだ思い出の公園。
子どもの頃には大きく思えたその公園は、今にして思えば小さな公園で、遊具もブランコ二つと小さな滑り台くらいしかない。
そして都合の良いことに、僕の他には誰もいなかった。
その一つのブランコに腰を下ろす。
そうして間もなく、僕の隣のブランコが揺れた。