Za00004世界 終点 【稚拙】
私の、エージェントIh014の命の代わりに砕け散った指輪。
それは間違いなくあの日、あの時、先生からプレゼントしてもらったあの指輪だった。
……そう、信じたい。
私は世界線を移動するときも、その指輪を肌身離さずに常に身に着けていたか?
答えはもちろん否。
エージェントは所詮、精神体。意識のみが意識の海へと帰還する以上、あらゆる物体は世界間を跨いで別の世界へと持ち込むことはできない。
ならば指輪を世界線同調で再現することは?
これは可能だ。あくまでも物質的にだが、当時の指輪と同じ物を構築することはできる。
だが、私はそもそも指輪を世界線同調で用意した覚えなど無い。
それにあの指輪は正真正銘、何の効果も持たないただの指輪だった。
わざわざ再現だなんて、そんなことをしたところで意味は無い。
考えられるとすれば、『干渉事故』だろうか。
背中に羽が生える、腕が欠ける・増えるといった器の奇形化が見られる等、本来であれば起こり得るはずのない、説明のつかない現象・問題によって世界へのスムーズな接続が阻害されるこの現象。
無理やりにこじつけるならば、縁のあるエージェントAa004という人物に支配される世界に私の魂が踏み入るにあたって、私の深層心理か何かが具現化した結果として指輪という形に干渉事故が現れたのかもしれない。
結局のところ、何故、指輪を私がつけていたのかは、私自身にも分からない。
何故、私の身代わりとなって砕け散ったのかも、分からない。
きっと、どれだけ考えたって、その答えは分からないのだ。
だから私は自分で決めつけて、こう考える。
――はい、アイ。これから先、決して楽しいことばかりじゃないけれど、頑張ろうね。
あの日、あの時、私のためにと込められた先生の優しい気持ちが。
時間を、世界をも超えて、その相手が気持ちを込めた張本人であったとしても。
私のことを、助けてくれたのだろうと。
……もちろん、そんなことを考えたのは、すべてが終わった後だったのだけれど。
「!!??」
絶命の危機の最中、指輪が砕け散って大きな隙が彼にできた時。
私は無我夢中で、目の前の敵に攻撃した。
「うわあああああああああああああああああ!!!!!!!!」
それは、攻撃と呼ぶにはあまりに稚拙。
けれど接近さえしていれば避けようのないもの。
私はありったけの力を、思いを、すべてを込めて。
先生を抱きしめた。
「……っ。く、っぅ。」
それは圧迫されたが故の呻き声だったのかもしれないし、もしかするとなんらかの感情を伴った嗚咽だったのかもしれない。
……ただただ確かだったのは、それがこの戦闘の、終着点だったということだけだ。