Za00004世界 終点 【全霊】
視点・Ih014
「かき消して。」
もう一度音を司る精霊へと呼びかけ、周囲一帯を一時的に無音の世界に作り替える。
M世界由来のこの技は私に一方的に有利に働く重要なものだ。
なにせ効果の有効・無効は私の一存によって決まるため、私が音声をもとにした他の技を使いたいときには解除し、それが終わればまたすぐに有効にすればいいのだから。
それだけで、相手の多くの技を封じることができるはずだ。
これまで幾多の世界を巡り廻って理解したことの一つが、言葉とは大きな力を持つということ。
魔法を使うことができる世界では詠唱が必要な場合がほとんどで、また他の世界でも大多数の特別な力は何かの言葉が引き金となって発動することが多い。
おそらくこれはほとんどの世界において、人間にとって言葉とは重要な意味を持つためだろう。
ただ、もちろんそれがすべてでは無い。
音を封じてでもなお、きっと手札はいくらでも残っていることだろう。
それでも相手の選択肢を狭めていくという意味で、この「相手に音声を使わせない」という作戦には価値がある。
さらに使い道にはもう一つ。
「チッ……!?」
相手は音を消されたことに対して思わず舌打ちしながらの接近。
しかしその舌打ちが自分の耳にも聞こえたことで気づいただろう、音が消えていないと。
すると聡明な彼は気づくはずだ。
私の先ほどの「かき消して」という言葉はミスリードであったということに。
そうやってそちらに思考を巡らせる一瞬、その隙を突いて私は攻撃を放つ。
「BANG.」
親指と人差し指で拳銃を作り、声に銃弾を放つイメージを乗せる。
そのまるで幼い子どものような仕草が、私の指先からあらゆるものを貫く弾丸を発生させる。
「ふっ……!!」
この距離なら弾丸が放たれてから着弾するまでに1秒とかからない。
にもかかわらずその攻撃は、まるで事前に攻撃が来ることが分かっていたかのような目を疑う速さの横跳びで回避された。
「反射なんてレベルじゃないって……!」
思わず言葉が漏れる。
回避行動は意識に染みついたただの反射だと、そんなことを言われたのはつい先ほどの事。
だが、それはきっと正しい。
私は戦闘に際して己に対し、耐呪・耐魔・耐熱・耐斬……あらゆる耐性を付与していた。
きっとそれは相手も同じだろうが、その中には相手の未来視・行動予測といった動きの先読みを阻害する『不測の加護』も含まれている。
だからこそあの回避行動は、本当に後手に回っての反射行動なのだろう。
しかも瞬時に『防ぐ』のではなく『避ける』という勝負勘の強さをも併せ持っている。
先ほどの弾丸は防御不可の弾丸。
防ごうとしていたのなら勝負は決まっていたはずなのに。
「かき消して!」
もう一度そう呼びかける。
それが嘘か真か一瞬でも迷ってくれれば御の字。
畳みかける、全力で。
目の前の敵は私が全身全霊をかけて、それでも届くかどうか分からない最強の敵なのだから。