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En37033世界 ヒューマンドーム 【戦果】

「私なら正攻法どころか、不意を突いたとしても正直苦しいですね……。」



 とは、間近でブラックの戦いを見ていたアイの談。

 一騎当千。

 やはりというべきか、数十体にも及ぶ敵性侵略体の亡骸の山は、そのほぼ全てがブラックの手によるものらしい。



「なに謙遜してるっすか!

 ブラウン、超大活躍っすよ!あの戦いっぷりが正攻法でなければなんだって言うんすか!」



 他の者が聞けば、ブラックの戦いぶりを見てのただの謙遜。

 実際にアイも、「ブラックみたいに数十体の敵性侵略体を敵にしたら、なんて考えてました。」なんてお茶を濁す。

 だが当然、僕にはちゃんとその真意が伝わる。

 今回のターゲット、キムラトウジは正面からどうにかできるものではない。どうにかするための作戦を立てましょう。

 そういうことである。


 幸いにもこの世界の滞在猶予期間は短くない。

 今はまだじっくりと作戦を立てて、機会を伺えばいいだろう。



「それにしてもブラックといいブラウンといい、転移者は星屑に向いているのかもしれないね。

 これじゃあレッドだっていうのに、アタシがエースになれる日はまだまだ遠そうだ。」


「レッド、拗ねるのはやめてください。

 敵性侵略体との一対一を苦としないあなただって、十分に優秀な戦力なんですよ。

 それに誰が一番かなんてどうでもいいじゃないですか、仲間なんですから。」



 レッドのぼやきを、ブルーが慰めるように拾う。


 アイ、つまり星屑ブラウンは、デビュー戦にしては目覚ましい戦果を挙げていたということだ。

 地点Cにてブルー、イエローと合流した直後、彼女ら三人は不意を突く形で敵性侵略体からの攻撃を受けたらしい。

 咄嗟にイエローが他の二人を突き飛ばす形で攻撃から逃がすが、本人はモロに直撃を受けて吹き飛んだのだと。


 即座に立ち上がるも先制攻撃を受けふらつくイエローと直接の戦闘にやや難のあるブルー、そして新入りのブラウンという構成に対し、敵性侵略体の数は5体。

 僕よりもよほど切迫した状況下で、しかしブラウンは見事に立ち回ったらしい。



「正直なところ、自分とブルーだけではあの場面は乗り切れてなかったっすよ。」


「私もそのとおりだと思います。

 ブラウンがいなければブラックが増援に来る前に終わっていましたね。もちろん悪い意味で。」


「いやあ、無我夢中だっただけですよ。

 二人の援護がなければ流石に5体同時に相手はできてないです。」



 照れくさそうに謙遜するが、その場にいた味方であるブルー、イエロー両名が手放しで褒めたたえる。


 アイがこの世界において優秀なコマであるらしいということは、喜ぶべき事実だ。

 たとえ正攻法で転移者を沈めるのが困難だからと言って、当然戦力は高いにこしたことはない。


 が。

 こんなことを考えてはなんだが、面白くない。


 僕は転生撲滅委員会のエージェントAa004。

 転移者及び転生者の撲滅という目的のために世界線を移動するのだから、任務達成のための方法や過程は重要ではない。

 いかに狡猾であろうが醜かろうが、問題はない。


 ただ、楽しくはない。


 叶うならば、僕もこの異世界を思う存分に楽しみたい。

 こういうところで僕は、きっと多くの転移者や転生者と同じ気質なのだろう。

 ……まだ、不意の戦闘が一回だけだ。

 この世界で僕がどれだけ戦えるかは、まだわからない。



「大丈夫。

 初めての実戦が待ち伏せされた状態で、グレイもよく戦っていた。」



 ホワイトに声をかけられて、我に返る。

 きっと僕が、他の転移者二人と違って華々しい戦果を挙げられていないことに落ち込んでいるように見えたのだろう。実際に、否定できない。



「ありがとう。でも、もっと頑張るよ。」



 先ほど失言したにもかかわらず、気を遣ってくれるホワイト。

 この人はやっぱり、根が優しい。


 そして、司令官からの一斉通信。



「北方向、敵影8体。総員戦闘準備。

 近接戦闘装備の者は前へ。他は後方から援護を。

 ただしブラックは極力手を出さないように。

 今回はいわばブラック以外のメンバー、主に新加入の二人が経験を積むための戦闘だと割り切っていい。

 ヒューマンドーム付近の敵性侵略体を殲滅次第、帰還しなさい。」


「……フン、仕方がないか。」



 通信の内容である指示は、もともと予定されていたもの。

 特定の地点にて合流した後、できる限りのリスクを排除したうえで敵性侵略体との戦闘を行う。

 これはあえて聞くまでもなく、僕たち新加入者への配慮だ。



「やるぞ、ブラウン。」


「はい、せんせ……グレイ。」



 近接戦闘者はブラックを除いてレッド、イエロー、ブラウン、グレイの四人。

 振動剣を起動させ、向かってくる敵性侵略体へと構えた。



「うおおおおおおお!!」




 ――――――





 ――――




 ――




「諸君、ご苦労だったね。

 今回も一人として欠けることなく戻ってきてくれたこと、本当にうれしく思うよ。」



 本日の戦果。

 ブルー、撃破数、1。

 ピンク、撃破数、2。

 ホワイト、撃破数、5。


 レッド、撃破数、10。

 ブラウン、撃破数、38。

 ブラック、撃破数、52。


 ……グレイ、撃破数、3。



 残念だ。

 けれど事実。受け止めなければ、切り替えなければならない。


 僕に星屑での戦闘は、少なくとも真っ向勝負は向いていない。


 ……さて、どうやって転移者の息の根を止めようか。

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