Za00004世界 終点 Aa004
この世界に来る、つまりは僕の相手に相応しいエージェントは誰かと考えた時に、該当する人物は意外と少なかった。
最大のライバルとも言えたエージェントAa015はもういない。
同様の歴戦の猛者を考えるとエージェントAa021が思い浮かんだが、彼女は何故だか僕の最期の敵としてはイメージできなかった。
この世界は僕のための世界だ。すべてが僕の思いのままと言っても過言ではない。
それでも万が一にも僕が負けるとするなら、その相手とは誰だろう。
――もしもそれがかつての研修生、僕の教え子とも言えるエージェントであったなら。
そう考えると、不思議とすんなりと納得できた。
「……お久しぶりです。」
そして今、僕の目の前に居るのは思った通りの人物で、皮肉にも僕が最後まで見守り切れなかった最後の教え子、エージェントIh014だった。
「……ああ、久しぶり。
思ったよりも、驚かないんだね。」
久々に見た彼女の姿はあの頃とはずいぶんと違っていた。
違うとは言っても、顔立ちや体格等に変化は無い。
当然だ、転生撲滅委員会のエージェントに用意されるのはあくまでも『器』であって、それは成長することも劣化することも無い。
それでも変わったと感じたのはありふれた言い方をすると、目から輝きが失われていたからだ。
そしてもしかしたら自惚れかもしれないが、おそらくはその原因の一つは僕の死なのだろう。
「先生こそ。
……私、あなたを、殺します。」
ああ、この子は、ずいぶんと哀しい目をするようになった。
逡巡や迷い、後悔や諦念といった負の感情を凝縮したうえで押し込めたような、結果として決意に満ちた目だ。
きっと、僕にはもう彼女に向かって手を伸ばす資格など無い。
「うん、そうするといい。できることなら、だけれど。
転生撲滅委員会のエージェントとして、それで正しい。
……だから、もう、先生と呼ぶのは止めなよ。
僕はもうエージェントじゃない。君の憎むべき、転生者だ。」
僕も、キミも、誰もが騙されていたんだ。
転生撲滅委員会は正義の味方なんかじゃなく、ただの大量殺戮組織なんだよ。
だから、僕と手を結ぼう。一緒に本部を突き止め、解体しよう。
そういった思いを伝えるという選択肢は、真っ先に消えていた。
それを言ってしまえば、彼女と過ごした時間のすべてを否定してしまう気がして。
「…………。
…………はい。
それでは、いきます。」
だからこそ、僕にできるせめてもの事は。
「ああ、おいで。
……優しく返り討ちにしてあげる。」
一人の転生者として、全身全霊をかけて戦うことだ。