Za00004世界 終点 Ih014
見渡す限りの墓がようやく見えなくなって、本当に地平線以外に何も見えないような殺風景な場所で。
私はようやくお目当ての人間、つまり転生者と相まみえることができた。
「……お久しぶりです。」
いるはずの無いその人に出会った時、自分でも意外なほどに冷静で落ち着き払った自分がいることに驚いた。
私の尊敬する先生は自分の目の前で死んだのだという事実を未だに受け入れられていなかったから、なんて理由では決してない。
ちゃんと、それは時間をかけて受け入れることができていたのだ。
だからこそ今ここに、擦れても曲がりなりにもあの時から前に進んだ私がいる。
「……ああ、久しぶり。
思ったよりも、驚かないんだね。」
先生は昔のままの姿でそこに居て、昔のような声で、語り方で私に言葉を投げかける。
思ったよりも驚かないんだね、と私に言うわりには、先生自身もあまり驚いた様子は無い。
きっと私同様に、私がこの世界に降り立った瞬間に『なんとなく』察したのだろう。
「先生こそ。
……私、あなたを、殺します。」
この言葉もまた、驚くほど自然に私の口から出た。
会いたかった、と抱きつくべきだったかもしれない。
転生者だなんて関係ない、今度こそ先生の力になりますとでも言って、涙を流すべきだったのかもしれない。
あるいは、今からでもエージェントに戻る方法を探しましょうと言うべきだったのかも。
けれど違った。違ったのだ。
私の口から出てきた言葉は。
「うん、そうするといい。できることなら、だけれど。
転生撲滅委員会のエージェントとして、それで正しい。
……だから、もう、先生と呼ぶのは止めなよ。
僕はもうエージェントじゃない。君の憎むべき、転生者だ。」
そうなのだ。
私は、転生撲滅委員会など正直に言ってどうでもいい。
転移者・転生者の撲滅にだって、別に信念を持っているわけではない。
だけど、先生から教わってきたことだけは、裏切りたくは無かった。
私は自分が生き続けられるところまで生き続けよう。
先生から教わったエージェントとしての生き方を貫いて。
そう誓ったからこそ、私は転生者・転移者を討ち滅ぼす。
たとえその教えの張本人である先生が、敵として立ちはだかっても。
「…………。
…………はい。
それでは、いきます。」
以前のZa00001世界でZ世界の特異性は身をもって実感している。
もともとこの世界で朽ち果てる覚悟を決めた身だ、出し惜しみなど最初からする気は無いし、そもそも出し惜しみができる相手などでは決してない。
「ああ、おいで。
……優しく返り討ちにしてあげる。」
そう言って構える先生……いや、もう先生とは呼んではいけないと、さっき言われたばかりだったっけか。
構えるかつてない強大な目の前の敵に対して、しかし白状すると、私は馬鹿らしいことに緊張どころか喜びを感じていた。
それはきっと、自分の成長を見て褒めてもらいたいと願う、子どものような思いから来るものだろうと。
そう、はっきりと自覚していた。