Za00004世界 終点 【来客】
Za00004世界の支配者視点
「何を言ってやがる。気づいてねえと思ったか?
おまえ、悔しいことに、本体じゃねえだろ。」
「……驚いた。そこまで看破されていたのか。」
「ああ。きっとおまえの本体は、どこかの世界に根付いてんだろ。
いわばここにいるおまえは、アバターだ。」
それはかつてSy10592世界、夢幻領域にてエージェントAa015と交わした会話だ。
彼は優秀という言葉がふさわしい男で、僕の本体の根差す世界が別にある事さえ見破った。
「ああクソ、忌々しい。
何が相打ちだ。結局、本体は痛くも痒くもないおまえの勝ちだろうよ。」
「……いや、そうでもないんだよ。
ははは、ダメだな、やっぱり君が相手だと、口が緩む。
でもいいか。冥途の土産、だ。」
「はっ。
なんか耳寄りな情報でも、くれんのかよ。」
「ああ。
僕はね、一度でも分身が打ち破られれば、分身の再構築は、不可能なんだ。
そういう制約のもと、編み出した能力だ。だからもう、僕は世界線を超えて、エージェントを狩ることは、できない。
……本体のもとにやって来たエージェントの、返り討ちなら、別だけどね。」
だからあの時、僕を打ち破った彼には敬意を払った。
いくら最強の一角であるエージェントAa015とて、間違いなくあの後助かることはなかっただろう。
せめて少しでも安心して眠りについてくれとの願いを込めた暴露だった。
僕にできることといえばもう、僕のもとにやって来たエージェントの返り討ちだけなのだ、と。
……そこに、僕は意図的に嘘を混ぜた。
本当はエージェントAa015という男には嘘をつきたくなかったが、それ以上に安らかに眠ってほしかった。
『分身の再構築は不可能』というのは嘘ではない。
実際に僕は二度と世界線を渡る程の力を持った分身を作り出すことはできない。
しかし。
「……一つ確認なんですけれど。
僕の結末に関わらず、当然今もまだ転生撲滅委員会のエージェント達は転生者・転移者の虐殺を続けているんですよね?」
「そうでしょうね。
残念ながら私は全知全能・何でもお見通しというわけにはいきませんが、それでも確信を持って言えます。
今この瞬間にも、あなたと同じく自らの行いは世界線の乱れを正す行為だと信じたエージェント達が、自らの手を汚して殺戮を続けていることでしょう。
あなたがいくら強力だったとはいえ、あなたという駒を一つ失ったところで転生撲滅委員会はその動きを止めることも、鈍らせることもないでしょうね。」
「それなら。
それなら、僕がすべきことは転生撲滅委員会を壊滅させること。
そして、エージェント達の手をこれ以上汚させないことだ。」
あの時の僕の願いの本質は、『己のみの力で自由に世界を渡る力』。
だから、分身など無くても僕自身が世界を渡ることもできる。
もちろん現地で死ねばそこまでというリスクを負うことにはなるが、そんなものは僕がエージェントであった時から何も条件は変わらない。
……転生撲滅委員会の手によって罪なき血が流れないように、また世界を渡ろうか。
そう考えていた時に、この世界に客が来た。
なぜだろうかその客は、何者かまだ確認すらしていないのに、とても懐かしい人物の気がした。
そして僕は歩き出す。
何故かはわからないが、進むべき方角は分かっていた。