支配者の記憶 3
「非常に重い事実が判明しました。
これから公表する事実に対し、おそらく皆さんは驚き、動揺を隠せないことでしょう。
しかしながら、この事実は決して隠蔽されてはならないのです。」
離れていた世間の興味を引き付けることができたのは、その公表内容があまりにも衝撃的なものだったからだ。
「頻発する異世界転生、そして異世界転移。
度重なる歪な干渉に、世界は悲鳴をあげていることが分かったのです。
このまま転移者・転生者を放置しておく現状が続けば、全ての世界の秩序はやがて崩れ、世界は滅びへと向かうでしょう。
その根拠となる資料がこちらです。」
提示された資料など嘘八百を並べたもの。
元々この研究は転移・転生という夢物語を対象とした、雲をつかむようなものなのだ。
一部に嘘が混じろうと、その嘘を暴くことのできる人間の存在などはほぼ無いに等しい。
「――教授、お話があります。
何故、あのような嘘ばかり並べた発表を行ったのですか。
転移・転生が世界に悪影響を与えるなどというデータは、実際はどれも根拠に乏しいものです……!」
しかし、真相に気づく者も0では無かった。
正義感ゆえか、責め立てるように尋ねに来た一人の若者がいた。
だがそれも、予想の範囲内だった。
「『異世界転生はやっぱりずるいと思うので【撲滅】します。』
そんな風に馬鹿正直に言ったって、賛同は得られないじゃろう?
いや、正しくないな。きっと皆、心の中では賛同する。
しかし倫理観だとか、体裁だとか、いろんなものが邪魔をして表立って賛同することはできない。」
静めるように話す。
諭すように語りかける。
「じゃが、体裁を取り繕ってさえやれば、皆が声を大にして飛びつくじゃろう。
たとえそこに疑問が生じようが、わざわざ声をあげて糾弾する者など現われはしない。
なぜなら、本当はこの世に生きる全ての人間が思っておるからじゃ。
選ばれた者のみが得をして、自分は指をくわえているしかできないだなんて、『異世界転生はやっぱりずるい』とな。」
「そ、そんなことは……!!」
「無い、と?それは間違いじゃ。断言できる。
現に君だってそうじゃろう。
本当にワシのしていることを咎める気があるならば、何故直接リークしない?
テレビでも週刊誌でも何でもよい、ワシと直接会話をしている暇なんぞがあったなら、さっさと情報を流した方がよっぽど有益じゃ。」
反論したくても出てこない若者は、その表情をゆがめる。
それを見るのが心底楽しい。
「分かっておる、分かっておるよ。
本当は君自身、異世界転生はやっぱりずるいと思っておるんじゃ。
だから、この虐殺を止めなければという思いと同時に、止めたくはないという思いを抱いてしまって、救いを求めるようにワシのところへ来たのじゃろう。」
自分の醜さに涙でも出そうになっているのか、うつむいてしまった若者の肩に手を置く。
そして誘いの言葉をささやきかけるのだ。
「ワシの立ち上げる【転生撲滅委員会】に来なさい。
ワシが君のその醜さを許そう。
ともに転移者・転生者を、根絶やしにしようじゃないか。」
そして出来上がった、その根本たる理念を嘘で固めた組織こそが転生撲滅委員会。
それはこの創始者が没した後も、変わらず運営を続けている。