Za00001世界 始点の支配域 【老人】
彼女、エージェントGv112が貫いたのは私ではなく彼女の自身の心臓。
私への怨み言すらなく、正真正銘ひと言も遺さずに絶命した。
まるで、私のことなど初めから目に入っていなかったかのように。
「……それほどの。」
本当に最初から、エージェントGv112にとって私などどうでもよかったのだろう。
彼女にとってのすべてはエージェントAa004ただ一人で、生き延びることも含めてその他のすべては二の次。
……いや、もう考えるのはよそう。
何にせよこれで、残るは一人。
「これで、残るはあと一人。」
「そう、あと一人じゃよ。
残るはワシ、この世界の転生者ただ一人じゃ。」
やはりこのタイミングで現れたのは転生者。
これまでの五人との連戦の流れからも、こうなるだろうとは分かっていた。
「姿が爺さんとは悪趣味ですね。
どうせ、意図的にその姿を取っているのでしょう?」
「ほう?その根拠は?」
「転生反応光ですよ。
一個体がその生命活動を終え、しかし意識・記憶を引き継いだ状態で新たに転生に成功した際に生じる光。
転生が生じてから観測されるまでには平均して10~30年程のタイムラグが生まれるため、転生者は基本的にその世界で10~30歳の人物となる。
エージェントならば当然理解している、必須知識です。」
「ほっほ、即答できる当たり優秀優秀。」
髪も残っておらず、背中も曲がりきった目の前の老人は本当にただの老人で、今までの五人のような圧は一切感じられなかった。
これならば、ボロぞうきんのような今の私でも勝てるとさえ思えるほどに。
「で、なんでわざわざそんな姿をしているんです?
まさか殺してほしいわけではないでしょう?」
「うむうむ、よくぞ聞いてくれた。
これはな、ワシの生前の死の直前姿なんじゃよ。
ちいっとばかし聞いて、驚いてくれんかのう?」
ただでさえ糸のような細い目が、笑みによってさらに細くなる。
「ワシはな、転生撲滅委員会の創始者じゃ。」
本当に愉快そうに、そう言った。