Za00001世界 始点の支配域 【場所】
そう、私は、死に場所を探していたのだ。
エージェントになったばかりの一番最初の頃は、世界の秩序を守ることだとか、未だ見ぬ幾つもの世界を渡ることだとか、これから先の自分の姿を思い描いて希望に満ちていた。
苦しいことがあることも分かっているつもりだったし、常に死と隣り合わせだということも分かっているつもりだったけれど、それでも期待が上回っていた。
しょせん、「つもり」は「つもり」でしかないという当たり前のことにも気づかずに。
しかし実際にいくつもの世界を先生、エージェントAa004とともに越えていくにつれ、私はいつしか先生に褒められることが、先生の支えになることが、一番の目的へと変わっていった。
色んな世界があった、色んな経験をした。
いつか先生と別れる時が来ることは覚悟していたつもりだったけれど、その別れは自分の想像とは違う形で訪れた。
ここでようやく、「つもり」は「つもり」でしかないという当たり前のことに気づいた。
先生、エージェントAa004と死別したあの日を境に、私はエージェントとしての指針を失った。
直後の私は呆然自失としていたが、それでも任務はなんとか達成し続けた。
任務をこなさなければ死んでしまうのだから、どうにかこうにか必死に、がむしゃらに生き延び続けた。
あの別れからどれだけ経ったのかは分からなかったが、世界線Jの壁を超え、世界線Sの壁さえ超えて、実力を評価され新しいトップエージェントの一人だなんて言われるようになった頃、ある時ふと気づいた。
あれ?私、なんでこんなに必死になって生きているんだろう?
「俺たちは意識だ。歳をとることも成長することも、何かを残すこともないままに、ただただ人殺しを続けるだけ。そんななら、別に死んだって良いじゃねえか。」
それはたしか、いつの日かエージェントIh030から聞いたセリフだった。
エージェントIh030本人の言葉ではなく、彼女の師匠にあたるエージェントAa015の言葉だったそうだったが、生きていることに疑問が生じる時になって、その言葉の重みがズシンと私に降りかかった。
それでもなお、彼が戦い続け、生き続けた意味は何だったのだろう。
そう思った時にはもうエージェントAa015の意識はこの世に存在せず、結局私は答えを得ることはできなかった。
ならば、私は自分が生き続けられるところまで生き続けよう。
死ぬなら死ぬで構わない。
崇高な目的なんかなくて構わない。
ただ、死に場所を求めるために世界を渡ろう。
……そう決めた私は、ついにZ世界という行き着くところまで行き着いた。
ここで死ぬならそれはそれで構わない。
ただ、ここでも生き延びるなら、さらに先へ先へと進もう。
私が倒れた場所こそが、私の死に場所だ。
私が死ぬまで、私の死に場所など分からないのだ。
「どうして、ボクは生前にキミと出会わなかったんだろうね。」
私との問答を繰り返したのち、エージェントHu725が呟いた言葉がそれだった。
「ボクはね、世界のすべてをぶち壊したかった。
ボクが理解できず、ボクを理解できない、ボク以外の人間が嫌で嫌で仕方が無かった。」
彼女の身体が徐々に徐々に風化していく。
何に満足してくれたのかは分からないが、キミの答えにボクが満足すれば勝手にボクは消える、その言葉は真実だったのだろう。
「でも、キミのことなら、きっと少しは理解できたよ。
だって。」
ボクも、死に場所を求めて歩き続けた人間だから。
そう言って彼女は塵となって消えた。
「……そして、あなたの死に場所はこの世界だったんですね。」
私の死に場所は、この世界か。
それとも、まだ見ぬ先か。
それはまだ知る由もない。