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Aa30129世界

 新学期。サクラ咲いた新入生。


 ここにいる新一年生の生徒たちは全員が倍率2.5倍以上の入試を勝ち抜いた、学力偏差値で言えば60を優に越える連中だ。

 そして私もその集団の一員で、入学式での学校長の、聞いていて恥ずかしくなるような激励の挨拶で一応エリート意識も芽生えてきた。



 光陽高校。

 名前からしてなんとも輝かしいこの学校は、50年以上の歴史のある由緒正しい進学校だ。私の住んでいる地域の受験可能校の中では上位トップ3に入っている、らしい。


 緊張感に包まれた体育館で、私は周りを見渡す。


 カッコいい男子。


 可愛い女子。


 いかにもスポーツやってます、な坊主頭。


 見るからにガリ勉。よりどりみどりだ。

 ならばおまえはどうなのだと自身に問えば、答えは個性的且つ冴えないヤツである。


 私は転生者である。

 ただし、特筆すべきことがほぼ無い。


 この世界の勉強こそ努力でなんとか補ったが、運動センスはほぼ皆無。

 標準体型であり顔は良くはない。

 生前から決して社交的ではなかった私が転生を機に一念発起したところで根は変わらず、彼氏はおろか友だちすらあまりいない。


 前世と合わせると、花の高校生であるにもかかわらず彼氏いない歴がすごいことになる。

 そもそも男友だち自体いなかったりするのだが。


 まあ、とにもかくにも冴えないヤツなのだ。私は。



「よし、全員いるな。あらためて自己紹介するが、このクラスの担任の柏木だ。

 早速だが出席を確認するぞ。

 返事のついでに何か一言自己紹介もするように。」



 ところ変わって教室。新しい教室。

 扉はスライド式で、中に入れば前に黒板後ろに黒板扉の反対側には普通の窓。

 思っていた以上に中学校とは何も変わらないものだ。


 小池みお。出席番号15番。一年間よろしくお願いします。

 比較的真ん中寄りの列の、最後尾という席に座った私は、これからクラスメートとして過ごすことになる生徒たちを見渡しながら返事を済ませた。

 何から何まで平凡な入学式の1ページである。


 しかしそんな冴えない私に対し、隣の男子は最高にイカレていた。



「なあなあ。ここだけの話なんだけど、おれ、秘密組織のエージェントなんだ。」



 HRが終わり、初めての休み時間。

 私の隣に座る男は突然私に向かってそんなことを言い出した。



「……は?」


「嘘はついてないよ。

 おれ、嘘をつくのもつかれるのも嫌いなんだ。」



 不気味なほどに真っすぐな瞳で私を見つめる彼。

 180㎝近くの長身に、清潔感漂う爽やかな顔。

 髪型もビシッと決まっていていわゆるイケメンに違いないのだけれど、その言動とすべてを見透かすかのような目はかえって近づきがたいものがある。



「ところで早速なんだけど、質問があってさあ。」



 彼は私から目を離さない。

 なぜだろうか、私も彼から目を離せなくなった。そんな気がする。



「キミ、実は転生者だったりしない?」



 内心、激しく動揺する。

 まさかそんな馬鹿げたことを真顔で聞いてくる人間がいるとは夢にも思わなかった。



「ふふ、何それ。何かの漫画かアニメの話?

 残念ながら私は違うなあ。」



 ただ、私とて馬鹿ではない。

 転生を自覚したその時から、目立たずポーカーフェイスで生きるように努めてきた。


 結局出る杭は打たれるのだ。

 ならば目立たないことは悪いことではないと、自身に言い聞かせてきた。

 転生者だったりしない、だって?馬鹿馬鹿しい。

 そんなことを聞いたところで、こちらが自白でもない限り証明のしようが無いだろう。



「嘘。

 なあんだ、一発目で大当たりじゃん。」


「へ?」



 彼は笑顔でそう言ったかと思うと、唐突に私の頭に手を添えた。



「じゃ、死のうか。」



 私の頭部に激痛。

 それが私の頭が机に叩きつけられたことによる痛みだということを自覚した時、私の意識は既に薄れていた。



「ちょ、は!?」


「きゃあああああああ!!」


「お、おい、何やってんだ!」


「はははははは。いやさあ、おれ、秘密組織のエージェントなんだ。

 ちなみにコードネームはエージェントCr321って言うの。かっこいいだろう?

 そんでコイツは、おれのターゲット。」



 私のクラスメイトになるはずだった人間の悲鳴と、それに笑いながら答える男の声。


 それが、私の最後の記憶――。



「ああー。なんっつーか、もうちょい骨のある任務こねえかなあ。」

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