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Sy10592世界 夢幻領域 【夢幻】

視点、エージェントAa004だった男。

 

 今頃彼は、幸せな夢の中にいることだろう。



「頼むから、このまま起きないでくれ。」



 死んだように眠るエージェントAa015を前に、祈るようにつぶやく。

 夢葬・『自閉探索』。

 僕がエージェントAa015へと放ったTr66940世界由来のこの能力は、その名の通り被術者を覚めることのない夢の中へとほうむるというもの。

 能力を受けた被術者は自分の思い描く閉じた理想の世界、夢幻の中で命尽きるまで幸せを享受する。

 A世界を筆頭に見られることのある文化、漫画やアニメといった娯楽作品の中に登場する際には、ほぼ間違いなく悪役が使用するような能力だ。

 そしてそういった作品の中ではこの系統の能力でそのまま敵、すなわち作品の主人公を倒すことはまず無い。

 大抵は守るべきものだとか、過去の決意・覚悟だとか、そういった輝かしい理由を出して復活されるからだ。


 しかし僕のこの夢葬・『自閉探索』は、そういった曖昧な理由による術の解除を許さない。

 解除条件は至ってシンプル。被術者の肉体に、外部からの刺激を与えること。

 極端な話、身体にひらひらと飛んできた蝶々が止まっただけでも解除されてしまうような脆弱な能力だが、それだけに術中にある人物に対してはめっぽう強く、本人の力のみではどうすることもできない。

 発動のために相手の頭部に両手で触れる必要があり、且つ解除条件が容易という厳しい制限が設けられているからこそ、一対一の戦闘においてこの能力は非常に強い。



「大丈夫、大丈夫だ。」



 他でもない、自分に言い聞かせるための独り言。

 建物の一軒も、木の一本も、生き物一匹さえも見当たらないこの世界だからこそ、もはや僕の勝利は疑いようがない。

 そう、だから、別にトドメを刺さなくたって問題は無いのだ。


 ……先ほど戦闘中に僕が受けたであろう精神干渉。

 おそらくだが今にして思えば、あれは自身の姿を相手が攻撃するのに抵抗のある人物に変換するようなものだったのだろう。

 事実として僕は躊躇した。

 しかし、その後大した時間経過も無く反撃に転じた僕に今度はエージェントAa015が動揺したのだろう。

 だからこそ夢葬なんて大技が決まったのだ。



「それにしても。馬鹿だなあ、君は。」



 今度は独り言ではなく、聞こえるはずのないエージェントAa015に向けて言葉を放つ。

 そう、馬鹿だよ、君は。

 僕が何故アイ、エージェントIh014をも即座に殺す覚悟を決められたか。

 それは同等の覚悟を既に持っていたからに他ならない。

 僕にとってかけがえのない友である、エージェントAa015を殺すという覚悟を。


 夢葬・『自閉探索』が効力を発揮してから約25分が経過した。

 発動から30分。この時間を過ぎるといよいよ被術者は元の世界へと意識が戻ることはなくなり、事実上死亡する。

 任務に必要な技術でもあるために僕の体内時計は正確だ。

 あと少しで、僕にとっての最大級の障害を排除できる。

 ただ。



「喜ぶ気には、なれないな。」



 ふうとため息が出る。

 視線が地面に向けられる。

 自分のことながら、とても勝者の姿では無いなと思った。

 こんなことではいけない。最強のエージェントを屠った者として、せめて胸を張らねば。

 そう思い顔を上げる。

 だが。






「うおあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」






 向けた視線の先には唸りを上げて起き上がり、今まさに襲い掛かろうとする最強のエージェントの姿があった。


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