Sy10592世界 夢幻領域 【拡張】
『テリトリー』の拡張。
それは精神操作・精神世界・精神共有といった精神に関する領域が過剰発展した世界、Ju00123世界における精神操作技術の発展形。
これを用いて効果範囲内に対象を引き込むことができれば、自他の精神に作用した多種多様な効果を発揮することができる。
その効果は使用者によって異なり、また発動条件も異なる。
だが、発動条件は既に満たした。
俺の発動条件は対面した相手の意識を自分から逸らすこと。
そして効果は「自身を相手の最も戦いたくない相手だと認識させる」というものだ。
ここでポイントなのは俺が変身するわけではなく、相手が否が応でも俺をそう認識してしまうだけだということ。
だから俺は俺のまま戦うことができるし、しかし相手は一方的にこちらを攻撃しにくくなる。
再び意識が俺に向いた瞬間から、相手には俺が最も戦いたくない人物だと思い込んでしまうのだから。
「そ、んな……!アイ……!!」
目を見開き、今までで最も大きな動揺を見せるエージェントAa004。
間違いない。確実に俺の術中に嵌っている。
だが、その言葉にはこちらも少なからず動揺が走った。
この男は世界を巡り、出会ったエージェントを片っ端から殺しておいてなお、最も戦いたくない人物はエージェントIh014だというのか。
エージェントIh014は未だ現役のエージェントだ、万が一にもエージェントAa004と同じように転生者と化して手を組んでいるというような可能性は無い。
ならばコイツは本当に、いったい何のためにエージェントを殺しているんだ……!?
そう、思考を巡らしてしまう。
それはたった数秒のことだったが、お互いの時が止まったかのように膠着した。
――パンッ!!
「!?」
自らの頬を、両手で音を立てた俺に再び驚きを見せるエージェントAa004。
……この期に及んで迷うな!!
目の前の敵を、排除することにだけ思考を働かせろ!!
「射出!魔弾『豪炎陣』!!」
「くっ、氷壁よ我が身を守れ!!」
俺の掛け声とともに、エージェントAa004を取り囲むようにして空中に炎塊が浮かぶ。
俺がエージェントIh014に見えているためだろう。奴は反撃の構えは一切見せず、ただ降りかかる炎に対処しようと周囲に分厚い氷壁を展開させる。
本来、万全の状態のエージェントAa004という男は戦闘行為において化け物だ。
恐るべきはその思考回路。
常に攻めと守りの両方の手札を用意していて、身を守ることと攻撃することが両立する。
だが、今の俺はエージェントAa004にとっての最も戦いたくない人物。
だから、必要以上に反撃を恐れる理由は無い。
「おらぁ!」
「がっ……!」
空中に展開した炎は囮。本命は最大強化した自らの肉体。
俺の身体は氷壁を貫き一瞬にして距離を詰め、そのまま勢いに任せた体当たりを放つ。
「引き寄せろ!」
吹き飛んだエージェントAa004の身体がそのまま宙に浮いた状態で、言葉に応じて俺のもとに引き寄せられる。
体当たりの際に、意図的に気付かれない程度の少量の俺の血を付けた。
そしてその血はマーキングの効果を帯びる。
回数制だが、言葉に応じて対象を自由に動かせる呪いの一種だ。
「くっ、そ……!!」
「喰らえやあああああああ!!」
勢いよく俺に向かうエージェントAa004のどてっぱらに、強烈な右拳を叩き込む。
咄嗟に前の世界でも見慣れた剣で腹を守っていたようだが関係ない。
剣を砕き、痛烈なダメージを与えた実感があった。
エージェントAa004は再び吹き飛ぶ。
……ここからだ。
Gz08917世界、ゲートオブラグナロクでは今のように、良い一撃を入れた優位の直後に大敗を喫した。
しかし今回は条件が違う。
たとえあの時のように空を覆いつくすほどの剣が現れたとしても、この世界での俺ならば対処できる。
なのに、やはり簡単には終わらせてはくれない。
そう思わせるだけの説得力が、奴の眼光には宿っていた。