Gz08917世界 ゲートオブラグナロク 【実証】
「で。
一週間経ったわけだが、意外と出てこねえなあ。黒い騎士。」
「ですねえ。
一連の帰還率減少の原因が黒い騎士で合っているって証拠さえ掴めば、正直なところこの世界の転生者なんて放っておいてもいいくらいの手柄だと思うんだけどなあ。」
床に敷かれた布団にぐったりと寝そべるGx208あらためジーナ。
この世界ではそう名乗ることを決めたそうで、この名前はまだ俺たちが研修制度の師弟関係だった頃からよく使っていた名でもあった。
俺もイガラシと名乗り、二人で都会のアパート一室を借りて同棲生活を送っているのが現状だ。
「まあそうは言いながらも、この世界の転生者には既に王手をかけているようなもんだろ。
まさか見ず知らずの隣の住人が自分の命を狙っているとは流石に思わねえだろうに。」
「今回は絞り込みの精度が高かったですしねえ。
流石に器と好相性の世界・転生者特定済・ベテランエージェント二人配置と、これだけお膳立てされれば失敗する方が難しいってもんです。」
寝そべったまま宙に指を振るジーナ。
見るからに手持無沙汰だが、言っていることは正しい。
転生者であるデルセントは隣室の独身男性であり、当然のことながら毎日朝から晩まで働きに出かけている。
たまにゴミ捨て場で顔を合わせたりもするが、愛想の良い好青年という印象が強い。
しかし彼が実際にやっていることは能力を使った殺し屋だというのだから、ある意味この世界を満喫しているのだろう。
ともかく意識の海での事前情報とこの一週間の独自の調査とで、今回の転生者の情報は丸裸と言って良いくらいに把握しているのだ。
「作戦もとってもシンプル。
1、イガラシが【身体能力強化】で隣室への壁をぶち破る。
2、私が【能力無効】を発動させる。
3、お互いに能力無効の状態で刃物やら凶器を用いてどーん。
わあ、お手軽。」
「おまえはな。
結局実行犯は俺になるだろが。
実行犯にとっちゃあ抵抗される際のある程度のリスクがあるぞ。」
「そりゃあそうでしょ。
まさかレディに殴りこみさせる気ですか?」
「ったく口の減らない……」
この作戦、立案者は俺ではなくジーナだ。
当人が言う通り恐ろしくシンプルな作戦だが、だからこそ防ぎようがない。
十中八九、成功することだろう。
問題は、今回はそれが一番の目的では無いことだ。
「しかしどうすっかねえ、本命の黒い騎士さんの方は。
何でこんなに美味しいエサに喰いついて来ねえのか。」
「さあ。迷子にでもなってるんじゃないですかあ。」
隠す気もないほどやる気無さそうに答えるジーナ。
いくらなんでも迷子はねえだろう、迷子は――
「――そうか、迷子か。」
「……は?」
閃き、呟く俺に訝し気な視線を送るジーナ。
いやはや、迷子って発想はファインプレーだ。
「迷子になるんだよ。普通は。
いくら世界線を自由に渡れようとも、便宜上定められているだけでも世界の数はAa00000からZz99999まであるんだ。
そんな中から手探りでエージェントを狙って世界を渡るなんて、無理だろ。
俺たちが転生反応光の観測なしにテキトーに転生者を見つけて来るようなもんだ。」
「黒い騎士も転生反応光を頼りに、私たちと同じように世界を訪れるってこと?
でもそれじゃあ、今ここにいないのが不自然じゃないですか。」
「逆だ。」
これは、当たりの気配がする。
俺はにやりと笑って見せる。
「転生反応光が消滅したその瞬間・その場所を狙ってるんじゃないか?」
「あ。」
ジーナがガバッと布団から跳ね起きる。
「そっか。
転生反応光が消滅するってことは、エージェントが任務を達成したと考えてほぼ間違いないはず。
その直後を狙えば、ほとんど確実にエージェントと鉢合わせることができるのか。」
「多分な。
おまえ、たしか前の世界で黒い騎士と遭遇したのは転移者の排除後だったんだろ?」
「そう。そうですよ!
はあー、なるほど、流石は極まれに鋭さを発揮する男。多分あたりですねそれ。」
ぱちぱちと手を鳴らすジーナ。
この際、ふざけた無礼は許そう。
そして仮説が立ったならこの後はもちろん。
「実証してみるか。」
「了解です。」