Gz08917世界 ゲートオブラグナロク 【異物】
俺たちの他に人がいないことが約束された暗がりで、黒い騎士に関する体験談が紡がれる。
「もう既に意識の海で聞いているとは思いますが、あれは転移者でも転生者でも、もちろん現地人でもない、他の誰かですよ、きっと。
それも恐らく私たちエージェント、あるいは委員会そのものに強烈な恨みを持った。」
彼女の話す内容を要約するとこうだ。
Gz08917世界・ゲートオブラグナロクに向かうことになる一つ前の任務で、エージェントGx208はFs32632世界での転移者の始末に成功した。
このFs32632世界は言ってしまえばよくある剣と魔法の世界であり、魔物やならず者の存在もあって人の死は比較的起こりやすい世界と言えた。
ゆえにサクッと任務を果たしたエージェントGx208だったが、どうもおかしなことに、その後自分の命を狙う謎の人物が現れたということだ。
ここで自分が人殺しであるにもかかわらず、自分の命を狙われることは『おかしなこと』などと断ずるのには理由があった。
一つ、エージェントGx208が始末した転移者は現地では突然現れた不気味な存在として認知されており、仇を討とうなどという人物は存在しなかったこと。
二つ、黒い騎士との遭遇時は滞在猶予期間が切れる直前であり金目のものなど何も持っておらず、見ず知らずの人物に狙われる要素は皆無だったこと。
だが、実際に彼女は出会いがしらに命を狙われた。
それでも逃げおおせることができたのはひとえに彼女の実力……というだけではなく、魔法が使える世界だったというのも大きかっただろうということだ。
「……ん?
確かに、本来命を狙われるはずのない状況においてなお命を狙われたってのはわかった。
だがその話だと、相手の黒い騎士?が頭のおかしい現地人だった、でも済む話だろ?
どうして現地人じゃないって話になるんだ?」
疑問をそのままにぶつける。
コイツは優秀だ、もちろん何かしらの理由があることだろう。
「その世界、魔術障壁服のおかげで鎧だとか甲冑だとかいう文化が無かったんですよ。
にもかかわらず、黒い『騎士』だったわけです。」
「ほお。」
「明らかに異物なんですってば。
それが一体どういう理屈で存在してるのかはわかんないけど、いたもんはもう仕方がない。」
ふうとため息をついて見せる目の前の女。
両手を挙げてお手上げのポーズで茶化すあたり、やはり俺とタイプが似ている。
「で、意図的に狙われた理由があるとするならば、自分が転生撲滅委員会のエージェントであるってことくらいしか思いつかないと、そういうわけか。」
「まさしく。」
「んで、問題視されてるエージェントの意識の海への帰還率低下の原因がそれじゃねえかと。」
「そのとおり。」
「うーーーーーーむ、マジか。」
思わず唸る。
これは、どう考えても、そういうことにしかならねえ。
「まあ言われるまでもなく、言いたいことはわかりますよ。
黒い騎士に関しては『結局何にも分からない』ってことじゃねえかって、そう言いたいでしょ。」
「そりゃあ確かにそうなんだが、『分からない』ってことは既に分かり切っていたことでもあるからなあ。
正体に繋がる何かしらの情報があれば、とっくに意識の海で情報共有されてるはずだろ?
……それよりも、だ。」
眉間に皺が寄る。
我ながらしかめっ面で言葉を発する。
「お前の話をお前の推測込みでまとめるとだな。
エージェントあるいは委員会に恨みを持っていて・世界線を自由に移動出来て・今までに出会ったエージェントはお前以外全員殺してきた。
そんなヤツが相手ってことになるよな?」
「そうなりますねえ。」
「それってつまり今回の任務、お前をエサにした囮捜査なんじゃねえの?」
「でしょうね。
とはいえエージェントは皆狙われるのなら、一蓮托生ですよ。
守ってくださいね、最強のエージェント、Aa015さま。」
やる気なさげなウインクが飛んでくる。
……これは、しんどそうな任務になりそうだ。